33 新たなるファンと出会いました
読んでいただきありがとうございます~!
たくさんの方に読んでもらえて嬉しいです。
時系列が前後しますが、前回の話の日のライブです。
※誤字修正しました。ご指摘ありがとうございます!
――フレディと『密会』を行う数時間前のこと。
「久しぶりの噴水広場だけど、お客さんたくさん来てくれてるみたいだからがんばってね!」
そんな掛け声に答えてくれたアイドルたちは、フードを被って素早く荷馬車から出ていった。
さてと、私も行こうかな。
記念すべき10回目のライブである。誘拐でもしそうな貴族たちを出し抜くために3回、違う場所でライブを行った。油断しているだろう頃合いの今日、久々に元の場所へ戻してみることになったのだ。
今回は用心棒もひっそり紛れ込ませたし、大丈夫かな。
商会ギルドで荷運び以外にも貴族たちが来たら近くでそれとなくマークしてくれる人材を雇っている。人前で強引な真似はしないと思うけど、果たして。
いつものように、ファンを装った庶民の格好で私は観客に紛れ込む。
――と、人が多すぎて前の方は無理ね。
リーナを筆頭とした『固定ファン』たちは20人を越えた。彼女らが最前列を占領するようになってしばし経つ。
今日も彼女らはうっとりした瞳で情報交換を行ったり、前回のライブの感想を語ったりしているようだ。バラ色の頬に浮かぶ笑顔。楽しそうで何より。
今日は後ろで見ようかな。
噴水広場は、噴水の円形に沿ってベンチが置かれている。少し離れた場所に置かれたそこに座れば、噴水を遠巻きに見ることができるのだ。
ステージからちょうど正面の位置に向かえば、そこには先客がいた。
「すみません、お隣に座っても良いですか?」
「ええ、もちろん」
三人がけベンチの右側に座っていたのは祖母くらいの年齢の、ちょっぴりふくよかなおばあちゃん。髪は綺麗に白くなっていて、もともとの髪の色は明るい茶色だったのかなと思う。瞳の色は深い茶色。ペールイエローの上品で清楚でシンプルなドレスを着て、真っ白の杖をついている。
象牙かしら。もしそうだったら裕福な商人か下位貴族の夫人かもしれないととちらっと見るが、失礼かとすぐ目をそらす。木製に白いペイントだったら普通に庶民だろうけど、この距離だとちょっと判断がつかないかな。
「ねぇお嬢さん、ちょっと良いかしら?」
「何でしょう?」
「この前の人たちって、最近良く聞く『噂の殿方たち』を待っている子で間違いないかしら?」
どうやらおばあちゃんにまで噂が伝わっているらしい。私は嬉しくなって肯定し、彼女にここで毎週のように何かが起こっているらしいと伝えた。
「最近はなかったようなのですが、この人だかりですから今日はありそうですね」
「そうなの。なら良かったわ。先週も来てみたのだけど、見られなかったから」
先週はステージがある庶民がよく利用する大衆食堂でライブを行った。この噴水広場からは場所が離れているし、ライブを行っているという話をここで聞いたとしても、終わるまでにはたどり着けなかっただろう。申し訳なくて顔を曇らせかけたが、ぐっと留める。
いけないいけない。今の私はただの通りすがりの庶民。お忍びなのよ。
「……そうなんですね。――あ、はじまりそうですね」
「え?」
「ほら、あそこに人が」
私が指さしたところにはフードを被ったアイドルたちがいて、ちょうどステージの端にたどり着いたところだった。彼らは背が高いので、女の子ばかりの観客から頭一つ飛び出ている。このベンチからも、ちらちらとその顔が見えた。
時間を無駄にしないよう、言って聞かせている。ライブはすぐに始まった。
刻まれる早いビートに、早いメロディ。私はおばあちゃんが驚いてしまっていないか心配で、ちらちらと横を見ながら鑑賞する。
彼女は驚いて目を見張っているが、次第に音楽に身を任せるように聞き入り始めた。どうやらお気に召したようだ。この遠さだと、イケメンかどうか分かるかはギリギリかなぁ。
そんなことを考えている間にもライブは進んでいく。
うんうん、いい感じ。
今日は全部終わった後にちょっとしたサプライズを用意している。10回目だというのに新曲を用意できなかったお詫びもこめたとっておきだ。
「まぁ……すごいのね」
曲の合間にそんな声が隣から聞こえてきて、私は嬉しくてにっこり笑ってしまった。おばあちゃんでも気にせずアイドル文化を楽しんで欲しい。前世でもそういうツワモノはいたみたいだし。
女の子たるもの、トキメキは常に近くにないとねっ!
