第六話 挫折
第六話 挫折
私たちは女王の部屋を出た後、地下へ続く階段を目指して城内を移動した。
しばらく静かにしていたためか、遭遇する兵士の数は少なく。通り過ぎた兵士の背後を移動するといった方法で少しずつ下への階段を降りていった。これなら簡単に地下へ行くことが出来そうだ。だとすれば、その前にあそこへ行こう。
「地下へ行く前に私も着替える。こんな服装で移動し続けるなんて辛いわ。」
私は自分の服装を見ながら言った。ピエールに服を取って来てもらう予定だったが、予期せぬ王様の登場に不可能となってしまった。
「それで、何処で着替えるの。」
「こっちよ。」
私は城外への出入り口へ向かった。あそこなら、外出用の服があるはずだ。
出入り口に着くと、案の定私の服があった。とは言っても、私やピエールだけが分かる場所に隠されているのだけれど。
「あんたは向こう向いて見張ってなさい。」
私はアランを見張らせた状態で服を着替えた。なんとも動きづらい服から、すっきりした動きやすい服に着替えると気分まで良い気分になった。脱いだ服を見える場所に置く。これで、外に逃げたかのように思わせることが出来るだろう。
「いいわよ。」
私の姿を見たアランが言った言葉は私にとって意外なものだった。
「か、かわいい。」
アランが私の魅力に気が付いたようだけど、あえて反応する必要もないだろう。
私はそのまま突っ立っているアランを引っ張って出入り口を離れた。
すると、すぐに近くに居た兵士が私の服を発見する。今彼らの中では、私は外へ逃げたのではないかという考えが大きくなっていることだろう。
私たちはその光景を横目にその場を離れた。
地下へ続く階段は城に居る人のほとんどが見たことが無い。それだけ、その階段を下りた先にあるものに関係する者が限られているからだ。
幾つかの角を曲がると、何の変哲も無い壁に到達する。
「ここが入り口よ。」
私が言いながら目の前の壁を触る。
「そう言われても、ただの壁じゃないか。」
アランはもっともらしい言葉を言う。そうだ、見た目はただの壁なのだ。しかし、その壁の後ろに私たちの求めるものがある。
「入り口を開けるわ。こっちよ。」
そう言って、仕掛けを解こうと右隣の部屋に向かった。アランを先に入れて、私は廊下に誰も居ないことを確認すると扉を閉めた。
「ここは。広い部屋みたいだけど。」
アランはそう言いながら部屋の中心へと向かって歩く。
「ここは広間といったところかしらね。」
私はそう言いながら、暖炉へと向かう。
「ちょっと待ってて、今開けるから。」
暖炉は地下への入り口である壁側にある。暖炉の中に入り、ぐるり反転すると小さな突起が見つかる。その突起を押し込むと軽い音がして、何処かでまた軽い音が聞こえた。
「開いたみたいよ。」
私は暖炉から出ながら言った。しかし、そんなのんきな言葉を言っていられないことはすぐにわかった。兵士が一番遠い扉から広間に入ってきのだ。
「侵入者め。待て。」
兵士はアランめがけて突進してくる。アランはそれをかわすとこちら側に逃げてきた。
「どうすんだよ。こっから。」
「わかんないわよ。」
私たちは一緒に広間を出た。すぐに地下への入り口に向かった。壁は押すことで、扉のように奥へ移動していった。私たちはすぐにその中へ入り、扉を閉めた。扉を閉めたとき音がした。鍵がかかった音だ。これで、外から入るには再び暖炉の仕掛けを押さなきゃいけない。
廊下から兵士の足音が聞こえる。しかも、一人などではなく少なくとも数人が通っていった。
私たちは薄暗い中兵士が遠ざかるまでじっとしていた。
しばらくすると外から兵士の足音が聞こえなくなる。
「追ってた奴らは何処かへ行ったようだね。よかった。」
アランはその場に座り込んだ。そして、入ってきた扉を軽く叩く。
「鍵がしまったようだけど。また、出られるよね。」
アランが心配そうに小声で聞いてくる。
「大丈夫よ。心配しないで。内側からなら簡単に開けられるから。」
私はアランを見下ろして言った。そして、地下へ続く階段を見て続けた。
「なんとか。ここまで来れたわね。あと少しよ。」
私は座り込んだアランに手を差し伸べる。彼の手を掴むと立たせた。
階段は石を敷き詰めて出来ており、壁も天井も同じく石で出来ている。故に一歩降りるごとに靴が音を立てた。私たちは等間隔に点いた明かりをたよりに階段を下りていった。
「ここから先は王家専用倉庫といったところ。だけど、まだ油断は出来ないわよ。」
