25 雨降る駅舎で屋内ライブ
ブクマ、感想などとても嬉しいです~!
だんだんキャラの名前が増えてきて、ひーこら言いながら命名しています。
実力テスト直前ですが、テスト勉強は置いておいてライブです!
実力テストを翌日に控えた5月5日、日曜日である今日は恒例のライブの日だ。
あいにくの雨だったが、私はこれがむしろ慈雨となったと笑みを零した。
私は拳を握って気合を入れると、少し懐かしいと思える場所へ足を運んだのだった。
***
これまで、4月には計4回のライブをした。新曲発表をした4回目のライブ。そのあとに2回行っている。
翌週の5回目のライブでは、明らかにライブのために待っている女の子が増えていた。
噂になっているのは間違いなく、実際私が庶民の格好で雑貨屋や食堂に行ってみると『噴水広場に現れる見目麗しい殿方たちの噂』はかなり広まっているようだった。やはり10代から20代の女性が中心だったが、噂好きのおばさんたちも頬を染めて語っているところも目撃できた。
そして6回目のライブでは、あからさまな貴族の夫人がお付きを引き連れて鑑賞にやってきた。
馬車で乗り付け、派手なドレスに羽つき帽子、扇子で口元を隠す――というあまりにもわかりやすい出で立ち。髪や瞳の色や雰囲気、それに馬車についた紋章のお陰でどこの家の者かはすぐに分かった。
クルマン子爵家夫人であるデリア・クルマン夫人だ。茶色い髪に亜麻色の瞳。快活な笑顔は好奇心を隠していない。元は男爵令嬢で庶民に混じることにさほど抵抗がないタイプだからこそ、わざわざ乗り込んできたに違いない。
彼女自身はビエラー侯爵夫人のお茶会で一緒になった、チェリウス伯爵夫人と仲が良い。あのお茶会で話が出たライブのことを彼女が調べ、結果クルマン子爵夫人が噂の真相を確認しに来ることになったのかもしれない。
彼女はドレスが汚れることを嫌ったのか少し離れたところで鑑賞していたが、非常に満足されていたように感じた。
だが、最後にアクシデントが起こった。ライブ終了後、二手に分かれて去っていくメンバーを、彼女のお付きの者が追いかけ腕を掴み、声をかけたのだ。
私はやや警戒していたので、彼女の近くにいた。なのでそっとそこに近づいて他人を装う。幸い、捕まえられたのはセンターであり執事見習いのシリルだった。彼なら上手いことやってくれると信じられる。
「失礼。こちらの夫人が君たちのことを好意的に評価しておられる」
「はい、ありがたいことです」
「これから夫人の家へ赴き、彼女の専属となることを夫人は求められている。ついてきてもらおう」
あーやっぱり出ると思った、囲い込み。
庶民の間だけでなく、茶会などで女性の間ではかなり噂が広まり初めているようなのだ。そうなったら、社交での話題となったアイドルたちを貴族は放っておかない。必ず囲い込むだろうと分かっていた。
その対策のためにも身バレしないように変装や、帰りのルートを変更したり、着替え用の宿を毎回変えたりしていたのだけど。やはり人前に出る以上、その移動中に捕まえられると弱い。
しかもこちら側にリスクが高いので本当に痛いところだ。きっと貴族にとっては声をかけられることこそ栄誉なんて言いそうだし、嫌がって逃げようとして暴れると、あっという間に噂になってしまうだろう。
「そうですか。ですが、申し訳ありませんがプロデューサーに話を通していただきたい」
「プロデューサー、ですか?」
「はい。このステージを作った方です。その方は僕たちをプロデュースしているので、僕たちにあなた方についていく判断をする権限はありません。――失礼いたします」
シリルは笑顔で躱し、相手が聞き慣れない言葉に戸惑っている間に腕から手を払うと、さっと人混みに紛れていった。
よしよし、ちゃんと言った通りに煙に巻けたわね。
その背を見送りつつ、私はクルマン子爵夫人たちの会話を盗み聞きした。
「逃げられたわね」
「申し訳ありませんっ!」
「すぐ追いかけなさい!」
「ですが、この人混みでは……」
「くっ……そうね。今日のところは諦めましょう。次回は倍の人数で行くわよ。なんとしても捕まえて囲い込まないと。あちら方が出てくる前に」
捕まえて囲い込むとはずいぶんと物騒である。というか、あちら方とは。
私は、悔しそうに馬車に乗って立ち去った彼らを見送り、ふむ、と思案する。
貴族には複雑怪奇な人間関係がある。派閥、取り巻き、もろもろ、いろいろなことだ。侯爵令嬢である私はその一部始終とは言わないまでも、それなりのところまでは把握しておく義務があった。そうしないと、厄介なことに巻き込まれるのは自分だからだ。
以前のお茶会で一緒だったのが、主催のビエラー侯爵夫人と誘われた義母であるフォルケル伯爵夫人、チェリウス伯爵夫人、そしてバルナ伯爵夫人。
バルナ伯爵夫人がメイドが目撃したというライブの話をして、チェリウス伯爵夫人は非常に興味を抱いていた。
チェリウス伯爵夫人というのは茶会で私を過剰に褒めてた方なんだけど、ちょっとそういう俗っぽいところがある。何というか古き良き伯爵夫人というか、いい人ではあるんだけど本当に貴族っぽい人なのだ。