ライブが終わると、拍手が鳴り止まない。さっきまで通行人だった者も立ち止まって拍手してくれたりと、嬉しい時間だ。
ここで、いつもならすぐに立ち去るのだけど。今日はバックバンド組だけが素早く立ち去って3人が残る。そして、真ん中に立ったシリルが一歩前へ出た。
「私たちは『フォーゲル』という名前の『アイドルグループ』です! 今日は見に来てくれてありがとう。よろしくお願いします」
アイドルが初めて喋ったことに、観客はざわりと声を上げた。シリルはそんな動揺にも全くめげず、極上の笑みを浮かべて観客を悩殺している。
「私は炎、そして彼が雨。こちらが棘」
シリルの自己紹介と、続いてチェスター、クリスの名前を伝える。この名前はそれぞれのイメージカラーから連想された単語を宛てがった。やっぱり本名だと身バレにつながるし、芸名ってやつね。
他の2人はMCが不安だったので、シリルの紹介に頭を下げたり、手を振るに止める。そして、そこで私はすっとシリルに目配せした。すっと左に視線を滑らせる。
そこにはデリア・クルマン夫人と、お付きが現れていた。どこかで待機していたようで、ライブの音を聞いてやってきたらしい。気づいてはいたが、ライブの最中は手を出してこないだろうと目を配らせていたのだ。
本当はMCもうちょっと用意してたんだけど、今日はもう難しそうね。
彼らはじりじり近づいてきているのだ。
シリルは私の合図に気づくと、素早くフードを被って右側に去っていく。チェスター、クリスも同じ方向へ。
「あっ! 待て!」
そんな反応をして慌てているのが見えたが、逆方向では分が悪い。人混みを避けきれず、撒くのは容易だろう。私は彼らを見送りながら、ほっと息を吐いた。
ふう、今日もなんとか大丈夫だったみたいね。
「……ねぇ、貴女」
「はい?」
「あの方たち……『フォーゲル』だったかしら。すごいわねぇ」
「本当ですね! 私、彼らの名前初めて聞きました。ずっと騎士様って呼んでいたんです」
「そうなの。……私、とても気に入ったわ。また来週も散歩がてら、来てみようかしら」
来週はこの噴水広場で開催できる確率は低い。だが、伝えることはできない。私は、そうですね、と言うことしかできなかった。
ライブは一期一会。でも、今は出会えるかどうかすら博打。それはまだ安定していないから。それはちょっと悔しいところだが、徐々に改善していきたいと心から思った。
おばあちゃんでも気軽に楽しめる、そんな文化にしたいな。
私はプロデューサーとして、心にくっと芯が入ったような気分だった。
「それじゃあ、私は帰るわね」
「あ、私も。おばあさま、またもし来週出会えたら」
「ええ、来週またお会いできたら」
嘘をついていることに少々胸を痛めつつも、私は手を振った。
そして未だ人がたむろっている広場を適当に歩くふりをして、デリア・クルマン夫人たちのところにそっと近づく。
「また逃したわね……」
「あちらもこっちの動きに気づいているかのようですね」
「くぅぅ……次こそ逃さないわよ!」
なんだか、子供向けアニメの敵役のようである。ハンカチ噛んでキーッ! みたいな。さすがにやっていなかったけど、苛立ったように扇子をパニエでふわっと膨らんだスカートに打ち付けていた。
ふふ、ちょっと面白い。
「あの、すみません」
「はい?」
デリア・クルマン夫人たちから離れようと動き始めた瞬間、後ろから声をかけられた。振り返ると、そこには仕立ての良い服を着た青年。20代前半~後半くらいで、ストレートの茶髪に黒っぽい目が濡れているように印象深い人。
中堅商人のボンボンってところかしら。私はそんな判断をする。
「さきほどいた彼らについて、知っていることがあれば教えていただけませんか?」
「さぁ……私はたまに見かけるくらいですので、詳しくはわからないのですが」
「それでも構いません。いろんな方に聞いているんです」
私は日曜日にこの辺りに現れるらしいとか、最近は来ていなくて久々に来たとか、名前を初めて聞いたとか、当たり障りのないことを伝える。
「ご親切にありがとうございます。あ、私はアーガトンと申します」
庶民だと家名はないので名乗らない。商人だと商家名があり、貴族だと貴族名がある。彼は家名を名乗らなかった。だが、庶民であるようにはとても見えない。仕立ての良い服やその立ち振る舞いが上品だからだ。たとえ庶民でも、しっかりした商会で勤めている方だろう。
彼もアイドルを気に入ったのかしら? それとも音楽?
それとも……貴族に依頼されて?
私は警戒はしておくに越したことはないと判断した。そっけなく、微笑する。
「いえ、大丈夫です。それでは失礼しますね」
ナンパかもしれないと警戒して、こちらは名乗らない。
そんな対応はこの場合失礼には当たらないだろう。私はすすっとその場を去って、ちらっとステージがあった場所を確認。しっかり楽器の搬出が終わっていることを見てから、噴水広場を立ち去る。
うーん、プロデューサー以外に外で使う名前も作っておくべきかな。
こういう世界では、ためらわずに人伝という方法が使われる。
現代日本とはぜんぜん違う。前世なら、わからないことがあればまずネット検索。情報もそこらじゅうにあふれているし、識字率も完璧だからポスターやらチラシでも、得ようと思えば人に聞くなんてことしなくて済む。
でもこの世界ではそうじゃない。噂という伝聞や、会談で話が伝わっていく。
コントロールできるようで、しきれないそれ。
これからもやっていくには、やはり安定する『なにか』が必要だと思った。
既存キャラ掘り下げたい気持ちと
新しいキャラ出したい気持ちで戦っています…
↓の評価や感想、ブクマなどいただけると非常に嬉しいです!
よろしくお願いします!




