44 海賊版グッズを発見してしまいました
※帰省から戻ったので更新再開します。
夏休みに向けて話を進めていきます。
イヴァンの婚約者とヴィンツェンツの妹を招待した18回目のライブ、その朝のことである。
「あら……?」
今日のライブ会場は市民館だが、私は噴水広場の様子を偵察していた。アイドル達を捕まえて囲ってしまおうと貴族たちが狙っているから、それへの警戒のため。そして、流行が生まれる場所でもある噴水広場の、市場の状況を確認するためだ。
そこで私は発見してしまった。リボンにメダイがついたシンプルなブレスレット。庶民向けのそれは子供でも背伸びすれば買えるくらいにはリーズナブルなものだった。だが問題はその色だ。
「赤に青に緑……定番な色ではあるけれど。でも、この並び……それにメダイのデザインが鳥……ねぇ」
明らかにアイドルグループ鳥を意識した意匠だった。庶民の女の子たちのなかでも『ファンの集い』を知らない子たちが、それを買っていくのを目にする。店主の男はしたり顔で彼女らからコインを受け取っていた。
今ここにいる彼女らは、おそらく今日のライブを見ることができないだろう。開催場所を教えられないのは胸が痛む。だがそれと、ブレスレットの件は全く別物だ。
私は深呼吸をしたあと、その店に近づいた。
「朝から雑貨屋が出てるなんて、珍しいのね?」
「ああ、いらっしゃい。うちは朝早いんだ。良かったら見て行ってよ」
アイドルたちがやってくるのは昼前と決まっているから、それまでの時間にやってくるファンたちを狙っているのだろう。
明らかな便乗商売だが、この噴水広場では店を出すための許可は必要ない。もちろん訴えがあれば商会ギルドが調査に乗り出すが、この出店に関してはかなり微妙なラインだろう。なんせ、色と鳥の意匠だけだ。言いがかりだと主張されればそれまでだ。
「きれいなブレスレットね!」
「ああ、これか? これは俺の新作なんだ。良いだろう? キミみたいな可愛い女の子にぴったりだよ!」
「ふふっ、ありがと」
今日の私は地味メイクをしているが、セールストークで思い切り持ち上げられて微妙な笑顔を浮かべてしまった。
「日曜日には良く売れるんだ。今日も売り切れたら終いだから、早めに決めると良いよ」
「そうなの。きれいな色だから、気になるなぁ」
アイドルたちのことは言わないけれど、日曜日というワードにピクリとしてしまう。明らかに、分かっている発言だ。
これは……慣れているのかもしれないな。
こういう便乗商売で食いつないでいる常連なのかもしれない。そうだとしたら、ここで何かを言っても言い逃れられるだろうし、最悪逃げられる。ここは泳がさないと……。
「そうなの。おひとつくださいな」
「もちろん。どの色にする?」
「妹たちへのお土産にしたいから、三色くださいな」
「まいどあり!」
私は紙袋に入れられたブレスレットを持ったまま、市民館の方へ移動した。
「それで、これが『グッズ』ですか?」
「海賊版のね」
チェスターにブレスレットを見せてみると、興味なさげに見てすぐに戻してくる。
「お嬢様が夜会に行く時につけていらっしゃるブレスレットの方が素敵です」
「そりゃそうでしょう。これは庶民の子供向けのものだから」
「そういうものですか? でも、お嬢様がつけたらこのリボンだってきっと素敵です!」
「はいはい、ありがとうねチェスター」
それにしても、こんなに早くこういうものが出回るとは。商売人の嗅覚を舐めていたわ……。
「本当は、こっちで似たようなものを出すつもりだったんだけど……」
アイドルカラーのグッズは定番だ。未だ設立者の目処はたっていないけれど、『小規模劇場』が完成した暁にはグッズ販売を開始しようと思っていた。
クリスがお茶を淹れながら、心配げに眉尻を下げている。