そしてその方と仲が良い、先程のクルマン子爵夫人はいわゆる彼女の子飼いというか取り巻きというかそういう方である。この人も悪い人ではない……好奇心旺盛すぎて突進してしまうタイプだが、先程のように失敗した使用人を人前で容赦なく叱責するような人ではない。だがいかんせん、短慮である。こんなところで堂々と声をかけて囲い込みなど噂になるぞと私は言いたい。
そして、このお二方と非常に仲がよろしくないのがボウマー伯爵夫人だ。おそらく『あちら方』はこの人のことだろう。彼女も貴族らしい貴族なのだが、流行とドレスと、3度の飯より悪口が大好きってタイプの女性である。
チェリウス伯爵夫人は褒め言葉の裏側に潜む言葉でちくっと刺すタイプなので、陰口を叩いたり直接嫌味を言うボウマー伯爵夫人とは、ある意味で正反対と言える。
そしてこの2人が同い年なのだが、とっても仲が悪い。非常に仲が悪い。夜会では目も合わせないなんて言われるほど犬猿の仲なのだ。
急にクルマン子爵夫人が乗り込んできたのは、きっとボウマー伯爵夫人がアイドルたちを余興に茶会へ連れてくるわホホホ、とでも言ったことが発端なのだろう。焦ったチェリウス伯爵夫人に命じられ、慌てて直接確保しにきたに違いない。
うーん、アイドル獲得戦争かぁ。
これは厄介。来週は場所移動しないといけないな……。
ずっとあの場所を使っていればこういう事態になることは予想できていた。少し残念だけど仕方ない。固定ファンは増えてきたし、こういうときのために対策は考えている。
しかし、アイドルは手に入れるものじゃないんだけどな。観賞用だよ?
まぁ貴族には分からないか……。
***
そんなことがあって、私は一週間案を出してはみんなと相談し……いろいろなことを決定した。
ひとまずは噴水広場からは場所を移さないといけないだろう。愛着があったが仕方ない。
だが問題が一つ。あの場所以外だと、大抵は許可が必要になってくる。噴水広場の許可がいらないというのがそもそもイレギュラーなのである。なにか催し物をするときは施設の利用許可を申請書に記入して許可を取る、というごくごく普通の手順が本来は必要なのだ。
幸い、施設の利用許可を管理しているのは商会ギルドだ。毎週金払いの良い日雇いの依頼を出す私はお得意様となっていたので、あっさりと担当者にお目通り願えることになった。
そして利用許可を取った場所がここ。
私が最初にやってきた、王都終着駅である駅舎である。
ガラスの丸天井が美しい、技術の結晶が詰まった建造物であるそこ。雨の日でも光は入ってくるし、むしろちょっと薄暗いからこそ雰囲気があると思っている。
ステージには美しい光を放つステンドグラスのランプをたくさん置いた。鈍い光が浮かぶそこは、きっとステージまるごとがオブジェのようにひとつの世界が存在しているように見えるだろう。
「ふう……今日は初めての屋内ライブね! ちょうど雨で良かったわ」
「本当ですね。更に幸いなことに小雨ですから、出歩く人も多いと思います。たくさん見てもらえると良いですね」
「そうね。今日もよろしく頼むわよ、センターさん」
シリルの肩にぽんと手を置くと、笑顔で返された。
駅員用の会議室を借りることができたので、今日はそこで着替えや音合わせを行った。全員で一緒に出ていって、そのままライブを開始する構成だ。ドラムセットはすでに設置済み。
ステージは、駅舎入ったところにある広場の時計台の前。
駅は蒸気機関車のための線路が8本並んでいる。その4番線と5番線の間――中心には立派な時計台が置かれていて、その周りにはベンチや花々が飾られてちょっとしたスペースが存在する。待ち合わせや出迎え、あとはここで演奏会を行うこともあるからそのためだ。ステージ用の木でできたお立ち台も駅舎に用意があったので、借りることができた。
ちなみに、駅舎には現代のように改札などは存在しない。機関車に乗るためにはチケットを駅舎入って右側にあるチケット売り場で購入し、そのチケットを機関車に乗り込む際に見せるシステムなのだ。
だから、蒸気機関車に乗り降りする客だけでなく、わざわざライブのために来てくれる人も、気軽に見に来ることが可能だ。
え、いきなり場所変えたのにお客さん来るのかだって?
それはもちろん、ぬかりはありません。
「さあ、行くわよ。――今日も楽しませてね!」
「「「「「「「はいっ!」」」」」」」
そんな言葉と共に8人で輪になって手を合わせ、気合い入れをする。天に上がった8本の手のひら。すぐに視線を下ろすと、全員キラキラとした目をしていて、嬉しいと思う。
勝手に巻き込んだみたいなものなのに、みんながんばってくれるし、やりがいを感じてくれている。練習に励んでくれるし、私にいろんな意見や信頼をくれる。それが嬉しくてしょうがない。
私はにっこり笑って、ひとりひとりと目を合わせた。
そして、意気揚々と扉を開けた。彼らを促し、ステージへ向かわせる。
「きゃあああっ!」
嬉しそうな声が響いて、私は笑みを深めた。
そこにはいつも来てくれる女の子たちが、今か今かとアイドルたちを待ってくれていたのだ――。
なぜ常連さんたちがきっちり駅舎へ来れたかは、次回に明かします。




