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最強相棒(トカゲ)と極上丼で異世界無双〜世界を滅ぼすバケモノを巨大エビフライとして使ったら、神や魔王が賄い目当てで住み着いた〜  作者: 月神世一


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第二章 嵐を呼ぶ姫君たちと、極貧のアイドル

『パンの耳をかじる人魚と、安全靴の村長』

 ポポロ村の朝は、いつものように穏やかな陽光と、ルナ・イーツ配達拠点兼アパートの台所から漂う、強烈に食欲をそそる香りに包まれていた。

 今日の朝食兼、配達前の腹ごしらえとして佐須賀良樹さすが・よしきが仕込んでいるのは、昨日余った高級魚介の端材(マグローザやピラダイの切り落とし)を贅沢に使った『極上・海鮮アラ汁』と『漬け海鮮の宝石まかない丼』である。

 グツグツと煮込まれる大鍋からは、醤油草の香ばしい匂いと、魚介の濃厚な出汁の香りが湯気となって立ち昇っていた。

「……ヨシキ、朝からえらい豪勢な匂いさせとるやないか。ワテ、今日の配達はルナキン(ファミレス)の朝定食で済まそうと思っとったけど、こっち食うわ」

 相棒であるロードが、専用の配達バッグを肩にかけながら、台所のカウンターに顎を乗せて尻尾を揺らした。彼は始祖竜クロノという規格外の存在のはずだが、すっかりこの拠点の「食いしん坊な同居人」として馴染んでいる。

「ふふふ、ロード氏。ただのアラ汁と侮るなかれでござる! これは拠点周辺の溝掃除(善行ポイント50P)と、昨夜の皿洗い(善行ポイント10P)で貯めたポイントを駆使し、最高の薬味『大葉マンドラ』を添えた特別仕様でござるからな!」

 良樹が中二病全開のポーズを決めながらお玉を掲げたその時、拠点の玄関の扉がコンコン、と控えめにノックされた。

「おや、こんな朝早くに誰でござるか? 配達の依頼にはまだ早いでござるが……」

 良樹はエプロン姿のまま扉を開けた。

 そこに立っていたのは、予想外に若く、そして妙にアンバランスな格好をした二人の少女だった。

「おはようございます! 私、新しくポポロ村の村長に就任しました、キャルルと申します。ルナ・イーツさんには村の物流で大変お世話になると伺いまして、ご挨拶に伺いました!」

 ハキハキとした明るい声で頭を下げたのは、頭にピンと立った兎の耳(月兎族の証)を持つ、愛らしい顔立ちの少女だった。

 だが、その服装は「村長」という役職からはかけ離れている。動きやすさを重視したラフな現代風のパーカーに、足元はなんと『タローマン(ルナミス帝国のホームセンター)』で売られている、ガテン系職人御用達の特注・鋼鉄入り安全靴を履いていた。つま先に分厚い鉄板が入ったその靴は、並の魔物なら一蹴りで粉砕できる凶器だが、良樹にはただの実用的な作業靴にしか見えない。

 おまけに、彼女のポケットはパンパンに膨らんでおり、よく見るとキャンディや飴玉がギッシリと詰まっているのがわかる。

「お、おう。アンちゃん、村長言うわりには、随分と現場仕事に気合い入った足元しとるな。どっかの解体現場にでも行くんか?」

 ロードが呆れたようにツッコミを入れるが、キャルルは「あはは、村の巡回にはこれくらい頑丈な靴じゃないと!」と屈託なく笑う。

(なるほど、地域密着型の若きリーダーでござるな!)と良樹は一人感心した。前の村長がゲートボール仲間と駆け落ちして失踪したという三面記事はルナミス新聞で読んでいたので、後任がこんなに若い子だとは驚きだ。

 だが、良樹の視線はすぐに、キャルル村長の「背後」に隠れるようにして立っている、もう一人の少女に釘付けになった。

「……えっと……あの……良い匂い、ですね……」

 消え入りそうな声で呟いたその少女は、透き通るような美しい水色の髪を持っていた。おそらく海中国家シーランの出身(人魚族)だろう。

 しかし、その絶世の美貌を台無しにするかのように、彼女が着ているのはルナミスデパートの特売で売られているような『芋ジャージ(えんじ色)』であり、足元はイボイボのついた『健康サンダル』だった。

 何より、良樹の牛丼屋ワンオペ時代に鍛えられた『飢餓センサー』を激しく反応させたのは、彼女が両手で大事そうに抱え、チビチビとかじっている物体――『パンの耳』であった。

 ジャージのポケットには、申し訳程度に茹で卵が一つ入っている。

「キャルル殿、後ろのお連れ様は……?」

「あ、この子はリーザちゃんです。私のルナミス帝国時代のシェアハウス仲間で、今は私の村長宅に居候……というか、一緒に暮らしてまして」

 キャルルが苦笑いしながら紹介するが、リーザの目はもはや良樹やキャルルを見てはいなかった。彼女の焦点は完全に、台所から漂う『極上・海鮮アラ汁』の鍋にロックオンされている。

(……ゴクリ)

 リーザの喉が鳴る音が、玄関まで聞こえた。

 その瞬間、彼女はスッと無駄のない動きで半歩前に出た。それは、ルナミスマートの試食コーナーで、おばちゃんがウインナーを焼くのを待ち構える『プロの試食師』と全く同じ、洗練された重心移動だった。

「あの……私、お腹は空いてませんですぅ。アイドルたるもの、施しは受けない主義ですから……。ただ、その、お鍋からとても良い『出汁』の香りがするので、少しだけ、本当に少しだけ、味見という名の視察を……」

