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6 建築

「一泊銀貨三枚になります」


宿屋の女将が笑顔で言った。


俺は固まった。


「高くないか?」


「最近は冒険者が増えましたからねぇ」


「そうか……」


いや、高い。


辺境の町なのに王都並みだ。


金貨百枚を手に入れたとはいえ、無駄遣いはしたくない。


俺は節約家なのだ。


勇者パーティ時代も、補給費を三割削減していた。


そのおかげで遠征が成功していたのだが、誰も気づいていなかった。


「どうするかな」


宿を出ながら考える。


その時。


町外れに目が止まった。


荒れ地だ。


使われなくなった空き地。


雑草だらけ。


しかし日当たりは良い。


川も近い。


「……」


俺は立ち止まった。


計算する。


土地代。


木材。


人件費。


維持費。


数分後。


結論が出た。


「家を建てた方が安いな」


通りすがりの人が振り返った。



翌日。


俺は町役場を訪れた。


「土地を買いたい」


受付の職員が目を丸くする。


「家を建てるんですか?」


「ああ」


「職人は?」


「自分でやる」


「大工なんですか?」


「違う」


「建築士?」


「違う」


「じゃあ何なんです?」


「雑用係」


職員は頭を抱えた。



三日後。


町中が騒然としていた。


「何だあれ」


「あの速度はおかしい」


誰もが町外れを見ている。


そこには建設中の家があった。


普通なら数か月かかる。


だが。


俺はまず地盤を調査した。


水の流れを計算した。


木材を最適な長さに加工した。


部品を先に全部作った。


結果。


組み立てるだけになった。


「柱を立てろ」


「お、おう」


手伝いの冒険者たちが動く。


ロイドもいる。


なぜか毎日来る。


「お前、本当に何者なんだ?」


「雑用係だ」


「もうその答えは信じてない」


ロイドが真顔で言った。


俺は困った。


本当に雑用係なのだ。



さらに二日後。


家が完成した。


木造二階建て。


地下倉庫付き。


雨水利用設備。


保存食庫。


家庭菜園。


薪保管庫。


全部入り。


「城か?」


ロイドが呟く。


「家だ」


「家じゃねぇよ」


周囲の住民も集まっていた。


皆同じ顔をしている。


辺境では見たことのない完成度だった。


その時。


一人の老人が近づいてきた。


町長だった。


「カイン殿」


「何でしょう」


「お願いがある」


嫌な予感がした。


こういう予感は大体当たる。


「実は町の水路が壊れていてな……」


始まった。


「橋も老朽化しておる」


増えた。


「農地の排水も問題で……」


さらに増えた。


気付けば町民が列を作っていた。


「畑を見てほしい」


「鍛冶場を直してほしい」


「店の売上が落ちてて……」


「子どもの勉強を……」


俺は空を見上げた。


なぜだ。


なぜ皆、自分に頼む。


俺はただ静かに暮らしたいだけなのに。


だが。


困っている人を見ると放っておけない。


これは昔からだ。


「順番な」


町民たちが歓声を上げた。


その瞬間。


カイン・レイヴンは知らなかった。


数年後。


この小さな辺境の町が王都を凌ぐ発展を遂げ、


『奇跡の都市ラウル』


と呼ばれることになることを。


そしてその中心にいる男が、


相変わらず自分を「ただの雑用係」と思い続けることを。

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