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21 推しの王子様に身バレしました-1

推し殿下とようやく再会しました。

ここから恋愛っぽいお話が展開されます!

 始業の日の1週間後であり4回目のライブの翌日である、4月15日に行われた実力テストの日にも王太子殿下は出席しなかった。

 つまり、今はまだ乙女ゲームが始まっていないらしい。


 このクラスになってから初回のテストということで、テスト時に座る席は2年の引き継ぎ。ということで、Sクラスに仲間入りを果たしたばかりの私は暫定的に最後尾に配置された。


 その対角線上である、窓際一番前の一等賞の席は空席だった。


 1年間留学していなかったのになぜ殿下は1位配置、と思ったけど、彼は1年時のテストでずっと1位だったらしい。で、2位はエーギンハルトだったんだって。それでクラス内での決めごととして、2年時は順位据え置きで2人の席を開けていたそうです。いつでも戻ってきてください的な、麗しきクラスメイトとの絆である。

 そんなに結束していたら、確かに私という異物は非常に扱いづらいものだろう。


 とはいえそんな全員が全員盲目、ということはなく、フィリーネによるとそれは上位陣……まぁ、攻略対象とその取り巻き周辺特有のものだとか。


 幼い頃から王太子殿下と交流がある人ほどそういう傾向にあるのかなと思った。彼なら幼少期でも完全無欠の王子様だろうし、幼い頃から交流を持てるのって上位貴族ばかりだし。


 まぁともかく、王太子殿下はこの国では非常に特別な存在というか、大事にされてるんだなと思った。まぁ乙女ゲームの世界でメイン攻略対象だし、その上王子様だし、特別扱いも当たり前なのかな。


「それより、何でキャシーは殿下を気にするの?」

「……ずっと来ないから何でかと思っただけなのよ」


 そんなことをつらつら考えていると、フィリーネは訝しげに質問してきた。

 昼休み、ふたりきりで庭園のベンチに座って話すのは定例となって久しい。彼女によって好き勝手髪の毛をいじられたあとの私は、仕上げとばかりに横の髪をねじって後ろに回したハーフアップに、真珠とサファイアが散らされた清楚な髪飾りをつけられている。


「あぁ、殿下が登校されないのはご公務じゃないかしら? こちらに戻られたばかりだし」

「ああ、隣国へ行っていたのでしたっけ?」

「そう。西にあるミュールズ王国っていう古い国よ。三代前だったか、四代前だったかのお姫様があちらの国の側室に入られた縁とかで」


 それはなんとも遠い縁だなぁ。

 そう思ったのを察されたのか、フィリーネは柳眉をうっすらと寄せた。


「昔ならともかく、今や先進国のうちと後進国のミュールズじゃ、留学したところで益はないと思うのだけどねぇ」

「そうね……」

「でも、伝統だからって殿下は向かわれたのよ。その間こちらには一度も戻られなくて。建国祭も殿下のお誕生日の式典も、全て不在で……あの国が帰さなかったって話よ! 生意気にもね」


 わぁ、私の祖国人気ないんだなぁ。まぁ、しょうがないかぁ、後進国なのは間違いないし。その上、王族の性格が第二王子筆頭にアレな感じだしね……。


 そういえば去年は殿下のお誕生日祝いにと王室主催で開かれたお茶会に、令嬢が群がってた気がする。学園でも追いかけられてたなぁ。ちらっと見かけた記憶が私の頭の中に残っていた。


「でも、5月になればきっとご公務も落ち着いて、ご登校されるわよ。そうなったら早速実力テストがあるし、楽しみね」

「私は憂鬱よ……」

「ええ、どうして!? 殿下はきっと驚かれるわよ! 後ろにエーギンハルト様がいらっしゃらないって知ったら!」


 私は……そう、私はうっかり……そう非常にうっかり、殿下不在の4月の実力テストで1位になってしまったのだった。


 待って、言い訳したい。

 いろいろ考えて、手を抜くとか、全力で行くとか、いろいろね! 考えたの!

