48 生徒会への根回し
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根回しします。
「面白いこと、したいと思いませんか?」
乗り込んでいった生徒会室で、私はそう自信満々に言い放った。
昨日、王立学園でゲリラライブをしたいという話をクリスにしたら、非常に懸念されてしまった。式典は教師も参加しない生徒会主導の無礼講のものとはいえ、万が一があってはどうすると言われ――改めて考えたのだ。
一晩、私は考え直した。そして出した結論は――。
やっぱり、許可くらいは取っておこうかしらね。
殿下は大仰な警備を嫌う。だから常にシーヴェルトやエーギンハルトたちを置くことで、近衛兵を学園内には入れなかった。だから殿下に危害が及ばなければ、きちんと手引きした侵入者が捕まる心配などありはしない。
とはいえ、美しいクリスが憂い顔のままステージに立つのは、私としては嫌だった。
というわけで……来たわよ、生徒会室!!
乙女ゲームで言う生徒会は、攻略対象が巣を作っていたりするのが定番である。例に漏れずこの学園の生徒会も、上位貴族が軒を連ねる――はずだった。
生徒会選挙は秋行われ、2年生を中心に排出される。そして1年が任期である。つまり、去年留学をしていた殿下とエーギンハルトという筆頭候補が学園にいなかったのだ。彼らがいなければヴィンツェンツやシーヴェルトが立候補するはずもない。
つまり、だ。はっきり言って今期生徒会の知名度というのはかなり低いと言っていい。正直、メンツが地味なのだ。攻略対象はいないし、イケメンもいない。
現在3年Sクラスの伯爵子息を筆頭に、Aクラスや2年生も交えてほそぼそと行われている。
私もすっかり忘れかけていたけれど、『生徒会選挙がイベントに組み込まれているらしい』というのが私が知っている乙女ゲームとしてのこの学園の行事の一つだった。
おそらく、今年の秋に現在2年のディートリヒ、イヴァンを攻略対象としているときにイベントが発動するのだろう。
私はそんなことを考えつつ、机に手をついて立ち上がる。視線の先には生徒会長でありクラスメイトでもあるヘニング・ヒルデブラント伯爵子息。はっきり言って毎日同じ教室にいてもほとんど記憶に残らないくらい、とっても地味な男の子だ。
茶色の髪に茶色い目。身長は私よりちょっと大きいくらい。おどおどとした視線はウロウロしていて、上座にいるものの完全に私の視線に気圧されてしまっている。
「面白いこと……というのは?」
「ハッキリ言います。今期の生徒会……どこか物足りない!」
「うっ」
「私は在籍して3ヶ月ですが……その間に生徒会が何か目立った活動をしたという話を聞いたことがありません!」
「……そ、それは」
「来週の終業の式典も、大した目玉はないんでしょう?」
「そ、そもそも! 式典に目立つも何も……」
反論してきたので、じろっと睨んでみる。周りにいる生徒会のメンバーたちは、会長と私の会話をただ見守るしか出来ない様子だ。
「殿下にスピーチを打診されたりは?」
「そんな、殿下はお忙しくていらっしゃるし……そんな大それたことはとても!」
「なら、これまでも王族を招いてただ座らせていたと?」
「確かに……去年の生徒会は事前に手配されて、陛下より素晴らしいお言葉を……」
「そうです。去年はやっているのに、どうして今年はやっていないのですか?」
「で、ですが……殿下にはとても恐れ多く話しかけられず……」
「クラスメイトなのに?」
「ク……クラスメイトだからこそです! 僕は2列目だし、1番の殿下に何かを願うなどと……!」
ヘニングはぶるぶる身体と声を震わせながら涙ぐむ。
2列目というのは実力テストの際の席順のことだろう。たしか彼はフィリーネの次だったか。窓際から2列目の後ろから2番目。7番目なら大したものだと思うが、彼にとってはそうでないらしい。
乙女ゲーム的には名もなきモブであろう彼が、攻略対象や悪役令嬢と思しき人物の次につけているのならばなかなかだとは思うのだが。
とはいえ失礼ながら、本当に印象がなくて……。
「では、殿下は諦めましょう」
「へっ?」
むしろ殿下が何かをするという予定がなくて、こちらとしては好都合だった。
「その代わりに式典に華を添える、良い案があるのです。聞いていきませんか?」
「キャロル・フォルケル嬢……あなたは一体……」
「ふふ……式典を派手に盛り上げたいのです。そして、生徒会の知名度向上に勤めたいと思いまして。この式典が実質、あなた方の最後の仕事になるのでしょう?」
夏季休暇が終われば生徒会選挙があり、そして演奏会がある。
演奏会は新生徒会の最初の大仕事となるのだ。もちろん大掛かりな行事なので教師や前生徒会もサポートをするけれど。彼らがメインとなる行事は来週の式典で終わり。そんな最後まで地味なままで良いのか、と私は彼らを煽る。
「一体、何を……」
「伝手があるのです。鳥をご存知ですか?」
「鳥とは……あの、広場や駅舎などに現れるという話題の……!?」
生徒会長は首をかしげたが、右隣にいた副会長の女子生徒は良く良く知っているらしい。興奮したような声を上げる。私はにやっと笑った。
「知り合いが鳥が公演をする場所を探していると。そこで私は、式典を推薦したのです」
「なっ……! そんな情報をどこから……!?」
「ある伝手ですわ。でも、確実な情報でしてよ。彼らは歌える場所を探しているのだそうです」
「確かに聞いたことがあります。鳥は神出鬼没で、どこにでも現れ、聞いたこともないような素晴らしい音楽を歌っていくと……」
興奮した副会長の言葉に、部屋の中はにわかに盛り上がっていく。地味な生徒会として終わりたくないと彼らの顔は言っていた。
「で、ですが……! 式典はもう一週間後だ。もう準備もほぼ終わって……!」
「10分いただけるだけで構いません。それでも難しいですか?」
「しかし……」
「会長、良いじゃないですか! 10分くらいなら予備の時間で十分間に合います!」
「そうですよ会長、大きなことしたいっていつも言っていたじゃないですか! これが最後のチャンスなんですよ……!」
会長の左隣にいた、2年らしき少年もそう盛り立てた。部屋の中はやりたい、という意識でいっぱいになる。会長も次第に勢いに飲まれ……。
「そ……そうだよな。うん。これはチャンスなんだ……!」
興奮気味に言う会長ににっこりと満面の笑みを向けてやる。カアアッと赤くなった彼の顔を見て、私はほくそ笑んだ。
「そうです。損はさせませんわ。では……計画をお話いたしますね――」
根回しは成功した。後は来週を待つばかり――。
非攻略対象を手のひらでころころするのなど朝飯前の様子です。
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