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19 今日のライブでは新曲を披露します

感想いただけてとっても嬉しいです!

ブクマもありがとうございます! とっても励みになります。

 

さてライブ回です。

 待ちに待った休日、待ちに待った4回目のライブ。


「準備できた? 入っていいかしら?」


 着替え用に用意した宿泊施設の一室の扉をノックをし聞いてみると応えがあったので、私は意気揚々と扉を開けた。そこには着替えを終えたアイドルたちが……。


「きゃあああっ! やっぱり素敵!!」

「お嬢様……」

「あっ、ごめんなさいね。つい興奮しちゃったわ」


 クリスはたしなめてくるけど、どこか嬉しそうだ。チェスターもシリルも照れているのか視線をそらしていて可愛い。


 は~やっぱり色違いの衣装が素敵過ぎる。カッチリ上着のスーツとか、燕尾服っぽい衣装はもともと大好物だからたまらない。

 今日は胸元のジャボをネクタイに変えてみた。その分胸元のヴォリュームが下がるから、チーフの代わりに赤い薔薇の花。


 最後に投げてねってお願いしたのでめちゃくちゃ楽しみである。

 受け取りたい! あ、いやいやお客さん優先で!


「お嬢様、髪はこれで良いですか?」

「うん、そうねぇ……チェスターは護衛だから前髪あんまり伸ばせないものね」

「すみません」

「謝ることじゃないわ」


 短髪なので前髪の分け目を変えたところであんまり変化はない。身バレが怖いなぁ。眉墨で描いた目元の黒子がどうにか印象を変えてくれると良いんだけど。


 しかし、黒子がえっちぃ……。

 目元染めてるから余計に目立ってね、つい視線が行ってしまう……。


「新曲はちゃんと頭に入ってるかしら?」

「それは問題ありません。ところでお嬢様、ウインクは本当にやるんですか?」

「ええ、間奏のときに頼むわよ!」

「こういうのは好きな女性にやるものじゃないですか?」


 シリルにはウインクをばっちり習得してもらった。この言い分だと、これまでも普通に活用していたっぽいなぁ……。

 お嬢様お嬢様って言ってついてくる可愛いワンコっぽいイメージをこの3人には抱いてるのだけど、シリルは普通に恋愛も楽しんでるのかな?


「アイドルっていうのはね、ファンが恋人なのよ! そういう夢を見せるの!」

「そうなんですか?」

「そういうものよ。平等に頼むわ!」

「また難しい注文ですね……ですが、お嬢様のためですから」


 そう言って……ばちん、とウインクしてくれた。

 うっ、すっごいドキッとした!!


「う……うぅ……かっこいい……」

「お嬢様?」


 ニヤニヤしてるシリルから視線をそらして、ゴホンと咳払いをする。


「そろそろ行きましょう!」




***




「えっ、すごい……」


 先週までは待っているのは数人だった。けれど、今日は10人近くは待機しているように見える。

 いつもの場所を取れたから、ドラムセットが置かれていることで今日もライブをやることが分かったのだろう。開始を待つスペースを囲うように、若い庶民の女の子たちが待っている。友人を連れてきてくれたのか、数人連れできゃっきゃと話し込んでいる子たちもいた。


 私は待機場所からこっそりとその様子を見つめ、感激に指を胸元で組んだ。


「感激だわ……! もうこんなに固定客が……!」

「プロデューサー、そろそろ行きますか?」

「あ、そうね! 噴水も止まったし。今日もよろしくね! 新曲、頼んだわよ」


 バックバンドに声をかけると、彼らは所定の位置についた。今日はいつもの2曲をやったあとに新曲を披露する。ヴァイオリンとトランペットの掛け合いが楽しい、かなりアイドルソングっぽいポップな曲。歌詞は素直になれないケンカップルっぽいのを意識してみた。


「きゃああ~~っ!」


 女の子の嬉しそうな歓声が聞こえて、私はこっそりとまた荷馬車から顔を出す。バックバンドにもファンがついているのか、女の子が熱い視線を送っているのが見えた。

 おお、トランペットのカールがにっこり笑顔で手振ってる。それにきゃあって声がまたした。


 さすが巻き毛の天使……貴族だし、女の子がどうすれば喜ぶかわかってるんだろうなぁ……。


「よーっし、3人とも行ってらっしゃい! 見てるからね!」

「はい、行ってきます、プロデューサー!」


 3人も外ではプロデューサーって呼ぶのに慣れてきて、フードを被って荷馬車から降りていく。


 私も外へ出て、待機している人たちの中にこっそり紛れた。ちなみに私は今回から茶色のウイッグを被っている。

 先週まではフード被ってたんだけど4月も中旬になって暑くなってきたし、何より銀髪が目立ちすぎるのよね……。野暮ったい化粧してそばかす描いて眼鏡もかけて、庶民に紛れ込む変装はばっちり。


「わああぁっ!」

「きゃーっ!」


 そろそろ名前も名乗ったほうがいいかなぁ。騎士さまーとかたまに聞こえるけど、騎士ではないし。詐称扱いになったら困る……流石にないか。

 偽名にするか悩むところよね、グループ名もいい加減決めないと! そっちは候補が多すぎて決めかねてるんだけど。噂がどれくらい広まってるか確認するのに固有名詞は手っ取り早いから、そろそろ名乗りたいところ。


 そしてライブが始まった!

