38 陰謀が渦巻く社交界です-1
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前回から少し日が経っています。新たな夜会話。
目が眩むようなファーストダンスを経験して、私は貴族の仲間入りを果たした。
翌日から、山盛りになるくらいにお茶会や夜会の招待状をいただいた。お断りの返事を書くのも大変なほど、そりゃもう大量に。
「モテモテねぇ、さすがキャリー」
そんな風に笑う義母の横で、ひたすら手紙に目を通す私。午後のお茶の時間にも手紙は次々届けられるので、読むだけでも時間がかかる。
昨日の夜会では阿鼻叫喚すぎて速攻帰る羽目になった。だからこそ次の一手である招待には気合いを持って臨みたい。
義母の顔を潰さない茶会と、義父の顔を立てる夜会に参加を決め、了承の返事を書いていく。1番近い茶会は明後日だったりして、期限があるので返事の順番にも気を使ったり。
貴族活動、非常に面倒です!!
翌々日には6月の実力テストがあって、朝からご機嫌麗しい殿下にさんざん意地悪をされて涙目になった私だった。それでも気合でテストはオール満点を取り、再び殿下と肩を並べた。
そういえば、殿下すっごく嬉しそうな顔してたなぁ。
蕩けるような微笑みとはああいうことを言うんだろう。結果を一緒に見たときにそんな笑顔を惜しげもなく浮かべて「来月までもまた、切磋琢磨し合いましょう」なんて。とてもじゃないけど表情と台詞が合っているとは思えなかった。もっと甘ったるいことを言う時の顔よ、あれはっ!
ドキドキしすぎで心臓が飛び出すかと思った。顔に出さないよう必死だったわ。
殿下は臆面というものがない。まるで口説いているみたいな台詞を平気で言ってからかってくるのだ。それは恋を知ったばかりの私には非常に刺激が強い。つい現代人の私が顔を出して、あー、うー、えぇーなどと言いそうになる。
侯爵令嬢のプライドに賭けて表に出さないようがんばっているけどね!
そんなこんなであっという間に一ヶ月。今日は7月1日、月曜日だったので早々に実力テストがあった。
そして今日の夜は、ある貴族主催の夜会に招待されていた。7月は丸々1月白夜であり、夜会のハイシーズンであるため、ほぼ毎日どこかで夜会が開かれている。
なので私はテストが終わるとすぐに帰宅し、すぐ夜会の準備に入った。風呂やらマッサージやら、令嬢の夜会準備にはやることがたくさんあるのだ。
コルセットの苦しさにもだいぶ慣れてきた。クリスが嬉々として締めてくるので毎度苦しみと殺意を浮かばせているが、仕上がった細い腰をうっとり見つめられて褒められるのはちょっと嬉しい。……ん、これってちょっとアブない思考?
「お待ちしておりました、キャロル・フォルケル侯爵令嬢」
召使いたちに頭を下げられながら私は廊下を進む。
今日の夜会はやや規模が大きな催しだ。その分人も多く、広間に入るとすでにかなりの人がいた。
主催は領地に大規模鉱山を持ち、貴金属から宝飾までの売買を行う商会も立てているビアホフ伯爵家だった。
商会の規模はかなり大きく、ジュエリー業界としては最大手と言ってもいい。かなり儲けているらしいので伝統を重んじる貴族は成金など言う者もいる。
しかし、ビアホフ領地から出るダイアモンドはかなり良質なものだった。それに細工もデザインもかなりクオリティが高く、文句を言いつつも購入者が続出しているのが現状だった。
そんな、宝飾商会の中でも屈指のところが主催のため、この夜会にはかなりの数の商人当主や子息、ご令嬢が参加される予定だった。
私が今日の夜会に出ると決めたのは、上位商会とのつながりを持ちたいというのが理由だ。
アイドルのパトロンを作るつもりはない。
だが、私にはどうしてもやりたいことがあった。
そのための人脈作りだ。ビアホフ伯爵は若いながら非常に切れる方であり、貴族のくだらない派閥にも属さないため、招待状を送ってもらうツテを作るのはなかなか大変だ。
申し訳ないが義母やビエラー侯爵夫人のお力を借りて、私個人への招待状を送ってもらった。
義母宛ての招待状に令嬢として参加するんじゃ、舐められるかもしれないからね。
広間を歩きながら、噂話を拾っていく。
「知っているか、ブラッハーの倅がまたやらかしたらしい」
「あそこの息子は本当に節操がないな」
「一体どれだけのご令嬢を泣かせば気が済むやら……」
右側の中堅穀物商会当主が中心の輪では、ライバル商会の息子の醜聞。
「貴女もう聞きまして? ダナー商会の当主がエメラルドの鉱山を買わされたって。そこ、もうほぼ閉山しているのに、情報操作されていて知らなかったんですって」
「まぁまぁ。あそこももうおしまいかしら」
「待って、わたくしまだダナー商会でオーダーメイドした商品を受け取っていないわ!」
「フフ、情報が遅くて損をしたわね」
左側の男爵夫人が中心の輪で小規模ジュエリー商会の失敗話。
