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最強相棒(トカゲ)と極上丼で異世界無双〜世界を滅ぼすバケモノを巨大エビフライとして使ったら、神や魔王が賄い目当てで住み着いた〜  作者: 月神世一


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7/20

EP 7

「喋る魔植物と毒舌ネギの襲来は、最高のサラダ丼で解決でござる」

 ポポロ村の朝は早い。

 ルナ・イーツの拠点となっている我がボロアパートの庭先は、今日も今日とて平和……かと思いきや、少し様子がおかしかった。

 昨日、うっかり畑に撒いてしまった「陽薬草」の栄養剤と、どこからか迷い込んだ「変異体ネギの種」が混ざり合い、とんでもない化学反応を起こしていたらしい。

「ギャーーーッ!! 離せェッ! 私はまだ死にたくないィィィッ!!」

「……たまんねーなオイ! そこのルナミス新聞のエロ本のページ、めくる手が遅いぞ! もっとページをめくれッ!!」

 庭先で、人参マンドラが足をバタバタさせて走り回り、玉ねぎの「たまんネギ」が庭の垣根にひっかかって、新聞を読みながら毒舌を吐いていた。

 庭の土からは、ムキムキの筋肉を誇示する「肉椎茸」が地面を突き破って生えてきている。この村の魔力濃度は、時々、農作物をアグレッシブに進化させすぎるきらいがある。

「やれやれ、今日も元気な野菜たちでござるな。これは『収穫』のし甲斐があるというもの……いや、待てよ。マンドラが走っているのは……脱走でござるか!?」

 私は慌ててホウキを構えた。昨日の「海老天丼(死蟲機)」に続き、今日も今日とて食材が向こうから暴れてやってくる。この拠点は、食材確保の難易度がやけに高い。

 たまんネギが「ゲヘヘ、この俺を食うつもりか? 食えるもんなら食ってみやがれ、俺の皮を剥けば涙が止まらなくなるぞ!」と挑発してくる。

「うるさいでござる! 皮ごとまとめて、特製どんぶりに昇華させてやるでござる!」

 私は走り回るマンドラの足をホウキで払い、転んだ隙にひっこ抜く。

 マンドラは「ギャー!!」と悲鳴を上げたが、私は一切動じない。これもまた「収穫」という名の日常作業だ。

 そばでロード氏が、「ヨシキ、朝っぱらから農家のおじさんみたいやな。ワテは今日の朝飯、その肉椎茸のステーキ丼がええわ」とニヤニヤしながら、庭の肉椎茸を引っこ抜いている。

「肉椎茸ステーキ丼……良い響きでござるな。よし、たまんネギの毒舌も、熱々のタレで黙らせるでござる」

 私は庭で大暴れする魔植物たちを、テキパキと捕獲し、その場で調理場へと運んだ。

 元・牛丼屋のワンオペバイトの腕が、今ここで炸裂する。

 肉椎茸を厚切りにして、熱した鉄板の上でバター醤油と合わせて焼く。香ばしい香りが立ち昇り、たまんネギの毒舌をかき消すように甘い香りが広がる。

 走り回っていたマンドラは、細かく刻んでポテトサラダ風の薬味に。

 そして、たまんネギは皮を剥かれ、油でじっくりと炒められて「甘み」の塊へと変貌した。

「『丼マスター』発動! 来たれ、究極の魔植物丼でござる!」

 DPを消費し、究極の白米と特製タレを召喚。

 焼き上がった肉椎茸ステーキ、キャラメリゼされたたまんネギ、そしてマンドラの薬味を山盛りに乗せた『肉椎茸と幻野菜のローストビーフ風丼』が完成した。

 ちょうどその時、庭先には常連客である竜王デュークと、魔王ラスティア、そして皿洗い係のリリスが揃って現れていた。

「……おう、今日は随分と騒がしいと思っていたら、魔植物の暴走か。だが……この香りはなんだ?」

 デュークが鼻を動かす。ラスティアも「あら、なんだか美味しい匂いがするわね!」と目を輝かせている。

「お二人とも、ちょうど良いタイミングでござる。この暴れ回っていた魔植物たち、全部『肉椎茸と幻野菜の丼』に変えておいたでござるよ!」

 私は3人にどんぶりを手渡した。

 リリスは、先ほどまで自分の頭をハサミで切ろうとしていたたまんネギが、どんぶりの中でトロトロになっているのを見て、少し引きつった笑いを浮かべたが、一口食べると即座に表情を変えた。

「おいひぃ……! たまんネギさんの毒舌が、甘くて濃厚な旨味に変わってる……!」

 デュークも肉椎茸を噛み締め、その弾力に驚きの声を上げる。

「これは……ッ! ただのキノコではない! まるで最高級の黒豚の脂を纏ったかのような、暴力的な旨味だ! これをあのような暴れん坊から作ったのか……!」

 最強の強者たちが、庭で暴れていた化け物を、どんぶりの中で綺麗に平らげていく。

 私はその様子を見ながら、ロード氏と共に「やはり、この村は食材が豊かで最高でござるな!」と笑い合った。

 魔植物たちの断末魔? そんなものは知らない。美味しい丼の前では、すべてが等しく「食材」なのである。

 だが、その光景を遠くから見つめる者がいた。

 ポポロ村の村はずれ、霧の中に身を潜める影――炎上神ワイズの契約勇者、ミラースである。

 彼は妖刀「哭刀」を背負い、冷徹な視線で我々を観察していた。

「……ふん、愚かな。ただの魔植物をあのように扱えるとは、やはりあの配達員、只者ではない。だが、これならどうだ?」

 ミラースは手の中にあった小さな魔導結晶を指で弾いた。

 すると、拠点であるボロアパートの周囲に、不可視の結界が展開される。それは、周囲の魔力濃度を異常なまでに高め、拠点そのものを『ダンジョン化』させる呪いだった。

「これで、貴様らの拠点は『難攻不落のダンジョン』として公式に認定された。帝国の探索部隊が、貴様らを討伐対象として押し寄せてくるだろう。さあ、どうやって切り抜ける? それとも、ここで終わりか?」