 4回目ともなると3人は緊張せずフードを脱いで、姿を表す。いつもと衣装の小物が違うことに気づいてもらえたかなぁ。

 アイドルとバックバンドを見つつも、観客の様子をちらちら眺める。それまで通行しているだけだった人たちも、派手な音楽に足を止めてくれている。3……40人いるかな? ってくらいか。前回は30人くらいだったから、結構増えたかも。

 今日はいい天気だし、広場にもともと人が多いっていうのはあると思うけど。


 あ、あれって貴族のお忍びっぽいな。髪がつやつやだし、庶民の服も着慣れてない感じ。

 メイド服の人もちらちらいるし、買い物中だったのか、噂を聞いた貴族の指示で偵察しているのかはまだ分からないけど。ここからまた噂が広まるかな。


 私は人の群れから抜けて、噴水をぐるっと回って向こう側からお客さんを見てみる。最前列はほとんど固定客っぽい女の子たち。夢を見ているような眼差しとポーズで熱心に見ていた。学生っぽい子もちらほら。制服姿の子はいないか、まぁ休日だもんね。


 あ、男の人も興味持ってくれてる人がちらほらいるっぽいなぁ。でも視線はどっちかっていうと見慣れないドラムセットとか、ベースとかに行ってるみたいだけど。


 そしてあっという間に2曲が終わり、新曲の始まりだ。

 いままで2曲で終わっていたから、まだ彼らが立ち去らないことに最前列の子たちがざわついてる。期待してる……ぽい感じかな? うーん、遠くて表情がしっかりと見えない。


「きゃあああっ! 素敵っ!」


 イントロ、手振りから始まるダンスに声が上がった。ドラムがズンズンとビートを刻み、ベースが更に支える。その上にヴァイオリンとトランペットの掛け合い。すぐに歌もかぶさっていく。


「素直に言えばいいのに~♪」

「そういうところが可愛いから~♪」

「欲しいって伝えてくれよ~♪」


 ふふふ……やっぱり自分が考えた歌詞が歌われるのちょっと恥ずかしい。

 サビに入ったあと、間奏中のダンスで……シリルのウインク! ばっちり決まったみたいで、中心の辺りでざわっ、きゃあっ! という感じに声が聞こえた。


 よしよし、うまくいったみたいね!


 私は再び人並みの方に移動して、歌の最後までをじっくり見守った。

 曲が終わった瞬間に投げた薔薇は見事に前列にいる3人の女の子がキャッチして、嬉しそうな声と、羨ましそうな歓声が上がっていた。


「ありがとうございました!」


 最後に言葉はそれだけ。

 頭を下げた3人を、歓声と拍手はしばらく鳴り止まなかった。




***




 私はお客さんの反応を見るためにその場に待機。アイドルとバックバンドは、それぞれ左右で二手に分かれて足早に立ち去った。追っかけ対策というか、身バレを防ぐ意味で今回から導入した。

 馬車も移動用に2つ用意している。あとは残した楽器を回収するために、日雇いした荷運びの男性たちが最初に乗ってきた荷馬車に楽器を積み込んで立ち去る。そんな流れだ。

 気をつけて見ていたが、まだ後を追いかける人はいないようだ。行き先を熱心に見守っている人は何人かいるから、対策し始めたのは良かったのかも。


「今日もすごかったねー」

「めちゃくちゃカッコよかった! あの人たち、お城にいる騎士様って本当かなぁ?」

「私は隣国の王子様って聞いたよ!」

「なんでも良い、素敵すぎる! 今日の新しい歌、すっごく良かったわ!」


 友人らしき二人組がそんな風に感想を言い合っていた。聞き耳立ててこっそりニヤニヤする。よしよし、いい感じだ。

 しかし騎士様とか王子様とか、いろいろ憶測が飛び交ってるみたいだ。どこが出処なんだろ? 情報操作はまだ全然してないのだけど。


 見事ゲットしたらしい薔薇を持ってぽーっとしている女の子や、まだ現実に戻ってこれないのか、すでに何もない空間を見ている女の子を眺めつつ、私はまたいろんな計画を頭の中で進める。


 人もまばらになってきたところで、私は今日のライブの成功を胸に噛み締めつつ移動した。


 近くを走っている辻馬車に乗り、中心街からは少し外れたところにある庶民も貴族も利用できる大きな宿泊施設へ。そこにメンバーは一旦集合し、着替えてから帰宅する手はずになっているのだ。


 私は先にその裏手に止めた荷馬車に近づく。そこには日雇いの男性が私の戻りを待っていた。そこで今日の報酬を渡して解散となる。

 荷馬車の中で腰掛けていた若い男の人2人は、私の顔を見ると立ち上がった。


「ありがとう。何か変わったことはあった?」

「そういえば茶髪の女の子に声をかけられましたよ」

「女の子?」

「はい。すごく良かったって言ってました。全員好きって」

「そう。教えてくれてありがとう」


 全員好きかぁ。箱推し、という言葉が頭の中に浮かぶ。


「いやあ、商会ギルドで『割が良いし楽だけど口止め料含む』って聞いてヤバい仕事かと思ってたんですが、これなら何度もやりたいな」

「ふふ、ありがとう。他言無用でお願いね」

「分かってますよ」


 あとは宿泊施設で着替え終わったみんなを回収して屋敷に戻るだけだ。私は満足感と嬉しさでいっぱいになりながら、日雇いたちを見送った。

ファンも順調に増えているようです。

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