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42 公開オーディションと指名システム-3

お嬢様、スカウトします。

 うぅ~。あ~~~言いたくない。


「仏頂面でどうした、キャロル嬢」


 昼休みだというのに教師に頼まれてしまって、書類を纏めていた。こういう奉仕活動も学園生の立派な勤めの一つである。

 それは別にいい。問題は、たまたま近くにいたエーギンハルトも一緒に頼まれたことである。今日殿下はお休みだった。近隣国から外務大臣が来訪されているとかで謁見に駆り出されているとか。もちろん祖国のことではなく、ノイシュテッター王国と外交や流通上でつながりがある友好国だ。


「いえ……エーギンハルト様は本日ご登校されたのだなと思いまして」

「ジークとセットなのが当たり前だと思われるのはあまり好かない」

「申し訳ございません」

「いや、構わない。ずっと隣りにいるのは不本意ながら事実だ。……ジークはあれでも王太子として優秀だ。僕の手を煩わせるのは、最近はある一つの事柄についてだけだな」


 ジロッと睨まれながら言われるので、私は嫌でも自分絡みのことだと理解してしまう。


「全く、ジークはどうして貴女が良いんだろうな」

「面白がっているのかと」

「まぁ、否定はしない」


 良く、思い出し笑いをしている。なんて、聞きたくもなかったことを言われて心がシクリと鳴る。やっぱり殿下は私のことをからかっているんだと嫌でも自覚させられたから。


 もぅ……そういうこと、言われなくても分かってますから!


「ところで……エーギンハルト様は、演奏会の楽器はヴィオラでしたよね?」

「そうだが……」


 話の方向性にピンときていないのか、エーギンハルトは不思議そうな顔をした。私が殿方に誘いを受けまくっていることは聞き及んでいるらしく、そんな私がわざわざエーギンハルトを誘うなど頭にないのだろう。


「シーヴェルト様から推薦を受けまして、私も貴方がたのグループに混ぜていただきたいと思っているのですが」

「貴女が?」


 エーギンハルトは珍しく、鹿爪らしい顔になって何かを考えている様子だった。意外に思う。先程からの会話の中でも全く休めなかった手すら止めている。


 なんだ……即答でばっさり切り捨てられると思ったのに。


 意外に思っていると、エーギンハルトは天井を見上げて、はーっと息を吐いて、向き直る。


「貴女は知っているか? シーヴェとフィリーネ嬢のこと」

「今日知りました」

「なるほど」


 エーギンハルトはフィリーネとのこと知っているんだ。私も詳細を聞きたかったけれど、今日に限ってフィリーネはお休みだった。何でも今日はゲッツェ家主催の茶会があるとか。令嬢であるフィリーネは主催側として参加必須の会だ。

