7 整備
「まずは水路からだな」
翌朝。
俺は町長と一緒に町を歩いていた。
ラウルの人口はおよそ三千人。
辺境としてはそこそこ大きい。
だが問題も多かった。
「雨が降ると道が川になるんです」
町長がため息をつく。
実際、道には大きな轍ができている。
荷車も通りにくい。
「原因は?」
「分かりません」
俺は周囲を見回した。
十分後。
答えが出た。
「排水路の傾斜が逆だ」
「え?」
「水が流れてない」
町長が固まる。
確認すると本当だった。
数十年前の補修工事で角度を間違えたらしい。
「そんな馬鹿な……」
「よくある」
俺は頷いた。
建築では珍しくない。
小さなミスが数十年後に大問題になる。
◇
三日後。
町の排水路は生まれ変わった。
雨が降る。
水が流れる。
道が沈まない。
それだけで住民たちは歓喜した。
「奇跡だ!」
「いや、計算通りだ」
「同じ意味じゃないか?」
ロイドが呆れた。
◇
次は橋だった。
町の南側を流れる川。
そこに架かる木橋は今にも壊れそうだった。
「毎年修理してるんですが……」
「設計が悪い」
即答だった。
橋脚の位置。
荷重の分散。
全部がおかしい。
「作り直そう」
「予算が……」
「今ある材料でできる」
町長が驚く。
しかし本当にできた。
材料の使い方を変えただけで強度は倍以上。
工期は半分。
費用は三分の一。
住民たちはもはや驚かなくなっていた。
「カインさんだからな」
で済まされるようになっていた。
◇
一か月後。
ラウルは変わり始めていた。
水路は整備された。
橋は安全になった。
農地の収穫量は増えた。
商人たちの利益も上がった。
その結果。
人が集まり始めた。
「移住したいんですが」
「店を出したい」
「仕事はありますか?」
町長は毎日悲鳴を上げていた。
良い意味で。
◇
そしてある日の夕方。
俺が自宅の庭で野菜を育てていると。
空から光が降ってきた。
「またか」
嫌な予感しかしない。
光の中から現れたのは――
ダンジョン精霊の少女だった。
『やっほー』
「何しに来た」
『遊びに』
「帰れ」
『ひどい』
少女は頬を膨らませる。
しかし今日は少し様子が違った。
いつもの軽い雰囲気ではない。
『実はね』
「何だ」
『見つかった』
その一言で空気が変わった。
『古代遺跡が起動したこと、王都に知られちゃった』
俺は黙る。
予想していた。
あれだけ派手な現象だったのだ。
隠し通せるはずがない。
『もう動いてるよ』
少女は遠くを見る。
『学者も』
『貴族も』
『王家も』
そして。
『もっと厄介なのも』
俺は眉をひそめた。
「厄介なの?」
少女は珍しく真剣な表情で頷く。
『万職者を探している人たち』
『ずっと昔から』
風が吹いた。
庭の野菜が揺れる。
嫌な話だ。
非常に嫌な話だ。
俺は静かにため息をついた。
「俺、野菜育てて暮らしたいだけなんだが」
『無理だと思う』
即答だった。
その頃。
王都では一通の命令書が発行されていた。
発令者は王国そのもの。
内容は簡潔だった。
「古代遺跡起動の原因となった人物を発見せよ」
そしてその調査隊の中には、
かつてカインを追放した勇者アレスの名前もあった――。




