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8 王命

「……俺が?」


勇者アレスは王宮の大広間で固まっていた。


目の前には王国騎士団長。


その隣には古代文明研究院の院長、エドガー。


王国でも指折りの重鎮たちだ。


「そうだ」


騎士団長が頷く。


「古代遺跡の起動は国家レベルの案件になった」


「それと俺たちに何の関係が?」


アレスが尋ねる。


するとエドガーが机の上に書類を置いた。


「関係がある」


そこに記されていた名前を見て、アレスの顔が強張る。


カイン・レイヴン


「……!」


「最近の調査で判明した」


エドガーが続ける。


「辺境都市ラウルで起きた一連の出来事」


「ダンジョン異変の解決」


「急速な町の発展」


「古代遺跡の起動」


「全てこの人物が関わっている」


アレスは黙り込む。


心の奥がざわついた。


最近、どこへ行ってもカインの名前を聞く。


最初は偶然だと思った。


だが。


もう偶然では説明できない。


「お前たちは彼の元仲間だそうだな」


騎士団長が言う。


その言葉が妙に刺さる。


元仲間。


確かにそうだ。


だが今となっては、その言葉が重かった。


「彼を知っているなら接触しやすい」


エドガーは続ける。


「我々は彼に会いたい」


「会ってどうする?」


「協力を求める」


即答だった。


「もし本当に伝承の人物なら、王国の未来に関わる」


アレスは複雑な表情になる。


かつて自分が追放した男に。


今度は国が頭を下げようとしている。


そんな話があるだろうか。



その頃。


ラウル。


「うまい」


俺はトマトを齧っていた。


自家栽培である。


甘い。


素晴らしい。


やはり野菜は自分で育てるに限る。


「平和だな」


『そうかな?』


ダンジョン精霊が隣で浮いている。


「平和だ」


『外が大変なことになってるけど』


「知らん」


『王都が騒いでるよ?』


「知らん」


『勇者も来るよ?』


「知らん」


俺は二個目のトマトを収穫した。


平和だった。


少なくとも俺はそう思いたかった。


しかし。


その時だった。


ドンドンドン!


家の扉が激しく叩かれる。


「カインさん!」


ロイドだった。


珍しく息を切らしている。


「どうした」


「大変だ!」


嫌な予感しかしない。


ロイドは叫んだ。


「町の外にドラゴンが出た!」


沈黙。


俺はトマトを見た。


ロイドを見た。


再びトマトを見た。


「……帰っていいか?」


「よくない!」



十分後。


町の見張り台。


住民たちが怯えながら空を見上げていた。


遥か彼方。


山脈の上空。


巨大な影が旋回している。


竜種。


しかもかなり大きい。


「討伐隊を出すか?」


ロイドが剣に手をかける。


しかし俺は首を振った。


「あれは違う」


「何が?」


「逃げている」


全員が固まる。


「ドラゴンが?」


「ああ」


よく見ると翼の動きがおかしい。


疲弊している。


しかも時折後ろを振り返っている。


まるで何かに追われているようだ。


そして次の瞬間。


山の向こうから黒い霧が現れた。


空そのものが腐っていくような不気味な闇。


ダンジョン精霊の顔色が変わる。


『まずい』


「知ってるのか?」


少女は震える声で言った。


『封印が壊れ始めてる』


「封印?」


『古代文明が滅んだ原因の一つ』


風が止まる。


空気が重くなる。


そして彼女は、初めて本気で恐れるような表情を浮かべた。


『あれは災厄級』


『本来なら万職者が対処する案件なの』


俺は嫌な予感を覚えた。


非常に嫌な予感だ。


なぜなら。


少女は今、


当然のように俺を見ながら話していたからである。


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