16 学園生活は波乱万丈の予感-2
閲覧、ブクマありがとうございます!
ある意味ゲームのチュートリアル的な転校初日です。
よろしくお願いします。
私はふと意地の悪い赤髪、エーギンハルト・ホルクの肩越しに、青い髪と緑の髪を見て内心でうぇぇ、と言った。
令嬢らしくないのは見逃して欲しい。内心だからバレないと思いたい。
このクラスにはどうやら、同学年の攻略対象が勢揃いしているようだ。
攻略対象の特徴は髪の色である。この国も隣国も、さほど髪の色が特徴的とは言いづらい。貴族も平民も黒髪か茶髪、あっても金髪くらいだ。
だが、乙女ゲームで名前がつくキャラクターは総じてカラフルな髪の色をしている。悪役令嬢の私が銀髪であるように。矛盾をはらまないよう親も片方が同じ色をしていて、私の場合は父親がそうだった。
お茶会を一緒した、青い髪のビエラー公爵夫人の息子というのもまた攻略対象だ。
青い髪に怜悧な氷の色をした瞳、眼鏡に細身の体躯。いわゆる典型的Sキャラ。名前はヴィンツェンツ・ビエラー。歴史の長い侯爵家の子息で、父親は宰相である。今は遠巻きにこちらを伺っているが、その瞳は私を警戒しているのか冷たい。
そしてほんと三次元ではありえないとしか思えない天然の緑の髪を肩の下まで伸ばし、エメラルドの瞳を退屈そうに細めているのがシーヴェルト・ヘンゲン。伯爵家の生まれで父親は近衛騎士団長である。
ちなみにこの国の騎士団は近衛、辺境、都市警備と大きく3つに分かれ、その中で第一部隊、第二部隊……と細かく分かれている。
フォルケル家はその3つ全ての頂点に立ついわゆる将軍と呼ばれる職だ。
そして乙女ゲームの攻略対象は残り2人だが、どちらも下級生であるためこの教室にいないのは当然だろう。ちなみに橙の髪と紫の髪である。派手だ。
あれ、そういえばヒロインも同じクラスじゃないとおかしいんだけど、どこにいるんだろう。ヒロイン、髪の色は地味な設定だからモブに紛れてるのかしら? 大仰に辺りを見回してクラスメイトの顔を不躾に見るのは、今は目立っていて難しそうだった。
悪役令嬢は私と同じ銀髪だけど、流石に銀髪だと目立つ。だからこの場にいないのは分かった。同学年のはずだから、S以下のクラスなのだろう。
んー、でもそれだと乙女ゲー的にお話が進みづらいのでは。順位争いが乙女ゲームの主軸にある以上、同級生は皆同じクラスでないと展開に無理が出てくる。
この場に殿下ともしかしたら悪役令嬢を除く18人がいるのか、もしくはヒロインもいなくて17人いるのか、一瞬で視線を巡らせて数を数えるのは無理だ。
それより、今この注目されている状況をどうにかしないと。
私は意を決して、言葉を紡ぐ。
「――この学園では、テストでの順位が重要だと聞きます」
「そうだな。この学園だけでなく、この国は実力主義だ。それに男女平等でもある。男はその腕力で持って強さを測ることもあるが、男女混合の場合はその頭脳で強さを測ることが手っ取り早く、わかりやすい」
「では、このクラスの全員がライバルということですね」
宣戦布告とも取れる私の発言に、またクラス内がざわりと音を立てる。
ああ、地味に過ごすんじゃなかったのか、私。挑発に見事に乗って何がしたいんだろうと思うが、前世で競争社会の中に身を置いていた精神は、非常に負けず嫌いのようだった。
貴族令嬢らしからぬ、考えてることが口からするっと出てしまう基質は前世由来のものなのだろう。
「最終学年は、これまでの学びの集大成だ。全員が気を抜くことはない。いくら優秀と言えど、この国の高い学力基準についてこれるかは君の努力次第だ」
「ふふ、肝に銘じておきます」
「ああ、よろしくな。キャロル嬢」
「はい、エーギンハルト様」
何故か握手を求められたので立ち上がって握り返せば、辺りの視線は柔らかくなる。なんとなく、私という存在がクラスの中に馴染んだ気がした。
あれ、これって新参をクラスに馴染ませるためのパフォーマンスだったのか。
……やるなぁ、さすが王太子の側近候補。
「僕の友人を紹介しておこう。彼がヴィンツェンツ・ビエラー。そっちの緑の髪がシーヴェルト・ヘンゲン」
「キャロル・フォルケルです、よろしくお願いします」
「ああ」
いつの間にかこちらに近づいていた青髪のヴィンツェンツは私に応えを返し、緑髪のシーヴェルトは席についたまま「緑の髪って、その言い方はないでしょ~」と間延びした声を上げていた。
攻略対象とはあんまり仲良くなる気はなかったんだけど、これはガッツリ関わらないと行けない感じなのだろうか。今日だけだと祈りたいところだけど。
「……ところで、このクラスで1番優秀なのは誰なのでしょうか?」
切磋琢磨しながら上を目指す、いわゆる意識高い系のクラスであるなら、その順位制度は身にしみていそうだ。おそらく、クラス内でのカーストもそれなりに順位が関わっている気がする。
