22 推しの王子様に身バレしました-2
甘々推し殿下と、苦々しい側近候補と三つ巴。
※昨日は更新できず申し訳ありません。
更新できない日はできるだけ活動報告に書くつもりです~。
「言っただろう、きちんと情報が分かるまで近づくなと! あれほど!」
ああ、やっぱり私、いろいろと疑われていたのね。
回廊の柱のところに引っ張っていかれたジークフリート殿下は、側近候補であるエーギンハルトに怒られている。
小声で話しているつもりなんだろうけど、あの、風向きが良くて聞こえてしまっていますよ。あの慎重にして不敵っぽい性格にしては迂闊ね。そんなに焦っているのかしら?
「だから、彼女が何かするはずないだろう。それに、あの国に何ができる?」
「その意図が分からないから警戒を……!」
「彼女は痛ましい事件の被害者だ。理不尽な目に合わされているだけにすぎない」
ああ、王子様。
なんだか分からないけど、すっごくかばってもらっている。
嬉しい。嬉しいけど、ルビーの瞳がめっちゃこっち睨んできてます。
エーギンハルトは殿下に口で勝てないらしく、はぁ、と深い溜め息を吐いて鮮やかな赤の前髪をくしゃりと手で掴んだ。その表情もどうしたもんか、という感じだ。
ふぅん、2人ってこんな感じの主従関係なのね。
ふふ、何だかいけ好かないエーギンハルトの意外な一面を見た! って感じ。
「……まぁ、あそこにうちをどうしようなど、考えたところで無駄か」
「お前、彼女に成績で負けて悔しいんだろう?」
「なっ……!」
やっぱり殿下、もうテストの結果知っているんだなぁ。まぁ当たり前か……。
しっかし男2人が顔つき合わせて、ちょっと距離が近くない? 幼馴染ってそんなもの? 人を避けて生きてきた前世と今世。経験値はほとんどないお陰で他人のことは全然分からないわ……。
って……。なんだか、殿下と目が合っている、ような……?
「キャロル」
ええええなんっ、その王子様スマイルはっ!?
胸が、胸がトキメキで痛い……。ていうかまだ呼び捨てっ!
「ジーク、あなたは……っ!」
「何だ、キャロルが言ったんだ。呼んでくれとな」
「貴女、そんなことを言ったのか?」
「ええええっと……誤解がある、と申し上げたいです」
あーっエーギンハルトにめちゃくちゃ睨まれてる。こっわ。対象的に殿下はめちゃくちゃいい笑顔です。
ふたりは内緒話をやめたのか、こちらに近づいてくる。
しかし、人払いでもしているのか全然誰もやってこないわね、と思ったけど……もしかしてもう昼休み終わっているのかしら? これってサボり……?
サボりって、生まれる前から初めてかも……。
「誤解? そうなのですか、キャロル」
「私が『以前の名』を呼ばないで欲しいと申しましたときに『キャロルとお呼びください』と言ったのですが……」
もうエーギンハルトにもとっくにバレているんだろうから、この際開き直るわ。
あの腫れ物状態のクラス内で、殿下に呼び捨てとかされたら……完全に苛め対象よ! 恐ろしい……。
「ほら」
「ジーク、それは貴方の思い違いだ。普通、自分に敬称をつけて呼んでくれとは言わないだろ。察しろ」
「曖昧な言葉は得意でなくてね」
「ジーク……」
なっがいため息。分かる、分かるわエーギンハルト!
あんたとはあんまり性格が合わなそうだけど、今だけは意見を一致させてあげる!!
「以前のように呼んでくださいませ、殿下」
「ジークで良いんですよ、キャロライン嬢」
「……っ!!」
だーかーらー違うの!!
殿下、絶対わざとでしょ……これ……。なんで私、いきなり王子様にいじめられてるの!?
あーしかし推し殿下が思ったよりいじわるかつ茶目っ気のある性格で私は……ちょっとだけときめいている自分がいることが恐ろしくて……。
推しフィルターってすごいね!!
「う、うぅ……」
「ジーク、貴方とあろう方が淑女を前にして……なぜそんなに子供じみた真似をしているんだ?」
「いや、ははは。まぁ、あまりにも他人行儀だったから、ちょっとね」
拳で唇を隠して腰を少し折り曲げている殿下は、もしかして笑っていらっしゃる? えっその御尊顔を拝みたい!! 王子様スマイルを!! 覗き込んだら不敬かしら?
というか、やっぱりからかっていたんですね……。
「……ひどいです、殿下」
「キャロル嬢。久しぶりに会ったのに『はじめまして』なんて言われたので、少々意地の悪いことを言ってしまいました」
「いえ……」
王子様は謝罪しない。でも、そこが良い……。
ちょっと気が抜けたような笑顔をこちらに向けられてしまったら、許しちゃう。ちょろいと言われても構わない!
