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7 整備

「まずは水路からだな」


翌朝。


俺は町長と一緒に町を歩いていた。


ラウルの人口はおよそ三千人。


辺境としてはそこそこ大きい。


だが問題も多かった。


「雨が降ると道が川になるんです」


町長がため息をつく。


実際、道には大きな轍ができている。


荷車も通りにくい。


「原因は?」


「分かりません」


俺は周囲を見回した。


十分後。


答えが出た。


「排水路の傾斜が逆だ」


「え?」


「水が流れてない」


町長が固まる。


確認すると本当だった。


数十年前の補修工事で角度を間違えたらしい。


「そんな馬鹿な……」


「よくある」


俺は頷いた。


建築では珍しくない。


小さなミスが数十年後に大問題になる。



三日後。


町の排水路は生まれ変わった。


雨が降る。


水が流れる。


道が沈まない。


それだけで住民たちは歓喜した。


「奇跡だ!」


「いや、計算通りだ」


「同じ意味じゃないか?」


ロイドが呆れた。



次は橋だった。


町の南側を流れる川。


そこに架かる木橋は今にも壊れそうだった。


「毎年修理してるんですが……」


「設計が悪い」


即答だった。


橋脚の位置。


荷重の分散。


全部がおかしい。


「作り直そう」


「予算が……」


「今ある材料でできる」


町長が驚く。


しかし本当にできた。


材料の使い方を変えただけで強度は倍以上。


工期は半分。


費用は三分の一。


住民たちはもはや驚かなくなっていた。


「カインさんだからな」


で済まされるようになっていた。



一か月後。


ラウルは変わり始めていた。


水路は整備された。


橋は安全になった。


農地の収穫量は増えた。


商人たちの利益も上がった。


その結果。


人が集まり始めた。


「移住したいんですが」


「店を出したい」


「仕事はありますか?」


町長は毎日悲鳴を上げていた。


良い意味で。



そしてある日の夕方。


俺が自宅の庭で野菜を育てていると。


空から光が降ってきた。


「またか」


嫌な予感しかしない。


光の中から現れたのは――


ダンジョン精霊の少女だった。


『やっほー』


「何しに来た」


『遊びに』


「帰れ」


『ひどい』


少女は頬を膨らませる。


しかし今日は少し様子が違った。


いつもの軽い雰囲気ではない。


『実はね』


「何だ」


『見つかった』


その一言で空気が変わった。


『古代遺跡が起動したこと、王都に知られちゃった』


俺は黙る。


予想していた。


あれだけ派手な現象だったのだ。


隠し通せるはずがない。


『もう動いてるよ』


少女は遠くを見る。


『学者も』


『貴族も』


『王家も』


そして。


『もっと厄介なのも』


俺は眉をひそめた。


「厄介なの?」


少女は珍しく真剣な表情で頷く。


『万職者を探している人たち』


『ずっと昔から』


風が吹いた。


庭の野菜が揺れる。


嫌な話だ。


非常に嫌な話だ。


俺は静かにため息をついた。


「俺、野菜育てて暮らしたいだけなんだが」


『無理だと思う』


即答だった。


その頃。


王都では一通の命令書が発行されていた。


発令者は王国そのもの。


内容は簡潔だった。


「古代遺跡起動の原因となった人物を発見せよ」


そしてその調査隊の中には、


かつてカインを追放した勇者アレスの名前もあった――。

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