 強がりながらも、リーザのお腹が「グギュルルルゥゥゥ!」と、落雷のような爆音を鳴らした。

 交番の前で謎の反復横跳びをしてカツ丼を狙ったり、タローソンの廃棄弁当を巡って野良犬と死闘を繰り広げたりしてきた彼女の胃袋は、もはや限界を迎えている。

 彼女は顔を真っ赤にして、パンの耳で顔を隠した。

 良樹はすべてを理解した。

 なるほど。彼女たちは、かつて良樹自身が地球で経験したのと同じ『月末の金欠大学生』なのだ。

 家賃を払い、光熱費を払い、友人とシェアハウスをしてもなお、食費を極限まで削らねばならない厳しい現実。キャルルが村長という安定職に就いたとはいえ、赴任直後で給料日にはまだ遠いのだろう。

 現にリーザの主食はパンの耳と茹で卵。栄養失調一歩手前である。彼女たちの本当の身分が『レオン・ハート獣人王国の元第三姫君』と『シーラン国のアイドル人魚姫』であるなどとは、良樹の鈍感な脳みそでは想像の欠片も及ばない。

「……何も言わなくて良いでござるよ、お嬢さんたち」

 良樹は深く頷き、涙を拭うフリをした。

「拙者にもわかるでござる。月末の1LDKシェアハウスの厳しさが……! もやし炒めで3日を凌ぎ、牛丼のタレだけで白飯を食ったあの夜の冷たさが……! さぁ、遠慮せずに上がるでござる! ルナ・イーツは、夢を追う若者の胃袋を決して見捨てはしないでござるよ!」

「えっ? いや、そういうわけじゃ……」

 キャルルが戸惑う声を上げるが、リーザは「いただきますぅ!!」と叫ぶや否や、健康サンダルを猛スピードで脱ぎ捨て、芋ジャージの摩擦音を響かせながら拠点のリビングへと滑り込んだ。

「『丼マスター』発動! 来客2名様、特盛でござる!」

 良樹はカウンターに、熱々の白米の上に漬けにした高級海鮮の端材を山盛りに乗せた『宝石まかない丼』と、魚の骨から極限まで旨味を抽出した『特大アラ汁』を並べた。

「わ、わぁぁ……! お魚さん……! 温かいご飯……!」

 リーザは箸を握りしめ、震える手でアラ汁を一口啜った。

 その瞬間、彼女の瞳からポロポロと大粒の涙がこぼれ落ちた。

「美味しいっ……! 公園で摘んだ雑草サラダとは全然違う……! ちゃんと、温かくて、旨味があって……うぅぅっ、アイドルやめなくて良かったぁぁ……!」

 リーザはもはやアイドルの面影など微塵もなく、無心でまかない丼を掻き込み始めた。その食べるスピードと無駄のない箸さばきは、テント村の炊き出しの最前列で鍛え抜かれた歴戦の猛者のそれであった。

「ちょ、リーザちゃん! そんなに急いで食べたら喉に詰まっちゃうわよ! ……って、えっ?」

 キャルルも一口、アラ汁を飲んで目を見開いた。

「何これ……信じられないくらい美味しい……。王宮の……じゃなかった、ルナキンの朝定食のスープバーより、ずっと深い味がする……!」

 キャルルは月兎族の特有の鋭い聴覚で、良樹の心音に耳を澄ませていた。

(この配達員さん……嘘をついてない。下心も、見返りも求めてない。ただ純粋に、私たちに美味しいものを食べさせたいっていう、穏やかな心音……)

 彼女の目元が、少しだけ和らいだ。

「ヨシキ、お前また厄介……いや、元気のええ客拾ってきたなぁ。ま、ワテの分の魚が残っとるなら文句は言わんけどな」

 ロードが呆れながらも、自分の分の丼を尻尾で引き寄せる。

「プハーッ! ごちそうさまでしたぁ!!」

 ものの数分で特盛の丼とアラ汁を完食したリーザは、芋ジャージのお腹をぽんぽんと叩きながら、満面の笑みで立ち上がった。

「ルナ・イーツさん! 私、お金(銅貨)は一枚も持ってません! ですが、アイドルとして、この最高のご飯の恩返しに、私の『持ち歌』を披露させていただきます!」

「おっ、アイドル志望の路上ライブでござるか! それは楽しみでござる!」

 良樹が手を叩いて喜ぶと、リーザはどこから取り出したのか、一枚の『五円玉(同粒5枚に相当する硬貨)』をスッと自分の鼻の穴に詰めた。

「えっ?」

 良樹とロードが固まる中、絶世の美少女(芋ジャージ)は、自分のお腹をリズミカルに叩きながら歌い始めた。

「♪た、た、たぬきのお腹は ポンポコポンポン〜! 月よ〜月で〜頭は ハーゲハゲでピーカピカ〜!」

「……リーザちゃん。それ、ルナミス公園の宴会でおじさんたちからお菓子をもらうために覚えた『ポンポコ節』じゃない……」

 キャルルが顔を覆って絶望する中、リーザの腹太鼓は見事なビートを刻んでいた。

「素晴らしいでござる! 身体を張った大道芸! リーザ殿、そのガッツがあれば、ルナミス帝国でもきっと成功するでござるよ!」

 良樹は感動の涙を流し、大いに拍手喝采を送った。

 まさかこの鼻に五円玉を詰めた腹太鼓アイドルが、後に天界の予算(オリンの胃袋)すら脅かす強欲の歌姫へと変貌し、そして安全靴の村長が満月の夜に血塗られた回復鬼と化すことなど、この時の良樹には知る由もなかったのである。

お読みいただきありがとうございます!


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