49 アコースティック・シークレットライブ
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日付変わってしまいました……!
シークレットライブです。
翌々日、29回目のライブは本当に小さな場所で行った。個人経営の夜の食堂。昼間は閉ざされたその扉の前に立つ男に、鳥の形をした金細工のレリーフを見せると中に入ることができる。
今回のライブは招待されたものだけが特別に楽しむことができる、シークレットライブのような形にした。
もちろん招待したのは何度もライブに足を運んでくれている『ファンの集い』の者たちだ。それだけではなく、連絡係のフレディに何人か接触させた。
その中にはグロック商会の会長や、イヴァンの婚約者、シーヴェルトの妹もいる。アイドル攫いなどは行わないだろうと信頼した貴族も何人か。
80名ほどの招待客は、アイドルの登場を今か今かと待っている。
その期待が膨れ上がり切る直前。小さなステージの横、天井から下がった布で区切られた空間で、私は待機していた彼らを呼び集めた。
「今日はいつもと違った形のライブだけど……その分、気心知れたお客さんばかり呼んだから……みんな、楽しんでね!」
8人で円になったところで声を上げた。噴水広場以外の場所でライブをするときは、こうして円陣を組んで気合い入れをするようになっていた。アイドルたちも、バックバンドも、もう何十回とライブを重ねて、すっかり頼れるメンバーに育っている。私は何の憂いもない。万が一に備えて袖からだが、しっかりと楽しむ体勢だった。
「きゃああああっ!」
バックバンドに続いてアイドルたちが出ていくと、黄色い歓声が上がる。今日はいつもとは趣向が違ったライブなので、衣装もおとなしい。
おそろいの黒いジャケットに、各自カラーのリボンタイ。夜会に出るように前髪をそれぞれ上げているので、まるで貴族の子息のように見えているかもしれない。
3人がそれぞれの立ち位置につくと、ざわめきはゆっくりと収まっていく。
普段と違うアイドルたちの姿に、ご令嬢たちはうっとりとため息を吐いているようだ。
うんうん、カッコ良いよね~。私も3人が着替え終わって姿を表したとき、うっとり見上げてしまったもの。
「鳥です! 今日は、お集まりいただきありがとうございます!」
シリルが口火を切ると、歓声と拍手で室内が満たされる。それはしばらくおさまることはなく、今日のライブをみんながとても楽しみにしていたと分かって嬉しく思った。
その声が落ち着きはじめたタイミングで、シリルは再び声を上げる。いつもならばそこで曲が鳴り始めるのに、そうならないことに気づいた客がほとんどだった。いつもと違う。それは彼女らを期待と興奮の渦に巻き込んでいく。
「今日はいつもと違う形でのライブになります。……曲を」
そうして始まったイントロは、いつもの元気な音とは違う。柔らかなヴァイオリンの音。そしてドラムは静かにシンバルの音を立て、ベースではなくヴィオローネの調べ。トランペットは、この曲では悪いけれど出番がない。1曲目は完全なるアコースティック形式で雰囲気をガラリと変えたかったのだ。
観客たちは突如始まった美しい音の連なりと、いつものように踊ることはなく、真剣な表情で歌い上げるアイドルたちをうっとりとした瞳で見ている。
2曲目はトランペットも入り、ジャズテイストで挑んだ。ダンスは軽いステップくらい。こちらも好評で、ムーディな大人の雰囲気に10代のファンは頬を真っ赤にして目をキラキラさせていた。
ふふふ……大人の魅力を存分に味わってね!
私はにまにまとだらしのない笑みを浮かべてアイドルたちやバックバンド、そして時折客席を確かめる。不審な動きは当然なかった。彼女らは皆、アイドルに夢中だ。祈るように指を組み合わせて、背伸びをしてアイドルたちを見る彼女らを覗き見ていると、私は充足感でいっぱいになる。
この国で暮らす彼女たちを今日も喜ばせることができた。それが嬉しい。
「――ありがとうございました!」
楽しい時間はあっという間に終わってしまう。またたくまに3曲目も終わってしまった。拍手と歓声に包まれたステージ上の鳥たちは、嬉しそうに囀って頭を下げた。
「翌週、水曜日に鳥はある場所へ降り立つこととなりました」
シリルの宣言に観客がざわつく。これまで毎週日曜日の昼に、という前提で彼女たちはアイドルを見つけ出してくれていた。気まぐれな鳥のように曜日も時間もバラバラにしてしまっては彼女たちは追いかけきれず、いつしか興味を失ってしまうだろう。
だから来週のゲリラライブのために、今回はシークレットライブという形を取った。いつもと違う曜日でもしっかりと追いかけられるように、羽ばたく鳥が羽を休める場所を伝えるのだ。
「今回と同じ方法で、場所を伝える。……良かったら来てくれよな」
チェスターのぶっきらぼうなキャラクターは、不器用な騎士のようだと貴族や商人のご令嬢に非常に人気が高い。
「皆さんにまた歌を……届けます」
消え入りそうなクリスの繊細な声に、ご令嬢たちはうっとりと聞き入る。中性的な美貌は未だに男性なのか? 女性なのか? とファンたちを騒がせている。
「ぜひ遊びに来てくださいね」
満面の笑みと共にシリルがまとめ、彼女らは彼の声を必死で呼んでいた。名を呼べば手を振り返してくれるからだ。今日もシリルはファンサービスが上手で、名を呼ぶ声に応えて手を振り、ウインクまでして彼女たちの歓声を呼び込んでいた。
今日のライブも大成功だ。私は嬉しさで胸がいっぱいになった。
こうして支えてくれている人たちがいるから、アイドルは活動することができる。今はこうした人達を増やしていく時期だ。まだまだ小さな熱源である彼らがもっと大きく温度を高めていくまでは、くすぶって消えてしまわないようにしっかり守らなければ。
今日のライブも、楽しかった!
私がそう思ったのだ。お客さんたちもきっとそう思ってくれているはず。
客席を見る。一目瞭然の笑顔たちを盗み見て、私は小さくガッツポーズで一人前祝いをした。
ゲリラライブお預けですみません。
記念すべき30回目のライブがゲリラライブになります~!
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