「先に出されてしまうと後追いになってしまいますね?」
「それでも、公式グッズには敵わないわよ。でも、先駆けて公認グッズを売り出すっていう予定は潰えたわね……」
公認と海賊版の区別を庶民につけさせるのは非常に難しいのだ。まだちゃちなリボンブレスレットで済んでいるうちにどうにかしなければならない。そんなときに公認グッズを売り出せばきっと便乗は更に増える上、いろいろうやむやになってしまうのは目に見えていた。
「ん~、やっぱりグッズ販売は急務ね……あ。その前に、何か配布するのはありかな?」
ぶつぶつと考え出した私を、アイドルたちは放っておいてくれる。いつも、私が答えを出すまで待ってくれるのだ。
うーん。薔薇はたまに演出として投げているけれど、あれは特別感のあるプレゼントというていだものね。
やっぱり今日みたいな市民館みたいな建物系のライブのときに、入場か退場のときに手渡しするのが一番良いかしら。
でも、途中で貴族たちがやってきたら早めに切り上げたりしている今の状況で、配布系を用意しておくのはかなり負担よね……。
「んん~、やっぱり早く貴族たちをなんとかしなきゃ……」
「苦戦していますね、お嬢様」
「そうなのよシリル。何か良い案はないかしら……?」
「やはり貴族というものは特別を欲している気がします。貴族たちだけを呼んでライブをするなどの特別扱いが必要では?」
「それは私の理念に反するのよねぇ……」
シークレットライブというていで招待するなら、『ファンの集い』の初期メンバーを誘いたいと思う。最初からこの子たちを愛してくれているのは彼女たちだからだ。
それに鳥を貴族の思惑に巻き込みたくない。彼らはみんな庶民だから、貴族のどろどろした部分を知ってほしくはないのだ。
「プロデューサー、そろそろ時間ですよ」
ヴァイオリンのベルティが割り込んできた。確かにもう予定の時間まで5分もない。私は慌てて立ち上がる。
「よし。――みんな。今日もよろしくね! 楽しんできて!」
そう声をかけ、私は扉の向こうへ彼らを送り出した。
そしてすぐに裏口から外へ出ると小走りで市民館の入り口に回り、客のふりをして建物の中へ入る。
「みんな! 今日も楽しんで行ってくれ」
回り込んでいる間にライブは始まっていた。シリルの声に、ファンは高い歓声を上げている。
私はちらっと客席の中央を見た。そこには予定通り、イヴァンの婚約者ドロテアと、ヴィンツェンツの妹エミーリアの姿があった。
彼女らは私がイヴァンに伝えたとおり、地味な服を着てきてくれている。とはいえ色が地味なだけで生地はかなり良いもののようで、貴族なのは丸わかりだったが。
だが噴水広場に現れるクルマン子爵夫人のように、見るからに貴族と分かるようなレースとリボンまみれのドレスではなかっただけマシだ。
陽気な音楽に合わせて踊るアイドルたちを、彼女らは楽しんでくれているようだ。頬を赤く染めて、うっとりとした瞳で魅入っている。指を組んで胸元に押し当てているのがいじらしく、私はつい微笑ましく思ってしまった。
彼女たちみたいに善良な貴族ばかりなら楽なのに。
アイドルが客を選ぶなんて、と思わなくもない。だがここは現代の常識でいれば確実にまずいことになる。貴族は特権階級で、彼ら、彼女ら自身もそれを自覚している。むちゃを平気でやってくるのだ。人さらいなど、騎士団が親身になってくれるはずもない。貴族ならまだしも、さらわれたのが庶民であってはなおさらだ。
楽しそうに歌い、踊る彼らを守りたい。
プロデューサーとして、あの子たちの雇い主として、強くそう思う。
そうだ。私が絶対に、アイドルを守り抜いてみせる。
私はライブを見ながら、改めて決意を固めるのだった。
チェスターの忠犬ワンコな感じ、書いていてとても楽しいです。