「お詫びに何かしたいのですが……」
「いえいえいえ、これからクラスメイトになるのです! お気遣いは無用ですわ!」
「そう? でも少しくらい……」
「ジーク、いい加減にしてくれ」
「分かったよ、エギン」
降参、とばかりに両手を上げてため息を吐き、殿下はようやく納得してくれた。
ああ……しかし……一筋縄ではいかない人なのね、殿下。イケメンで、カリスマオーラがあって、いい意味で傍若無人だなんて……上に立つものそのものの基質ね。次代も安泰と言わざるを得ないわ。
「……ところで、この際だから聞いておこう。キャロル嬢」
「はい……」
「貴女は何のためにこの国へ?」
うー、やっぱり逃してはくれないようだ。こうなったら直接聞こうということね。
エーギンハルトは私を思いっきり怖い顔で睨みつけ、見下ろしている。口調も慇懃で恐ろしいったら。取り調べかよ。
でも、もはや秘密とか言ってられないわ! こちらの王族に睨まれたら社交どころじゃない。また追放されてしまう!
「コンラッド殿下より『追放』との命を受け、私の父、カーティス公爵から母方の親戚の家へ養女に上がるように指示を受けました」
「……まぁ、無難な受け答えだな。カーティスの名でこの国へ乗り込むよりは利口だ」
さすがに家名出して社交界に出たら、後進国でもバレちゃうというか、調べがつきやすすぎる。わざわざ調べて意地悪をする貴族がゼロというのはありえないから。
お父様は私をかばってくださっている。その結果、この国へ来たのよ。ここで、隣国からのスパイ、みたいな不名誉な誤解を受けるわけにはいかないわ!
「全て父の采配でございます」
「エギン、言った通りだろう。カーティス公爵は信頼できる方に見えた。この国にキャロル嬢が来たことに意図などないと」
「しかし……」
「お前は少し感傷的になりすぎる。私のことが心配なのは分かるが、警戒しすぎだ。たった一人の令嬢に、何ができる?」
そうそう、言っちゃってください殿下。
公爵家だからって実は闇の組織とか、そういうのは物語の世界だ。令嬢である私は剣も持ったことはないし、乗馬だってサイドサドル。ズボンすらほとんど履いたためしがない。
私自身にも、前世の知識で多少護身術を習得している程度。でも、今の私の体力じゃとてもじゃないけど役には立たない気がするわ。ご令嬢って本当に腕力ないんだもの……。
こちらに来て一緒にレッスンして、楽器の練習もやっているから、ちょっと力ついてきた気がするけどね!
「……申し訳ない、キャロル嬢」
「いえ……謝罪は結構です。私も、怪しい存在なのは分かっておりますから。ですが、父は残り一年の学園生活の間で身の振り方を考えろとおっしゃってくださいました。そしてその結果祖国へ戻っても良いし、こちらで働く選択肢すらあると。私は自由だと言ってくださったのです」
「自由……」
「はい。祖国では婚約者としてかなり窮屈な生活を送っていましたので」
お父様のことを思い出すと今でもちょっと涙腺が潤んでしまうわっ。
ぎゅうっと手のひらをスカートに握りしめながら言った私を、エーギンハルトはようやく信じてくれたようだった。
「理解した。だが、ジーク共々の貴女への無礼、このままというわけにはいかない」
「いや、だから……構わないと……」
「いえ。このままでは腹の虫がおさまりません。……ジーク、どうしようか?」
「そうだな……」
えええ、ここでまた殿下まで出てきてしまうの!?
い、嫌な予感しかしないんですが……。
「鎌をかけようとした僕のせいでクラスでも少し浮いていてね。そちらもついでにどうにかしたいんだが」
「エギン、お前は淑女に対して容赦がなさすぎるだろう」
「そこは反省している。そのかわり、きちんと最後までフォローするつもりだ」
男2人はあーだこーだと言い合いはじめて……私はすっかり蚊帳の外。
私が当事者のはずなのに……おかしいわ……。
しかし、これは午後一発目の授業は完全にサボりね。
なんとなく罪悪感と……ちょっとしたわくわく感。これはなんという感情なのかしらね?
「……そうだな。それが良いだろう。――キャロル嬢」
「っ、はい」
「貴女には悪いですが、来週の実力テストでもう一度エギンたちと競ってもらう。そこでぜひまた全教科満点を取ってもらいたいところですが……まぁ、心配はいらないでしょう。貴女はとても優秀ですから」
「え、は……?」
「もちろん私も参戦させていただきます。そこで『女王』になっていただけば、我々がその臣下に下りましょう」
ジークフリート殿下はそう言うと、あろうことか騎士のように私の前で跪いて……手を取り、手の甲に唇を――。
あ、ひゃあっ!?
――いや、声、出なかったよね!? 不敬になってしまう。危険よ。
手が、手の甲がじんじんして熱い。手のひらもじんわり温かくて……。一体どうして殿下が跪いているのか……私にはさっぱりわかりません!
「もちろん、私も全力を出して貴女に挑みます。全教科満点なんて、何度も取ったことはありませんから」
「ジークはケアレスミスが多いからな」
「エギン、あんまり苛めてくれるなよ」
「だったら今の状態から彼女を解放してやれ。かわいそうに、顔が真っ赤じゃないか」
ああ、私顔が真っ赤なんですね。
強靭な精神力を持っていたはずだけど、意識が途切れてしまいそうだわ。むしろ途切れさせてしまいたい。
そして気が遠くなりかけた頭の片隅で、こう思った。
これって、もしかしてヒロインイベントなのでは? と――。
お嬢様、翻弄される




