32 お嬢様と庶民の密会現場
読んでいただきありがとうございます~!
たくさんの方に読んでもらえて嬉しいです。
密会現場です。
ライブをするときに荷運びを頼んでいた男のうちの1人にフレディという者がいた。
日がなフラフラしている、ちょっとチャラい感じの青年。よく依頼時に都合が良いことが多かった彼は、日雇いの仕事についているとは思えないくらいには良くできた。リーナ嬢と思われるファンからの伝言を聞いたのもこの男だ。
そんな彼を、私は少し前から便利に使っていた。主にファンたちへの伝言だったり、情報収集だったり。夜の酒場なんかには私は行くことができないので、彼が聞いてきた噂話を情報として買っている。
「へぇ、男の人にも噂伝わってるんだ」
「そういうのに敏感な商人が中心ですね。少し年が行った、貴族たちとも商売を通じて関わりがあるような者たちです。見たことあるのは南側にある毛織物商会のオッサンと、通り向こうにある穀物商会のオッサンですね」
「なるほど、お金を持ってる中堅から大きな商人たちね」
「そういうことじゃないですかね?」
フレディは貴族のことにはさほど詳しくないが、私の頭の中にある情報と組み合わせればいろいろな真実が見えてくる。
「うーん、そのうち貴族のワガママでそっち側に捕獲の依頼が来ることもあるかもねぇ」
「そういえば、この間つけられました」
「えっ」
「うまいこと中心街に入って撒きましたけど、やっぱり荷馬車じゃ目立ちますね」
「ドラムセットが大きいから、隠すにはあのサイズが必要なのよね……」
日曜日の夕方、10回目のライブ終わり。ある宝飾店の個室の中で私たちは『密会』していた。お得意様がゆっくりと商品を見るためのここは、椅子やテーブルが置かれた4畳ほどの部屋。紅茶なども出てくるし、部屋と部屋の間も開いているので内緒話には最適だ。
フレディは物慣れない庶民がおどおどしながら店に入るというような完璧な演技を披露してくれたが、部屋に入るとどっかりと椅子に座る姿は妙に肝が座っている。私含め、貴族に対して物怖じしない性格は使えると思う。今は情報を貰えたら報酬を支払う形にしているけれど、追々正式に雇いたいと思っていた。
「荷運びの日雇いは毎回変えてるんだけどねぇ」
「それでも俺がやる回数が増えてるし、あからさまに狙われてる感じはありますね」
「あなた、髪の色がちょっと目立つものね……」
瞳の色は平凡な暗い茶色だが、髪の色が金色寄りの茶なので、庶民にしては目立つのだ。外で働くことが多くて色が抜けてしまったと言う彼の髪はパッサパサで、トリートメントでも差し入れしようかと悩む。
「ウイッグでも用意させましょうか?」
「そうですねぇ、何色かあると便利かもしれません。『お嬢様』たちにも認識されつつあって。この間、雑貨屋で声かけられましたから」
「あら、モテモテねフレディ」
「あんまり嬉しくないですよ。お嬢様、40代くらいだったし……」
ふふ、と笑う。それにしてもフレディは髪色はともかく容姿は平凡で、スパイに向いている系統と言えるほどだというのに。ファンたちに見つかるほどとは……。それだけ彼女たちが目敏いのだろう。なんせ、噴水広場で数分のゲリラライブという突発的過ぎるアイドルを見つけ、あまつさえファンでいるのだから。
アイドルやバックバンドたちは基本的に外出をしないから、その代り日雇いたちが目立っちゃうのね……。
ちなみに『お嬢様』というのはファンたちの隠語である。
「まぁ、ひとつひとつ対処していくしかないわね。ウイッグは早急に手配して水曜日には渡せると思うわ。そのときに次の『公演先』も伝えます」
「はい、了解しました」
こうなると、そろそろ突発でも外でやるのは厳しくなってきたかな。
駅舎でやったみたいに、施設でやるのが安全かなと思う。今回は久々に噴水広場に戻ってきたが、前回、前々回のライブは市民館と、ステージのある大衆食堂でゲリラライブしてみた。どちらも新たな客層を取り入れられたと思う。
ファンたちはもちろん、フレディから情報を得ていつも最前列で応援してくれていた。
「それにしても、すぐ貴族に情報が漏れるかと思ったけどそうでもないですね。あの女の子が随分と統率を取ってくれてるみたいで」
「ああ、彼女は貴族だから」
庶民ばかりのファンたちだが、あの中で実質リーダー格となっていた男爵令嬢は、貴族のことを良く理解して警戒してくれているらしい。とてもありがたいファンであるし、とても仕事ができそうなので正直スタッフとして引き抜きたい。
まぁ正体をバラすつもりはないからダメなんだけどね……。
「えぇ? そうは見えなかったなぁ。なんだか地味だし、いつも探すのに苦労するんですよね。最近彼女たちも集まる店の場所を変えたりしてるみたいで」
「ふふ、あの子ってすごいステルス能力を持ってるわよね」
「それでもプロデューサーには負けますよ」
今日噴水広場で視察していた私はリーナを見習ってステルス能力を高くしてみた。メイクはいつも以上に地味になるよう調整し、服も髪色も没個性を目指してみたのだ。
今は宝石店にいるのでしっかりお嬢様なスタイルだが、その落差にフレディは驚いているようだった。
ちなみに私は今濃い茶色でウェーブのかかったウイッグを身に着けていて、銀髪であることはフレディにも内緒だった。
「貴女って変な人ですよね。貴族をあんまり見たことない俺だけど、それでもそれなりに見たことがあります。この店で立ち番してたこともあるし。それなのに全く見かけない顔してる。これまで街には一切出てきてなかったんです? 深窓の令嬢ってやつ?」
「秘密よ秘密」
「ガード硬いなぁ……。まぁでもあの変装で出てきてたなら見かけなかったのも当然か……」
フレディはちょっと女好きなのが玉に瑕だ。ファンたちには絶対手を出さないように言い含めているし、彼女らはアイドルに夢中だからそこまで心配はしていない。けれど、なにかトラブルがあってからでは遅いので慎重にもなる。
話が終わると、フレディはさっさと立ち上がった。
「じゃ、俺はそろそろ行きますね」
「ええ、またよろしくね。フレディ」
部屋を出ていくフレディに手を振って見送る。
ふう、と息を吐いたら、部屋の隅で口も手も出さず、微動だにせず私たちを見守っていたクリスがおもむろに近づいてきた。
「お嬢様、新しい宝石はどうでしょうか?」
「そうねぇ、あんまり気に入るものはなかったわ」
「でしたら店員を呼んで回収させます」
「お願い」
流石に男とふたりきりはまずいのでクリスも同席させていた。とはいえクリスも男なのだが、それを知る者はこの店にはいないので問題ない。
「さてと……来週の場所の目処は立ってきているけど……そろそろ良い『箱』が欲しいなぁ……」
ライブハウス100キャパくらいの規模で……いや200あったほうがいいかな……。とはいえ、貴族の財力で作ると一発で誰がやったかバレちゃうし……うぅん……。
「まだまだ前途多難ねぇ」
ぬるくなるを通り越して冷たくなり始めた紅茶で唇を濡らしながら、私はため息を吐いた。
新キャラーと言いつつちらちら出てきてた、器用貧乏青年。
こういうデキるけど力の無駄遣いしてる感じのキャラが好きです。
↓の評価や感想、ブクマなどいただけると非常に嬉しいです!
よろしくお願いします!