 ミラースは薄ら笑いを浮かべ、霧の中へ消えていった。

 そんなこととは露知らず、私はリリスから渡されたどんぶりを受け取り、最後の一粒まで食べ尽くしていた。

「……ふぅ。満腹でござる。ロード氏、明日の配達ルートはどこでござるか?」

「おん。明日は、村の西側のダンジョン調査やで」

「ダンジョン? また面倒な……まぁ、通り道で山菜の一つも拾えれば良いでござるな」

 私は呑気に立ち上がり、ホウキを握った。

 庭先に広がるのは、もはやただの庭ではない。帝国の探索部隊が血眼になって探す『高難易度ダンジョン』だ。

 だが、今の我らにとっては、それはただの「巨大な食材貯蔵庫」に過ぎない。

「よし、明日も精一杯、善行を積んで丼を食べるでござるよ!」

 そんな拙者の後ろで、ロード氏がふと空を見上げる。

 彼の目には、この拠点の庭が、すでに怪しげな魔力で歪んでいるのが見えていた。

「……まぁ、何が湧こうと、ヨシキの丼には勝てへんやろな。……ワテの飯を邪魔する奴がおったら、その時は指パッチンで灰にしたるか」

 ロード氏は小さくそう呟き、尻尾で地面を叩いた。

 彼の加護のもと、この場所は神々の遊び場であり、最強の胃袋が集う聖域であり――そして、やがては大陸全土がその噂に震え上がる『異世界一の超特級危険エリア』へと変貌を遂げようとしていた。

 翌朝。

 玄関を開けた私は、庭に咲き誇る、昨日まで存在しなかった『光り輝くダンジョン草』を見て、目を輝かせた。

「おぉっ! これは……また珍しい山菜でござるな! これなら『絶品ダンジョンサラダ丼』が作れるでござる!」

 私はホウキを捨て、早速その光り輝く草を摘みに行く。

 その様子を、物陰から帝国軍の偵察隊が震えながら観察していた。

「……おい、嘘だろ。あの草は『触れるだけで肉体が崩壊する』という禁忌の猛毒草だぞ……。それを、素手で……しかも、美味そうだとか言いながら摘んでいる……!?」

 偵察兵たちの悲鳴が上がる中、私は鼻歌混じりで、世界を滅ぼしかねない禁忌の植物を、朝食のサラダへと変えていく。

 平和だ。本当に平和でござるな。

 私は今日も、最高の丼を食べて、最高の仕事をする。その繰り返しが、まさか世界の破滅や崩壊を救っているなんて、思いもしないまま。

            * * *

(天界のモニター室にて)

「……ダメだ。もうダメだ。あの配達員、猛毒草をサラダにして食ったぞ……。何を食べても平気な体質なのか? それとも、あのトカゲが何かをしているのか?」

 オリンは、今月三箱目の胃薬を飲み干した。

 その横で、ルチアナが興味津々にメモを取っている。

「へぇ……。あの草、毒抜きすれば最高のスパイスになるんじゃない? ねえ、今度良樹くんに送ってみようかな」

「やめろぉぉぉッ!! これ以上、あの拠点をバケモノの集会場にするなァァッ!!」

 オリンの絶叫は、今日も天界の冷たい壁に弾き返された。

 神々の思惑など、良樹には一切関係ない。

 彼はただ、目の前の、最高に美味そうなサラダ丼を、相棒と共に黙々と食らうだけである。

「ロード氏、今日の味付けは少しピリッとするでござるな」

「せやな。でも、この刺激がまたクセになるわ」

 二人の食卓は、今日も最高に美味い。

 そしてその足元で、何かが土の中から這い出てこようとしている。

 それは、ミラースが送り込んだ『次の刺客』――。

 だが、良樹が次に摘み取るのは、山菜か、それとも――。

「さぁ、明日はどんな丼でござるかな?」

 拙者はハーモニカをポケットにしまい、魔導車のペダルに足をかけた。

 物語は、さらなる狂乱の日常へと突き進んでいく。

 ……そして、その夜。

 村の境界にある巨大な結界が、何かによって内側から『食い破られた』という音が、村中に響き渡った。

「おん? なんか庭で妙な音がしたな。……まぁええわ。明日も腹減るし、早よ寝よ」

 ロード氏は、あくびをしながら瞳を閉じた。

 その隣で、私は明日のお昼ご飯のメニューを妄想しながら、深い眠りにつく。

 そんな拙者たちの枕元で、忍び寄る影が、ようやくその凶悪な姿を現し始めた。

 それは、ミラースの切り札。

 アバロン魔皇国軍の『暗殺特化型・影蟲』。

 今度こそ、良樹の首を狩るために送られた、本物の脅威である。

 ……果たして、この「影」は、どんな美味しそうな食材に変換されるのだろうか。

 そんな期待(と、少しの不安)を胸に、私は再び明日へ向かって歩き出すのである。

 世界は今日も、拙者の出す「丼」によって、奇跡的なバランスで守られている――のかもしれない。

 ……そう、かもしれないのだ。

 明日の朝、庭にどんな『食材』が咲いているかも知らずに。


お読みいただきありがとうございます!


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