第七話 真夜中の逃亡
第七話 真夜中の逃亡
私たちは地下への入り口から城外への出入り口に向かって走り出したものの、先ほど追いかけられた兵士たちに見つかってしまった。
「待て、ソフィー様を何処へ連れて行く気だ。」
逃げるものの前からも同様に兵士がこちらに向かってくる。結果、私たちは囲まれてしまった。
アランは立ち止まり、無言で前後の兵士を交互に見ている。この状況を打開する案を考えているのだろうか。
「強行突破しかないみたいだね。」
アランがそう言うと、少し腰を落とした状態になる。やっぱり、強行突破ですか。
「うぬ、かかれ。」
兵士の一人の声で前後の兵士たちが私たちに突進してくる。アランはそれに合わせて前の兵士へ向かって走り出した。
「おりゃあ。」
前に居る兵士が私たちめがけて剣を水平に振る。アランは私を抱えたままそれを器用に跳んでかわした。アランは続いて垂直に振り下ろされた剣を避けながら、兵士たちの間をすり抜けて突破した。
「おのれ、待てぇ。」
背後から兵士たちの声が聞こえるものの後ろを見る気は起きなかった。目の前に城外への出入り口があるからだ。城外へ出れば、逃げ切ることは格段に楽になる。
私たちはそのまま城外への出入り口から町に出た。真っ暗な町は凄く静かで、私たちと兵士たちの足音が聞こえるだけだ。
「そこを左よ。」
私はアランに抱えられたまま、次に進むべき道を指定していく。まずはあそこへ行かなければならない。しかし、兵士は連れて行けない。
町中をぐるぐると走り回ることで兵士たちを巻こうとした。しかし、それでも、しつこくついてくる奴がいた。
「待ちやがれ。」
背後から兵士の大声が聞こえてくる。
今はもうみんな眠っている時間だというのに、よくそんなに大きな声を出して追いかけてこれると思う。早いところ完全に巻かないといけない。ふと、前を見ると目的地に凄く近いことがわかった。
「この角を右。」
アランは私の指示通り角を右に曲がる。すると、数時間前にピエールと訪れた修理屋が見えてきた。
「あの店の前で止まって。扉の前よ。」
私は修理屋を指差す。店主ならたたき起こせば入れてくれるだろう。それに、匿ってくれるかもしれない。
アランは私の指示通り修理屋の扉の前に止まる。私はすぐに扉を勢いよく叩いた。多分、これまででもっとも強く叩いた気がする。
しかし、なかなか店主は出てこない。
「早く出てきてよ。」
扉に向かって言っても、反応は無い。早く出てきて、早く。
「居やがったな。」
声がする方向を見れば、兵士が私たちが来た道を通ってこちらに向かってきた。
「くう。一旦離れるわよ。」
「まだ走らせる気かよ。」
アランはそう言いつつも走り出した。捕まれば、アランが帰る機会が失われかねない。私が捕まっても、アランが捕まっても、どちらも捕まったとしてもだ。
「ぐへっ。」
もしやと思い、修理屋のほうを見れば、扉が開いていた。そこから、店主の頭が見えた。
「お店が開いた。さっきの店に引き返してよ。早く。」
私はアランをせかして修理屋前に戻る。よく見れば、追ってきた兵士は店主の開いた扉に激突したらしい。兵士は扉のそばで倒れている。
「ああ、ソフィー様。なんだいこんな夜中に。」
店主はまだ完全に起ききっていないようで、のろのろとしていた。
「話はあとよ。早く入れて頂戴。」
それだけ言うと、私たちはそのまま店内へ入った。
「早く扉を閉めて。」
店主は私の声で扉を閉めると鍵をかけた。時間が時間だからか、無意識にそうしているように見えた。
「なんなんだい本当に。」
そう言いながら私をよく見る店主。すると、表情が一変した。
「りょ、両足が折れているじゃないか。どうして、何故だい。それに君を抱えている男の子は…。」
「細かいことは全部後よ。早く直してほしいの。早ければ早いだけいいわ。」
私は店主の驚きとは対照的に冷めた口調で言い放った。
「わ、わかった。まずは見せてくれ。」
店主はアランから私を受け取ると、作業台にのせて、なにやら調べ始めた。この時は何もしゃべらないほうがいい。何か言うと怒り出すからだ。アランを見れば、黙って近くにあった椅子に座っている。
「うん。折れた部分を取り替えれば大丈夫だろう。」
店主はそう言うと、部屋の隅から早速工具と材料をとって来る。
その時、扉を叩く音がした。
「ん。なんだ。」
何も考えずにそのまま扉の外に居る者へ対応しようとする店主。私はその店主の服を掴んだ。
店の前に倒れている兵士。中から漏れる光。他の兵士が見れば、怪しいと思わざるを得ない。
「まだ開けないで。私たち追われてるの。見つかったら困るのよ。」
店主は私をじっと見る。そして、彼は一度頷いた。
「ソフィー様が兵士に追われるとはね。よほどの理由があるんだろ。」
店主はそう言いながらアランを見る。私も釣られてアランを見た。まさか、店主は気が付いているのだろうか。
再度、扉を叩く音がした。
店主は再びこちらを向くと、私を入り口から見え無い所に移動した。そして、アランに手招きをする。
「早くこっちに来な。」
店主は私たちを隠すと、扉へと向かった。
「なんだいこんな夜中に。」
店主は眠そうに扉を開ける。そっと扉の外に居る相手を見ると、やはり兵士だった。
「先ほど城内から逃げた男女の二人組を探している。一人は我が国の王女ソフィー様だ。」
兵士は店主にそう言っている。
「知らないね。そんな二人組は見てないよ。」
店主は兵士の目を見てきっぱりと言い切った。
「そうか。それと、あんたの店の前にうちの兵士が一人倒れていたんだが何か知ってるか。」
「それも知らないね。さっきまで扉に鍵を閉めてたから外のことはわからないよ。」
店主はくるりと体を反転させて、兵士からは見えない位置にある工具を掴んで見せた。
「それに仕事で使う工具を手入れしていたんだ。外のことなんてかまっていられるかっての。そんだけだ。」
「そうか。邪魔をしたな。先ほど言った二人組を見たら城のほうに通報してほしい。」
兵士はそう言うと扉を離れて、私の視界から消えてしまった。
店主はすぐに扉を閉めて鍵をかけた。そして、こちらに向かって歩いてくる。
「なんとか、追い返したよ。さてと、さっさと直すかね。このままだと面倒だろ。」
店主はそう言いながら、私を抱えて再び作業台に乗せた。
「君はそっちに座ってなさい。それと、作業が終わるまで私に話しかけないようにね。」
店主はアランを部屋の端にある椅子に座らせると、私の足を直し始めた。
店主が作業をしている間、誰も喋らない。部屋の中は木を切る音や工具を使ったときの音が響くだけである。
アランを見れば、椅子に座ったまま眠っているようだ。時間が時間だからだろう。私のように六時ごろに起きたわけではないだろう。もしかしたら今まさに眠ろうとしたときに、こちらに呼んでしまったのかもしれない。
私の足を直す作業は外が明るくなり始めたころに終わった。
「直ったよ。ああ、疲れた。」
店主はそう言いながら、その場に倒れこむ。たたき起こしただけに、疲れているのだろう。
私は直った足を見た。数時間前の状態が夢であったかのような仕上がりに、思わず驚きの声を上げそうになる。しかし、周りはみんな寝ている。
私もそのまま朝まで眠ることにした。