私は階段を下りながら小声で言った。そうせざるを得ない状況があるからだ。
階段を降りきると、冷たい石が空間を満たしていた。全てが石造りで、暖かさなど感じられない。
「こっちよ。」
私は足音に気を付けながらアランとともに目的の部屋へ向かった。通り過ぎる部屋のどれにもそれぞれ何かしら価値のあるものが置かれている。しかし、私にはよく分からないものばかりだ。何故、どうやって集めたのかさえもわからない。
その時、遠くから足音が聞こえてくる。
「隠れて。」
私たちは右前にある部屋の壁に隠れた。角から足音が聞こえる方を見れば兵士が居た。すぐに角から顔を離す。
「兵士が居るわ。しかも、よりによってあいつが居るなんて。」
「誰なのあいつって。」
アランの言葉を聞きながら、再び角から兵士を見た。その体は他の兵士とは比べ物にならないほど大きい。
「私はあいつを処刑人って呼んでる。大きな鎌を持って歩き回っているからよ。あの鎌で木を切るか人を切るかするの。本当に、警備をする兵士としては適任ね。」
私は角から顔を離す。目的の部屋へ向かうためには目の前の一本道を越え無ければたどり着けない。私が興味本位で来たときは処刑人以外の兵士が居たからなんとかなったけど、もしあいつに見つかったら私でも真っ二つにされかねない。
「あいつが黙って通り過ぎるのを待つのよ。通り過ぎたらすぐに向こうへ行く。いいわね。」
アランを見れば、私を見て頷いている。二人とも黙って処刑人が通り過ぎるときを待った。
ゆっくりと近づいてくる足音。鎌を振っているのか、風を切る音が聞こえた。鎌が床か壁にあたったのか、高い音が聞こえてくる。
「こ、恐いっての。」
アランが沈黙を破って小さく呟いた。もっともだと思う。私たちと違って、彼が真っ二つにされたらそのまま死んじゃうかもしれない。彼の状態から察するに、本当に死ぬだろう。
「黙ってれば大丈夫よ。」
私は小さく呟くと黙った。処刑人がかなり近づいてきているからだ。さらに足音が大きくなる。
角から再び見れば、処刑人は私たちが張り付いている部屋の前まで来ようとしていた。
私はすぐに顔を離して目をつむった。もう少しだ。もう少しで通り過ぎる。そう思ったとき、事は起こった。
「はっ、はっくしょん。」
アランの声が廊下に響く。
「誰だ。誰か居るのか。」
処刑人の声が聞こえてくる。見つかっちゃったよどうしよう。私はアランを見た。
「馬鹿。こんな時になん…。」
私はすべてを言い切る前に、体が降下する感覚を味わった。
「えっ。」
足元を見れば、私の足を鋭利な刃物が真っ二つにしていた。
「きゃっ、きゃあああ。」
私は叫びながら地面に崩れ落ちる。自分の両足を持ってまた叫ぶ。片足ならこれまでも変なところで転んで折った事はあった。しかし、両足は一度も無い。故に両足を一気に折られることは想像を超えた状態だった。
「こっ、この声は。」
処刑人は驚きの声を発しながら、私たちが見える位置に移動した。遠くからでも分かる大きな体はさらに大きく見えた。
「ソフィー様。何故ここにいらっしゃるんですか。」
驚く処刑人は私を見つけた後、その奥に居るアランを見つけた。
「誰だお前は。ソフィー様から離れろ。」
処刑人は鎌を振り上げる。私は体を転がしてアランにくっ付いた。
「アラン、私を抱えて頂戴。逃げるわよ。」
アランは言う通りに私を両手で抱えて立ち上がる。
その時、処刑人が鎌を振り下ろしてきた。
「うおっ。」
アランと私は間一髪鎌を交わすと、来た道を全力で走って逃げた。処刑人を見れば、体が大きいためか、走る速度は遅いようだ。
アランは私を抱えたまま石の階段を上り始める。階段を上りきると、扉に着いた。
「どうやって開けるのさ。」
アランはさすがに私を抱えて階段を上ってきたためか少しお疲れのようだ。
私は彼の言葉を聞き流しつつ、右手を空けて扉に付いた取っ手を掴んだ。その取っ手を回転させる。すると、一定の位置まで回すとそれ以上回らなくなった。
「一歩下がって。」
アランは私の言うとおり一歩下がった。すると、扉が開く。アランは開いた扉の隙間に足を入れて、体全体が出られるようにした。
城内を照らす光をひさしぶりに見たような気がした。地下への入り口は自動的に閉まり、鍵がかかった。
「このまま城外へ出るわ。連れてって。」
「はい、はい。」
私を抱えたままのアランはそれだけ言うと、城外への出入り口へ向かって走り出した。