庶民はほぼ特待生で半分以下の人数しかいないこの学園。生徒は貴族ばかりだからもちろん爵位も重要なのだろうが。
あとは乙女ゲーの要素も混じってきそうだなぁ。あらすじに『ひょんなことから成績を競い合うことになって――!?』って書いてたから、攻略対象と上位争いをするんだろうし。
まぁ乙女ゲーの攻略キャラはほぼ上位貴族だから、必然的にカーストは上なんだろうけど……。
「1番はジークフリート殿下に決まっているだろう」
ヴィンツェンツは眼鏡を押し上げながら、さも当然と言わんばかりだが、私はつい首をかしげてしまう。彼が、ミュールズ王国に留学して一年いなかったことを知っているのだ。
だがそれをキャロル・フォルケルは知らない、もしくは詳しく知らないはずだ。なのでとっさに言葉を取り繕う。
「……ジークフリート殿下……王太子、はこちらの学園に通って……? というか、同じクラスなのですか」
「当たり前でしょ、子供は全員学園へ通う。殿下だって例外じゃないよ」
チャラ男ぽい長髪のシーヴェルトは、へらりと笑いながら言った挙げ句、軽くウインクしてきた。チャラい。軽い。こういう攻略キャラが苦手な私は内心で顔をしかめる。
「殿下は非常に優秀だ。Sクラスでない理由がない」
「そうですか」
「だが、僕と殿下は隣国に留学していたので、去年の1年間はヴィンツがトップだったな」
エーギンハルトの強い視線に気づいて、私はふと顔を見る。その瞳を見た瞬間、彼は私のことを知っているんだと直感的に思った。
よく考えなくてもそうだろう。殿下と一緒に留学していて同じクラスということは、キャロラインとも同じクラスではないか!
「……っ!」
「どうかしたか?」
「……いえ」
なぜ気づかなかったんだろう。キャロラインが全く興味を持っていなかったか、エーギンハルトが側近らしく完璧な影に徹していたのか。今記憶を思い返してみても、キャロラインの脳内に彼との記憶が皆無だった。こんなに目立つ赤髪なのに、不思議なことに全く覚えていない。そんなことあり得るのか?
……いや、でも私さっき『留学の際も帯同していたのだろう』って思った気がする。でも、それがキャロラインの常識の上で考え出たのか、前世の乙女ゲーム的常識でそう導き出したのか全く分からない。
だが、これだけは確実だ。私が彼を知っているのは、乙女ゲームの記憶。
だって、ミュールズ王国にいたときに見かけた、会話した記憶が一切ない。
でもそれってあからさまに不自然だと思う。だって同じ教室にいたら目に入ると思うもの。
でも、そんな思考こそ私が前世の記憶を思い出した副産物なのだろうか?
なるほど。彼による謎の挑発も、全て私が『キャロル・フォルケル』と名乗ったことが発端なのだ。
隣国で派手に婚約破棄をされたはずの女が名前を変えて自国の、それも殿下と同じクラスに編入してきた。何か裏があるのでは。そう思われているに違いない。
ああ、めちゃくちゃややこしいことになってきた。
私がキャロラインだという秘密を知られたところで、第二王子に婚約破棄された哀れな令嬢だと思われるくらい――だけだ、とは言い難い。
婚約破棄をされた令嬢を積極的に娶る初婚の男は少ないし、社交界では格好の陰口対象になる。それはきっと、この国でもあるだろう。生まれた国よりは柔軟な思考の持ち主ばかりのようだが、人なんて集えば悪口を言う習性があるし、善人ばかりなんてありえない。
私はできるだけ健やかに過ごしたいと思う。変な派閥争いとかに巻き込まれるのはごめんだ。
それに、プロデューサー業を円滑に行うためには、この国ではそれなりの位置にいるほうが何かと便利だ。
私は、私が見初めて育てたアイドルたちを、有名にしたいという欲がある。
まだ3度しかライブしていないけれど、もう通ってくれる女の子がいる。彼らを求めてくれる人がいる。もっと色んな人に彼らのいいところを知ってもらいたいし、新鮮な曲を届けたいし、あわよくば一緒にライブを楽しみたい。握手会とかサイン会とかやりたいし、チェキがあればやりたい。写真技術はまだないからできないけど。
歌やダンスは娯楽だ。
そして、アイドルも娯楽。
私の前世ではそうだった。この国では音楽は娯楽というよりも立身出世のための道具としての側面も強いけれど、それでも音楽家を目指していない庶民はなんのてらいもなく音楽を楽しんでいるように見える。
そういう人たち以外にも知ってほしい。音楽は楽しいんだって。アイドルは楽しいんだって。
私はその目的のためなら、何だってできると思った。
転校初日はまだ続きます。
恋愛要素もぼちぼち入れていきたいな~の学園編なので、恋愛カテゴリらしい話もそろそろ書きたいと思っています!




