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最強相棒(トカゲ)と極上丼で異世界無双〜世界を滅ぼすバケモノを巨大エビフライとして使ったら、神や魔王が賄い目当てで住み着いた〜  作者: 月神世一


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EP 9

「天使長様が激怒して降臨したが、肉椎茸ワサビ醤油丼で肩を揉ませてきた」

 ポポロ村の拠点に、かつてない清廉で重苦しいプレッシャーが降り注いだのは、週明けの朝のことだった。

 庭の「水晶イカ(昨日採取したダンジョン産食材)」をどう調理するかロード氏と議論していた私の耳に、耳をつんざくような天使のラッパが響き渡る。

「……不届き者どもめ! 神の秩序を乱し、天使を拉致し、堕落させる辺境の異端者よ! 我が名において、貴様らの拠点を消滅させるッ!!」

 空を裂いて現れたのは、黄金の翼を背負い、聖槍グラニを構えた銀髪の美女――天使族長ヴァルキュリアであった。彼女の放つ神気はあまりにも鋭く、昨日の刺客(影蟲)などとは次元が違う。地面に植えてあったタマンネギが、あまりのプレッシャーに「ヒェッ」と悲鳴を上げて地面に埋没したほどだ。

「……ありゃ、ヴァルキュリアやないか。姐さん、気合い入りすぎやで」

 ロード氏が呆れ顔で呟く。その横で、皿洗いをしていた元勇者ゼロスが、ガタガタと震えながら盾を構えた。

「た、天使長!? なぜここに……っ! これ以上カツ丼が食えなくなるのは嫌だァァァッ!」

 私はホウキを構え、震える足で一歩前に出た。

「お、お客人! 朝から怒鳴ると体に毒でござるよ! とりあえず落ち着くでござる、お茶とお茶請けを用意するでござるから!」

「黙れッ! 貴様のその言葉の端々から漂う『人間界の卑しい娯楽』の臭い……! 我には通用せぬッ!」

 ヴァルキュリアは聖槍グラニを突き出し、黄金の雷光を纏わせた。一撃でこの拠点を消し飛ばす気だ。

 私は死を覚悟した。……いや、待て。彼女、さっきから「天界の支給品(EPA型)」のせいで顔色が悪いのではないか?

 そう、彼女の装備している聖なる鎧の隙間から、チラリと見えるのは、あの「緑の絶望(特製青汁)」が染み付いた汚れた布だ。

「……天使長殿、一つ聞いて良いでござるか? 貴殿のその青汁、いつまで飲んでいるでござるか?」

 私が問うと、ヴァルキュリアの動きが一瞬だけ鈍った。

「……貴様に何が分かる! これは私の健康と、天界の規律のために必要な儀式だ! たとえどれほど苦くとも、これを飲み干すことこそが――」

「苦いんでござろう?」

 一言、確信を突く。

 ヴァルキュリアの瞳が、わずかに揺れた。

「……ッ!!」

「今日、収穫したばかりの極上の肉椎茸と、ワサビ醤油で仕上げた『肉椎茸ワサビ醤油丼』があるでござる。これを食えば、その苦い青汁の呪縛からも解放されるはずでござる」

 私はDPを使い、最高級の肉椎茸を召喚した。

 焼きたての肉椎茸に、爽快なワサビを混ぜた醤油ダレを回しかける。立ち昇る湯気は、まるでヴァルキュリアの厳しい規律を優しく溶かすような、芳醇で温かい香りだった。

「……っ!? なんだ、この香りは……!」

 彼女は迷いながらも、聖槍を下げた。私が手渡したどんぶりを、彼女は震える手で受け取る。

 恐る恐る口に運んだ、その瞬間。

「……ぁ……っ」

 彼女の黄金の翼が、バサリと大きく広がった。

 ワサビの刺激が鼻を突き抜け、肉椎茸の濃厚な旨味が口中に広がる。天界の規律と苦行に縛られていた彼女の心が、あまりの美味しさに、ぷつりと糸が切れたように脱力した。

「おいひい……。……ずっと、苦かった。毎朝、毎日、苦くて辛い青汁を飲んで、規律を守るために笑うことも忘れて……でも、このご飯は……温かくて、優しくて……!」

 ヴァルキュリアは、立ったままどんぶりを抱きしめ、嗚咽を漏らした。

 彼女の威厳ある顔が崩れ、純粋な一人の女性の顔になる。あまりの衝撃に、私は思わず彼女の肩に手を乗せた。

「……毎日、大変でござったな。その分、このどんぶりで元気を出すでござるよ。肩が凝っているでござるか? 良ければ、拙者が揉むでござる!」

 私は彼女の肩を揉み始めた。

 元・牛丼屋のワンオペで鍛えた指圧だ。彼女はカチコチに固まっていた天使の肩を、私の指先に預け、小さく溜息をついた。

「……貴様、何者だ。……こんなに、体が軽くなるなんて……。天使の規律なんて、どうでもよくなるくらい……」

 数分後。

 聖槍を庭に放置し、どんぶりを完食したヴァルキュリアは、完全に『癒やされた』表情で、満足げに目を閉じていた。

「……もう良い。この拠点は……今日は、視察を中止にする。天界には、『異端者は存在しなかった』と報告してやろう」

 彼女はフラフラと空へ帰っていった。

 その背中は、来た時のような冷徹な刺客のものではなく、極上の温泉から上がってきたばかりの湯上がりのような、幸福感に満ちたものだった。

 その一部始終を、天界からリリスがエンジェルすまーとふぉんで録画していた。

『ヴァルキュリア隊長が……堕ちた! これは伝説の動画になるぞ! 後でゴッドチューブにアップして再生数稼ぐんだ!』

 天界の予算獲得会議は、今日も今日とて大荒れになることが約束された。

 私はそんなことを知る由もなく、満足げな表情の彼女を見送り、ロード氏と二人で、残った肉椎茸をもう一杯ずつ追加召喚するのであった。

「ヨシキ、お前、今度は天使長まで肩揉みして手なずけよったな……。そのうち、全神族がヨシキの肩揉み待ちの行列を作るで」

 ロード氏の予言通り、この拠点は、もはやただのルナイーツの配達拠点ではなく、神々が癒やしを求めて彷徨う「最強のどんぶり屋兼マッサージ処」と化していた。

 だが、その安らぎを打ち破るように、またしてもポポロ村の境界が軋む。

 今度は、もっと「悪意」の濃い、ビジネスライクな何かが。

「さて、次の客人は、どんなお腹を空かせているでござるかな?」

 私は今日も、ホウキを持って庭先を掃く。

 平和だ。本当に平和でござるよ。神々が何人来ようとも、どんぶりさえあれば、拙者のスローライフは揺るがない。

 ……そう、丼があれば、なんでも解決でござる!

お読みいただきありがとうございます!


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