15 学園生活は波乱万丈の予感-1
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楽しんでいただけたら幸いです。
前世では古くから補修を繰り返している瀟洒な一軒家を持つ名家に生まれ、幼稚園から音大付属の一貫校へ行き、ストレートで進学した私は『転校』というものに全く縁がなかった。
そんな私が転校生になる日が来るなんて! うぅ、緊張するわ……。
フォルケル家の屋敷から、学園までは馬車で15分ほど。前世の感覚で言うと徒歩でもギリギリ可能な距離だけど、もちろん令嬢が徒歩で通学することなどありえない。
窓から流れる景色をぼんやりと眺めつつ、私はひとまず学園へ通うにあたって気をつけないといけないことを反芻する。
まずは何より、私の正体がバレないようにしないといけないということ。
隣国の第二王子の婚約者候補だった『キャロライン・カーティス』だとバレないようにすること。
そして噴水広場に現れる謎のアイドルのプロデューサーであるとバレないようにすることだ。
どちらも顔バレしてないから大丈夫だとは思うけど、一応用心しないとね。
そしてもう一つの懸念事項は、乙女ゲームのことだ。
『蜜愛のノイシュテッター・フリーデ~王子様と臣下たち~』
私が前世で好きだった乙女ゲームの第二作目。そのヒロインと攻略対象、悪役令嬢がこの学校に通っているのだ。しかもゲームの開始はおそらく、今年である。まだ開始はしていないだろう。
まだゲームの時間が始まっていないということは、私が目を開けた瞬間にゲームが終わったときとは何もかも違う。私の行動次第で何かを変えられるし、変えられてしまう。
私はヒロインの恋愛を邪魔する気なんて毛頭ない。
だって私は『第一作目の悪役令嬢』だ。しかも、私はゲームのことを何も知らないと言っていい。あらすじと主要キャラしか知らない。ゲームをプレイしていないのだから当然だ。だからヒロインは好きに恋愛して、好きな攻略対象とくっついて幸せになればいいと思う。私を巻き込まなければ、本当に好きにしてほしい。
けれどメイン攻略対象である王太子殿下とは顔見知りなので、それだけは心配だった。
でも、殿下なんて夜会から公務から外交まで、何百人なんて人と日常的に会っているはずだし、私のことなんか覚えているはずがないわ。
キャロラインの記憶でも、クラスメイトだという以外の交流は一切なかったように思う。ゲームだと図書館へ行けば話すことができるが、そこで会話した記憶もなかった。
唯一、断罪イベント直後の廊下で少し言葉をかわしただけ。
あれだって彼にとっては取るに足らない出来事に違いないから、すっかり忘れているはず。
うん、大丈夫だ。
そういえばジークフリート殿下は、いつからこの国に戻られているんだろう?
何と言ってもゲームの開始には殿下が絡んでいる。
『フリーデ学園に王太子が帰ってきた。一年間隣国に留学していた彼が帰ってきたと聞いてつい出歯亀をする男爵令嬢の私――(以下略)』
あらすじは『王太子が帰ってきた』から始まっているのだから。
これまで出た茶会でそういう話題は出ていないけど、お忍びで帰ってきている可能性もあるし、そうだとしたら所詮この国では新参者の私には知りようがない。
「う~ん、色々懸念事項はあるけど……悩んでもしょうがないか」
ひとまずヒロインや攻略対象には気をつけつつも、学園生活を楽しめたらいいな。
キャロラインが生まれ育った国では古風で秩序を重んじる風潮が強すぎて、ギスギスして楽しくなかったし。
ヒロインが登場してからはキャロラインが苛めをしたとかいう噂が出て、そのまま周りから人も減ったりして、非常に居心地が悪い記憶が残っているんだもの。
前世ではレッスン漬けで友達もあんまりいなかった。
そう思うと、私は前世も含めて初めてまともな学園生活を送るのかもしれない。
なんだかわくわくしてきた。
やりたいこと――プロデューサー業はまだまだ始まったばかりで、手を抜くことはできない。けれど、学園での生活も地味ながら楽しめたら良いなと、私は気楽に考えていた。