 考えた結果、とりあえず1回目で何も分からなかった私は……自分の実力がどの位置なのかを測らないと何も始まらない、と思ったのだ。でも慎重にもするべきだし、とにかくテスト問題を見てから考えよう、と結論づけた。


 だが私は冷静にテスト問題を見ることができなかった。

 前日の4回目のライブが成功だった高揚感と、『ある噂』を聞いてしまったことが完全なる敗因だった。


 それは窓際の方の席で向かい合った、子爵令嬢と伯爵令嬢の2人の会話。


『ねぇ、あなた……昨日は噴水広場へ行った?』

『いえ、行かなかったけれど……』

『もったいないわ。私、すごく素敵な殿方たちに会ったのよ!』

『素敵な殿方……たち?』

『そう。素晴らしい歌声と踊りで、私、一目で虜になってしまったの!』

『あれ……待って、何か聞いたことがあるわ。それ。休日に現れる不思議な音楽と殿方のこと?』

『あぁ、すでに噂になっているの? きっとそうよ。あの不思議な音楽! なんだか心臓にずんずんと響くような……ああ、でもそれよりも、あの殿方たちよ。3人いらしてね、私は真ん中におられた方が素敵だと思ったの。こちらを見て、片目をつむられてね……その視線に、私は……あぁ』


 そんな言葉が聞こえてきた私はそりゃもう嬉しくて嬉しくて嬉しくて……!

 うきうきとテスト問題を解いてしまって……。


 見事、全教科満点なんていうチートじみた結果を叩き出してしまったのだ。


 自分でもちょっと驚いた。でも、ここまで私に実力があるなんて思ってもみなかった。

 前世の知識と、祖国での第二王子の妃殿下候補としての教育。その2つは私に膨大な知識を与えていて、適齢にそぐわないようなのだ。祖国はテストの点数で順位をつけるという概念がなかったこともあり、全く自覚がなかった。


 テスト結果が出たときのエーギンハルトの驚き顔を見たときはちょっと溜飲が下がったけどね。でも、それ以来腫れ物は余計に続いてしまった。


 何でよ! クラスメイトとして受け入れてくれないの!?


 理不尽過ぎる結果にそう思ったけれど、たぶんこれはもう、殿下と順位争いしないと収まりがつかないんだと思う。その殿下が来月から来られるなら、私は……一体どうすれば。


 ていうかテストの席順で殿下とエーギンハルトに挟まれるの? 私。

 いやいや、心臓ぶっ壊れそうです。


 ちなみにヒロインは、まだゲームが始まってないから覚醒していないのか? 良く分からないけど、順位は中の中って感じだった。




 ***




 そしてあっという間に5月となり、殿下がご登校された。

 最初の実力テストは第1月曜日である6日。今日は1日。実力テストの日までに私のアレコレが殿下のお耳に入るのは確実だろう。


 というか、エーギンハルト達によってとっくに耳に入っている気がするわ……。


 殿下は昼休みに来られて、午後の授業から合流される。私は食堂からフィリーネと共に教室へ戻った。予想通り、ご登校を野次馬をしに行ったクラスメイトたちがいないお陰で、ガランとした教室内。ヒロインも男爵令嬢グループと共にいなかった。

 いつもなら庭園へ行ってギリギリまで過ごすけど、そこはご登校ルートに入る気がしたし、クラスのみんなが出払っている今、逆に教室が手薄だろうというのは予想できたことだ。


 ていうかみんななんでわざわざ見に行ったの? ちょっと待てば来るよね? どんだけ殿下大好きなの……。


「……あ、いけない。ハンカチを忘れてしまったわ」

「食堂?」

「ええ。あのハンカチは大事なものなの。取りに戻るわね」


 レースが縁取られ、私の名前のイニシャルが刺繍されたハンカチ。あれはクリスが初めて私のために誕生日プレゼントとしてくれた、大事な物なのだ。

 いろいろ考え事をしているから注意力散漫になっていたことを反省し、私はフィリーネに手を振って教室を出る。


 ――そして、私はどうして殿下とエンカウントしたんですかね!?


 食堂は1階にある。なので、階段を降りて左に曲がった瞬間のことだった。野次馬に取り巻かれているはずの殿下が、どうしてか分からないけど一人で歩いているのだ。ここは回廊になっていて外とつながっている。昼休み終盤で人気がなさすぎて、隠れる暇もなかった。


 頭の中は慌てていたのだけど、せめて行動は優雅にと思って、ゆったりとした動きでスカートを持って頭を下げる。

 殿下は足を止めて、私の方をじっと見下ろしている気がする。ああ、視線が痛い。その銀髪の巻き毛にどうも見覚えがある、というような空気をひしひし感じた。


「君は、もしかして……」

「…………。はじめまして、殿下。私、今年よりこの学園に参りましたキャロル・フォルケルと申します。以後お見知りおきを」


 絶対にごまかされてくれないだろうと思いつつも、そう言ってみる。


「……そうだったかな。君はもっと違う名前だったと思ったのだけど」


 頭を上げて、と続けて言われて私は顔を見ざるを得なくなる。

 その視線は確信した上で、ちょっとからかっているのか? と穿ってしまうくらいには意地悪そうに光っているように見えた。


 黒髪に金色……太陽の瞳。攻略対象は髪の色と瞳の色が同じ配色なのが特徴のはずなのに、殿下だけはメイン攻略対象だからか特別だった。

 黒髪はこの世界では珍しくない色だけど、殿下の黒髪は濡烏とか、艷やかとかつい女性ぽく形容してしまうけど、なんというかとにかく目を引く黒色をしていた。

 そして今は面白がっているような瞳も、太陽みたいに輝かんばかり。虹彩の模様が白く細かく広がっていて、まるで希少な宝石のようだ。つい目を奪われてしまいそうになり、慌てて視線をそらす。