切れ者伯爵が主催の夜会だとしても、そういった噂話を聞かないほうが珍しい。貴族も商人も等しく悪口を好きな者がいるのだ。
ふと、可愛らしい小鳥のような囀りが聞こえて私は近づいていく。
「フォーゲルの次の公演の場所をご存知?」
「わからないわ。いつだって神出鬼没なのよ、彼らは。常識には囚われない場所でもこだわらず、歌やダンスをされているのよ」
「ああ、またお会いしたいわ、雨様……」
「貴女は雨様がお好きなのね。私はやっぱり棘様だわ、あの女性のような美しさ……なのに力強いダンス……ときめいてしまいますわ」
「何をおっしゃっているの、炎様に適う者などおりませんわ。いつも中心で素敵に踊ってらっしゃっているんだもの!」
「待って、この間、私見ましたの。雨様が中心で踊ってらっしゃったのよ。最後にはとびっきり素敵に空中ジャンプされて。『バク転』と言うんですって」
「それ、私も見ましたわ! 最後にお話される時、少し恥ずかしげにされていました……とっても庇護欲をそそられましたわ。もう何度も見ていますけど、やっぱり雨様が3人の中では1番ですわ」
「まぁ、貴女もあの場所にいたんですのね。それに、何度も見ているの。……フフ、だったらとっておきの情報を今度教えて差し上げますわ」
「何かしら、私だって知りたいわ!」
「ダメよ、まずは彼らの公演に3回は通って頂戴」
商会の家のご令嬢たちの会話は、最初は潜められていたけれどだんだん大きくなっていっている。私はアイドルたちが褒められているのに心の中でにんまりと笑いつつも、リーナを中心とした『ファンの集い』に参加するメンバーがいることも確認して少々荷が重くなった。
こういう場所で話が広まると、貴族が近いから厄介なのよね……。
今や、夜会は貴族だけのものではなくなっている。大手商会主催のものだってあるし、そういう場所に貴族が招かれることもある。今回のようなパターンもかなり多い。
次のライブの場所をフレディが『ファンの集い』に伝え、場所を転々とする方式はまだ続いている。今の所、貴族が大挙して押し寄せるというようなことはないが、お忍びルックでやってくる貴族のご令嬢は明らかに増えていた。
こうなってはもう、貴族に強引に囲い込まれるのは時間の問題だ。
このままでは埒が明かないので、私は『小規模劇場』の設立をもくろんでいた。
現代日本にあった某アイドルの専用劇場のようなものではなく、どちらかと言えば誰もが使える市民館やライブハウスのようなものだ。
この国の劇場といわれる代表的なものといえば、ヨーロッパによくある彫刻と柱が目立ち、バルコニーに半個室の座席が置かれているようなものだ。舞台の前にはオーケストラピットがついていたりと盛大かつ格式があり、座席は据え置き。つまりスタンディングのライブには全く適さない。
王都だけでも国営と貴族経営と、大手商人経営のものが数軒存在する。
小さな劇場もあるが、大抵は中堅から小規模商会主催の専用劇場。そういうところでかかっているのは商人から庶民向けの演劇。
スケジュールはしっかり決まっているし、穴埋めでたまに借りることはできても定期的にライブができない。さらに、そういった劇場はセキュリティが甘いので、非常に危険なのだ。
貴族に狙われているこちら側だけでなく、客側の貴族も危険だと判断しているのでなかなかやってこない。
大規模劇場くらい大きな商会か貴族がバックについていて、セキュリティがしっかりしてるけど、専用劇場くらい規模が小さくて、申請すれば誰でも利用できて、できれば音が綺麗に響く形で……と、そんな希望を盛り込んでいくと……。
そんな場所、ないです。
ってなるのよね。
ないなら作ればいいじゃない。っていうのが貴族のお約束だと思うけど、フォルケル家は武官の家なので商会とのつながりは『お得意様』以上にはなり得ない。
うちが新たに商会を作って小規模劇場を作るには、コネも資金も時間もかなりどころか全く足りなかった。
なのでできればうちのアイドルたち専用というわけではなく利用申請すれば皆が使えて、でも貴族でも入りやすいセキュリティを有していて、最新の設備が整った『小規模劇場』を作りたいと思っている大手商会か貴族を探したい。
それが私の今日の目的だった。
専用劇場化しないのは、そうしてしまうと後ろ盾の商会や貴族にかなりの裁量を渡してしまわないといけなくなるから。そうしてしまうと私が思う『みんなのアイドル』という方針が捻じ曲げられる可能性がある。
あの子たちを守れるのは私だけだ。貴族や商会の派閥争いや利権争いには絶対に使いたくない。
だから私はアイドルたちのことを話すことなく『小規模劇場』を作りたいと思わせなければならない。
骨の折れる仕事だと思う。だが、何とかやってみせると決意を拳に込めたのだった。
お嬢様のアイドル活動への憂いを晴らしていきますよー。