***
新学期開始の式典は滞りなく終わった。
クラス分けは成績順で半年に一度、4月と10月に行われる。なのでクラス替えのどさくさで、転校生である私もさほど違和感なくするっと受け入れられるんじゃないかしらと脳天気にも考えていた。
まぁそれは、愚かな考えだったのだけど。
「キャロル・フォルケル侯爵令嬢……ですか。しかし、あちらはご子息しかおられなかったのでは?」
「私、養女に入りましたの」
「そうなんですか。あのフォルケル家に迎えられるとは、非常に優秀な方でいらっしゃるのですね。どういった経緯で?」
式典のあと教務室に呼ばれ、そこで指示された教室に入った瞬間、一斉に注目された。他の生徒よりも少し遅れて入ったことで、まぁ見事に目立ってしまったわけだ。
だがどうも、ざわついた会話を耳ざとく拾った感じでは、このクラスのメンツが変わることはそうなかったらしい。1クラス20名。1年時からほとんど同じメンバーだったところに3年目で新しい人間がやってきたとなれば目立つのは当然。
そしてそんな経緯だからかクラスの結束は強い方らしく、一人の男子が代表してずけずけと問いかけてくるのだ。取り巻きっぽい男子も後ろに控えているが、私は椅子に座っているせいか囲まれている感がすごい。
視線は合わないものの、クラス中に注目されている空気も感じる。
まずいわ……。
この感じだと、答えるまで解放されない気しかしない。
うぅ、私の素性なんて興味持たないで欲しい。地味に楽しく過ごしたかったのになぁ……。
困ったが、これから半年ないし1年を一緒に過ごす人たちだ。波風は立てたくないが、答えられない。そんな矛盾を抱え、令嬢らしい笑みを称えて時間稼ぎをしていると。
「おい、そこまでにしろ」
「っ、エーギンハルト様」
どうやら助け舟が現れたらしい。私が最後だと思っていたが、まだ教室には全員揃っていなかったようだ。扉を開けてやってきた人はクラス内でのカーストが上位らしく、あっという間に人が引いて事態が収束した。
「うちのクラスの者がすまないな、キャロル・フォルケル侯爵令嬢。キャロル嬢とお呼びしても?」
「はい……」
「僕はエーギンハルト・ホルク。このクラスの副委員長だ」
すらりとした体躯に自信ありげな表情。正統派系イケメンだ、と私は思ったと同時に攻略対象だと思い出す。その鮮やかな赤髪にガラス球のようなルビーの瞳は忘れようもない。
そしてホルク家と言えばこの国の筆頭公爵家で、ホルク公爵は陛下の弟である。その息子であるエーギンハルトはジークフリート殿下と同い年ということもあり、幼い頃から殿下を支える側近の最有力候補として常に傍に仕えている。もちろん留学の際も帯同していたのだろう。
彼がここにいるってことは、やっぱり殿下はもうこの国に戻ってきているんだ。
今日も来てるのかな?
そう考えつつも、助けてもらった私は立ち上がって優雅に一礼した。
「よろしくお願いします。助けて頂いてありがとうございました」
「いいや、気にするな。編入者なんて珍しいからと言って、令嬢に根堀り葉掘りするなど紳士の風上にもおけない。それに、半年ないしは一年一緒に過ごすのだからな」
そんな言葉に、代表して問いかけてきたクラスメイトはバツが悪そうな顔になった。
「それにしても、編入でこのSクラスに入るとは、随分優秀らしい」
「私なんてまだまだです」
「だが、教師から編入試験の成績を鑑みれば、このクラスでもトップに近い実力を持っていると聞いたぞ」
ざわっと室内が波打つ。信じられないとそういう空気だろうか。
二年間、平和だったクラスに突然現れた不穏分子。そんな印象を自分で受けてしまって少々落ち込む。
それにしても、こんなに注目されている中で成績のことを言うなんて……。
この男、親切な振りして絶対に性格悪い! 顔良いくせに! 顔良いからなのかっ!
くうう……。
転校初日、続きます。しばらく新キャラ紹介のターンです。
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