「キャロル……いや、やはりちがうな。君はキャロライン、と言わなかっただろうか?」


 ああああ殿下、どうして断罪イベントの後ちょろっと会話したくらいの私のことを、きちんと覚えていらっしゃるのですか! クラスメイトだったけど、本当に全く交流なかったよ? そういう記憶が一切ないもの!


 私はそらしていた視線を戻し、戻して……殿下のお顔を見上げて、かっと頬を赤くしてしまう。

 あー、推しだから、ほんと。心臓が本当に、痛いくらいに高鳴っている。顔が好き過ぎる……。


「……、事情がありまして」

「もしかして、あの婚約破棄のことですか?」

「私はすでに、あの国の人間ではありません。どうか、キャロルとお呼びください」


 殿下はどうやらあの断罪イベントの後の卒業パーティにご出席されたようだ。そうでなければ、形式的に留学した後進国の第二王子の婚約破棄なんて話、お耳に入らないだろう。

 でもいたましそうな顔をしてくださる殿下は、本当に優しい方だと思う。推しとかいうフィルターを通さなくったって、あの廊下での会話でも、キャロラインとして殿下を一方的に見かけた僅かな時間だけでも彼の優しさは格別なものだと分かる。


 こりゃ、ヒロインも落ちるよ。

 リーナ嬢は、やっぱり殿下をまず好きになっちゃうよね……。そうなったら乙女ゲームのイベントが始まってしまうのか……。あぁ、私の推しが……切ない。


「分かりました。ではそのように……キャロル」

「えっ!? あ、はい……」


 え、待って。なんで呼び捨て!?

 殿下、前は『キャロライン嬢』って呼んでたよね!?


 さっきも呼び捨てにされたけど、それは名前の確認のためだろうし……私がキャロルと呼んでって言ったから!? いやでも、自分で『キャロル嬢って呼んでください』って台詞は変だよね……。

 ふつう、異性で名前を呼び捨てにするのは家族とか、恋人とか、幼馴染とか……よっぽど親しい友人、はギリギリセーフかなぁ。いやでも、やっぱりあんまり良くない方だと思う。子供の頃ならいざしらず、この歳で呼び捨ては恋愛関係、もしくはよっぽど好きだと吹聴しているのと変わらない。


 一体何がどうしてこうなった!?


 いろいろ考え事をしてしまっていたけど、会話は特に問題なかったはずだ。ちゃんと何を言ったか、何を聞いたか覚えているし。なのに、どうしてこうなったの?


「では私のことも、ジークと呼んでください。キャロルとは、クラスメイトになるのですから」

「いえ、それは無理です!」


 あ、しまった。令嬢らしからぬ受け答えをしてしまった。

 いやでも、前世で推しだった王子様とNPC的台詞とたった一つの会話イベント以上のやりとりができなかった私に、この展開はちょっと、ちょっと……ときめきがっ!!

 動揺が過ぎて、頭がグラグラしてきた。心臓も痛いし、冷や汗かいてるし、多分顔は真っ赤だ。


 え、何? 殿下はキャロラインに密かに想いを抱いていたとか!?

 そういう展開っ!?


 いやまさか……どんな乙女ゲーム展開だ。いや、これ乙女ゲームだったか……。


「キャロル?」


 おっといけない、現実逃避してた。


「……ジークフリート殿下、あの、あのですね……」

「うん?」

「ええと、殿下は以前『キャロライン嬢』と呼んでいたかと思うのですが……」


 なぜ呼び捨てなのですか。

 そう聞けず、もごもごと口ごもらせていると……。


「ジーク!」

「やあ、エギン。どうかした?」

「ひとりでフラフラするなとあれほど……! っと、君は」

「久しぶりに会ったから、()クラスメイトと交流をね」

「…………」


 気絶したい。でも精神が頑丈だからできない!!


 なぜ、よりによってエーギンハルトまでここに来てしまったんだ。

 彼は見事な仏頂面でこっちを見下ろしている。この状況を切り抜く方法が全く思いつかなくて、私はうつむいて黙り込むことしかできなかった。

殿下、ちょっと気持ちが溢れちゃってます。

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