 貴族は社交界シーズンにはそういう理由でよく学園を欠席するので珍しいことではない。


 それにしても、エーギンハルトも知ってるなんて。私は知らなかったのに……。


 フィリーネは私のこと、信用していないのかな。友達だと思っていたのに。でも、私はフィリーネと仲良くなってまだ3ヶ月くらいだから、そんなものなのかな。


 彼らは幼い頃からずっと一緒なんだろうし……。


「暗い顔をしているな」

「いえ……エーギンハルト様はいつから知っているのかと……」

「最初からかな。あいつらはわかりやすいから」


 その最初が知りたいんですけど!! でも、直接フィリーネに聞くべきかと思って口を噤む。


「皆様、幼い頃から仲がよろしいのですね」

「それは、当然だろう。僕たちは将来ジークを支えるために生まれてきている。くだらない仲違いなどしていては国が乱れるからな」


 高尚なお考えに驚くが、そういうものなのだろう。殿下と同い年で、上位貴族。幼い頃から親や周りから言い聞かせられてきたのだろうし、それが常識である世界だ。


 私は考え方も今の状況も、異端なのね……。

 そりゃ、警戒されるわけである。


「演奏会の件だが……もちろん問題はない。ちょうどフルートを探そうという話になっていたから。貴女の実力はよく知っている」


 シーヴェルトと同じようなことを言った。もちろん彼は面白くもなさそうに、だが。でもとても意外な展開だ。こうもあっさり、OKを貰えるなんて。


「何か言いたいことでも?」

「正直、意外です。エーギンハルト様は私のことを……気に入らないというような行動をよく取られていますから」

「全てはジークの望みのままだ」


 また殿下の名前が出てくる。一体、男たちで何の話をしているんだろう。演奏会に関わっていないと聞いているのに、この話をすると必ず殿下の名前が出てくる。

 不思議と穏やかな時間が過ぎていることにもびっくりだけれど。


「まぁ、せいぜいがんばってくれ」


 ああ、でもきっとエーギンハルトよりも厄介なのが待っていると、彼も知っているからかもしれない。


「ヴィンツは手強いからな」


 淡々と書類を纏めながら、そんな風に言うのだから。




 ***




 ヴィンツェンツと会話をしたくなかった私は、まずは一応面識があるイヴァンの元へ行くことにした。


 器楽準備室。そこに彼がよくいることはすでに知っている。どうも、2階にある準備室の窓の下に演習場への道があるのが要因らしい。彼は辺境伯子息であるためか、訓練にはかなり熱心だとか。


 でも、実は個人的に話したこと、全然ないのよねぇ……。


 ほぼ面識なしのディートリヒよりは話しやすいかと思ったけれど、私が知っている彼はここで眠っているのを一方的に見たことと、ヴィンツェンツに絡まれているのを助けてもらったときに煽るなと軽く怒られたことくらいなのだ。


 うーん、全く仲良しになれる気がしない……。


 しかし準備室でふたりきりって大丈夫かな。不安に思って、私は扉を少し開けたままにした。本当はフィリーネがいればと思ったが、今日は休みだし。他についてきてくれる女子生徒の知り合いは皆無である。

 私って本当に友達少ない……。


「あの……すみません」


 三人がけのソファに窮屈そうにに丸まっているイヴァンを見下ろし、私は思い切って声をかけた。騎士を目指している男ならば、私の気配なんて余裕で気づいているだろう。


「……誰?」


 案の定、声と共にゆっくりと目が開いたようだった。横になっているせいか目元を覆っている紫のうねった前髪のせいでよく見えなかったけれど。


「キャロル・フォルケルと申します。イヴァン・クレムラート様でいらっしゃいますよね?」

「そうだけど、なに?」

「少しお話をしたいので、起き上がっていただけないでしょうか」


 シーヴェルトと違って本当に眠っていたのか、目尻に涙を浮かべてあくびをしている。それでものそのそと起き上がり、椅子にどっかりと腰掛けた。攻略対象の中でも1,2を争う背の高さで、180センチを越えているだろう。そんな彼は座っていてもなんとなく圧力があって、私は足を一歩下げてしまう。


 いけないいけない、怯んでいる場合じゃない! 話をしないと。


「それで、話ってなに?」

「演奏会のことなのですが……」

「ああ……フルート志望? 一体どこから話を聞きつけてきたんだ。全く、今回新しい人を入れるなんて無茶だと思わない? 言い争いの種だよね」


 は、はぁ……と言いたいのをぐっとこらえ、乱れた前髪を更に乱している彼を呆然と見下ろす。


「俺は反対だよ。ご令嬢をあのうさんくさい男たちの中に入れるのはね。気苦労するに決まっているし」


 なんとなくだが、彼はいい人なのかなぁと思う。心配しているんだと気づいて私はちょっと笑顔になった。


「あれ、でも君って確か……キャロル・フォルケル……なんだっけ?」

「私に聞かれましても……何か噂を聞きまして?」

「ええと、フォルケル、フォルケル家……ええと……ああ、そうか。もしかして、シーヴェから聞いた?」

「はい、ご明察です」

「誘いたい人がいるっていうのは聞いてたよ。ジーク絡みかぁ。でもさ、別に俺に許可をとる必要ないのに」

「え、そうなんですか?」


 そういえば、シーヴェルトは『エギンとヴィンツにまだ言っていないんだ』と言っていたっけ。ディートリヒとイヴァンにはもう話が通っているのか。

 まぁこの2人は後輩だし、拒否権なんてないのかも。なんとなく殿下を除く攻略対象全員を攻略しないといけない気持ちでいたけれど、勘違いだったと分かって少し恥ずかしい。


 ところでさっき、また殿下の名前が出たんですけど。これは何かの罠なのか?


「それより俺にヴィンツ兄さんの説得をお願いしたほうが良いよ」

「……そうですわね。お願いしてもよろしいですか?」

「見返りがあるの?」


 出た。この展開である。全く、攻略対象は一筋縄ではいかないのだ。

意外にも態度が軟化しているエーギンハルト。

でも殿下が何か企んだ結果のようです。

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