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13 お茶会での噂話

お嬢様のお茶会の様子と、夫人たちの噂話。

 日曜日は15時からお茶会。


 私は義母に連れられて、侯爵夫人主催のお茶会に招かれていた。


 この国のお茶会はまず音楽鑑賞か、もしくは楽曲披露から始まる。鑑賞の場合はその名の通り、各家が持つ楽団が披露する美しい旋律を聞いていればいい。

 だが披露の場合は、身構えが必要だ。ドレスコードならぬ楽器コードが事前に伝えられ、1曲目の指定をされていることもある。けれど意地悪な主催でもない限り大抵は有名な楽曲を伝えられる。この国の人たちはそんな曲は小さな頃から触れていて、息を吸うように演奏できてしまうから事前の練習は必要なかったりする。


 そのあとは無礼講というか、即興のセッションぽいものだったり、掘り出し物の珍しい楽譜を主催が出してきたりしたらその場で合わせてみたり。歴史が古い国ということもあって、家や地方に伝わる楽譜なんていうものもごろごろあったりするのだ。お抱え作曲家の披露の場として新しい楽譜が登場することもある。


 楽器が苦手な人間には恐ろしすぎる国よね、ここ。

 楽器音痴のキャロラインがそのままこの国にやってきていたら、一体どうなっていたか……。


 お茶会が情報だけでなく技術も交わす場とは。

 とはいえ常識的に楽譜が読め、楽器が弾ければ何ら難しいことはない。初見の楽譜に触れているときも、間違えたから不敬だとかどうにかなるなんてことはなく、おしゃべりしながら音を合わせて楽しみ、そのあと休憩がてらお茶やお菓子をいただくというのが、この国のお茶会のスタンダードなのだ。

 この国で生まれ育てば幼い頃から楽器に触れるし、社交界が楽器ありきでもやっていけないことはないらしい。

 外国から嫁ぐと苦労するかもしれないけどね……。


 今日のお茶会で私が指定されたのはフルートだった。


 この国に来て最初の数回は様子見ということもあったのか得意な楽器を聞かれたりはしたが、披露を要求されることはなかった。

 だがそのままでは社交に馴染めない。私は前回、別の伯爵夫人のお茶会へ行ったときにヴァイオリンを持って行った。そしてそれを目ざとく見つけてもらって、少しだけセッションに混じらせてもらったのだ。

 そのときに今回の主催の侯爵夫人もいらっしゃったので、実力があると思っていただけたようだ。

 そんな経緯があって私の本当の茶会デビューとも言える、初の楽器コード指定となったわけだけれども。


 でもまさか、ソロでの披露を要求されるとは……。


 ドキドキと高鳴る心臓を押さえ込み、私は大きなガラス窓から差し込む光を浴びながら横笛を鳴らしていた。自ら楽器を持ち込んでアピールするほど自信があるなら実力を見せてもらいましょうか、ということだろうか。そう思うと恐ろしいが、こうしてじっくり聞いてもらえばしっかり評価してもらえるのだから、演奏能力に自信がある私が通らないはずがない道だ。

 曲を指定されなかったので、この国でおそらく一番有名な往年の作曲家、アルベルト・モーリッツの代表曲という超無難な選曲をしていた。挨拶代わりというやつね。


 サロンの中は、4月に入ったこともあって日差しが柔らかい。とはいえ外はまだまだ肌寒いはずなのだが、楽器を奏でている間にかなりぽかぽかとして寒さは感じなかった。

 そんなことを考えている間に演奏は終わりの時間を迎えたようだ。


 どうにか一つもミスすることなく、令嬢らしく優雅に演奏できたと思う。

 実力の方は、推して知るべし。


「素晴らしい演奏でしたわ」


 本日の主催、美しく波打つ青髪を持つビエラー侯爵夫人は扇子を膝の上に置いて拍手してくれた。続くように他の夫人たちも拍手してくれる。私はその拍手に応えて、スカートを持ち少し頭を下げた。


「お褒めに預かり光栄です」

「キャロルさんは楽器がとても堪能でいらっしゃるのね」

「そうね、この国の中でもかなりの実力じゃないかしら」


 私のお礼に続いて発言したのは、どちらも伯爵夫人だったか。

 今日のお茶会はビエラー侯爵夫人の親しいご友人ばかりなので、伯爵夫人以下の方はいらっしゃらない。かなり身分が高い奥方ばかりなのでちょっぴり緊張するけど、私は本来公爵令嬢なので表情には出さなかった。こちらの言葉にも優雅に謙遜していると、義母カロリーナがころころと笑った。


「キャロルは私の自慢の養娘ですのよ。でも、幼い頃はあまり楽器が上手ではなかったのに、随分と成長したのねぇ」

「ふふ……努力しましたから」


 キャロラインの頃を知っているカロリーナの発言にはひやりとするが、5年会っていなかったこともあり、追求するほど疑問には思われなかったようだ。話題はすぐに流れていった。


 この後、招待されたみんなで軽くセッションして、そしてメイドが持ってきたお茶とお菓子の時間となった。


 ここで話題になるのはやはり社交界の噂から美しいドレスや宝石の最新情報、誰と誰が婚約したとか、そういう話になる。主催のビエラー侯爵夫人は義母と同じくあまり悪い噂を好まれないので、悪口大会はなし。

 笑顔の耐えない話題が尽きてきたとき、伯爵夫人の一人であるチェリウス伯爵夫人がぽん、と扇子を打った。


「そういえばキャロルさんは学園へ通われるのよね?」

「はい、こちらの最高学年に編入致しました。始業の式典が明日行われますの」


 4月に入って2週目である明日の月曜日から始業となる。入学式は4月1日に行われるが、最終学年で編入、つまり転校生である私に参加資格はない。


「そうだったわ。学園には私の息子も通っているのよ。同学年だから、同じクラスになるかもしれないわね」

「ご子息は一番学力が高いSクラスでしょう? 編入ですから採点基準が厳しいですから、難しいと思いますわ」

「あら、キャロルさんはとても優秀だと聞いていますよ」


 ビエラー侯爵夫人の笑顔に謙遜していると、横槍のように言い出しっぺのチェリウス伯爵夫人が口を挟んできた。


 うう、あんまり持ち上げられると笑顔がひきつっちゃいそう。


 一体誰が私の噂話をしたの、と思うけど『隣国の第二王子の婚約者であったキャロライン』が私、というつながりを知らない人しかいないこの国で、私のことを知っているのなんて義母だけだ。


 おばさま、いえ、お義母様は一体お茶会で何のお話をしているのかしら……。


 彼女の参加するお茶会全てに同行しているわけではない。

 きっと新しい養女である私の話題が出たときに善意で色々言ってくれているのだとは思うけど、いつの間にかハードルを上げられているこちらの身にもなってほしいわ……。


「あ、そういえば知っていまして? 噴水広場に現れる男の子たちの噂!」


 もうひとりの伯爵夫人こと、バルナ伯爵夫人が思い出したように口を開いた。彼女はどちらかと言うと空気が読めないタイプなので、私のフォローをしてくれたというよりは本当に思い出したのだろう。ドキンと心臓が鳴るが、おくびにも出さずに不思議そうな顔をしてみせる。


「噴水広場というと市場の方でしょうか?」

「そう。キャロルさんは行ったことがあって? 休日には市場や大道芸、出店なんかが出ていますの」

「いえ、あの辺りは庶民の方の憩いの場と聞いていますが……」

「ええ、でも学生はよく訪れるのよ。あの辺りは学生のお店が多いですからね」


 この国では貴族街や庶民街といった明確な決まりはないのだが、やはり市場などがある場所は庶民が多いので貴族は近づかない。だが、例外的に学園に通う貴族の学生は制服姿で気兼ねなく訪れることが多いそうだ。

 その理由は学生向けの商品が売られていることや、音楽の腕試しができる噴水広場があること、学生のまだ自由が許される身分のうちに庶民の生活を見ておくことも貴族として重要だとされる風潮があるから。

 庶民の友人と交流をはかるためにそちらの金銭感覚のお店に合わせるという意味もあるらしい。

 音楽の実力があれば庶民でも一目置かれるこの国では、学生内でのカーストはさほどないのだと予測された。


 優しい国だよね、ここって。生まれた国はかなり身分にこだわる貴族が多くて、庶民との格差だけでなく爵位間の格差もかなり激しかった。


「そうなんですね、学園に馴染んだら行ってみたいです。それで、バルナ伯爵夫人は噴水広場で何かを目撃されたんですか?」

「いいえ。わたくし、結婚してからは一度もあの辺りに顔を出していないわね。噂というか、メイドが見かけたらしいの。歌って踊る、綺麗な男の子なんですって」


 ゲリラライブはあれから2度行った、先週の日曜日と、今日の昼過ぎだ。

 今日のライブはお茶会の準備のために見守ることは叶わなかったが、戻ってきた皆に報告された限りでは固定客がすでについていたらしい。客層は変わらず庶民ばかり。

 お買い物に来たメイドさんから貴族に伝わるというルートは予測していたが、こんなに早くお茶会の話題にのぼるとは思っていなくてちょっと驚いた。


「綺麗な男の子?」

「ええ。お昼すぎに突然数人の男の子が現れて、誰も聞いたことがないような派手な曲を2曲披露したんですって。その曲に合わせて、代表の数人が歌って踊っていたそうなの」


 チェリウス伯爵夫人やビエラー侯爵夫人は興味を抱いたようだ。義母カロリーナは何かを察したのか、ニコニコと笑って聞き役に徹するつもりらしい。


「へぇ……学生かしら?」

「どうでしょうか。メイドによると、お茶会や夜会では見たことがない顔だと言っていたので庶民かもしれませんね」

「若い子が元気なのは良いことですね」


 扇子を開いたビエラー侯爵夫人は優雅な笑みを浮かべた。


「メイドが辺りの子に聞いてみたら、先週の休日もやっていたようなの。来週もやるかもしれないからチェックしようと思っていますわ」

「ふふ、それは興味深いですこと。また何か分かったら教えてくださいな」

「ええ、もちろん」


 美しくセンスも良いビエラー侯爵夫人は流行を作る人とも言われている。私は期待にこっそりと笑みを零した。


 彼女のお眼鏡にかなえば良い噂になって、貴族に一気に広がるかも。


 来週ももちろんライブするつもりだし、気合い入れて行こうって伝えなきゃ!

じわっと広まっていきます。

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