6 建築
「一泊銀貨三枚になります」
宿屋の女将が笑顔で言った。
俺は固まった。
「高くないか?」
「最近は冒険者が増えましたからねぇ」
「そうか……」
いや、高い。
辺境の町なのに王都並みだ。
金貨百枚を手に入れたとはいえ、無駄遣いはしたくない。
俺は節約家なのだ。
勇者パーティ時代も、補給費を三割削減していた。
そのおかげで遠征が成功していたのだが、誰も気づいていなかった。
「どうするかな」
宿を出ながら考える。
その時。
町外れに目が止まった。
荒れ地だ。
使われなくなった空き地。
雑草だらけ。
しかし日当たりは良い。
川も近い。
「……」
俺は立ち止まった。
計算する。
土地代。
木材。
人件費。
維持費。
数分後。
結論が出た。
「家を建てた方が安いな」
通りすがりの人が振り返った。
◇
翌日。
俺は町役場を訪れた。
「土地を買いたい」
受付の職員が目を丸くする。
「家を建てるんですか?」
「ああ」
「職人は?」
「自分でやる」
「大工なんですか?」
「違う」
「建築士?」
「違う」
「じゃあ何なんです?」
「雑用係」
職員は頭を抱えた。
◇
三日後。
町中が騒然としていた。
「何だあれ」
「あの速度はおかしい」
誰もが町外れを見ている。
そこには建設中の家があった。
普通なら数か月かかる。
だが。
俺はまず地盤を調査した。
水の流れを計算した。
木材を最適な長さに加工した。
部品を先に全部作った。
結果。
組み立てるだけになった。
「柱を立てろ」
「お、おう」
手伝いの冒険者たちが動く。
ロイドもいる。
なぜか毎日来る。
「お前、本当に何者なんだ?」
「雑用係だ」
「もうその答えは信じてない」
ロイドが真顔で言った。
俺は困った。
本当に雑用係なのだ。
◇
さらに二日後。
家が完成した。
木造二階建て。
地下倉庫付き。
雨水利用設備。
保存食庫。
家庭菜園。
薪保管庫。
全部入り。
「城か?」
ロイドが呟く。
「家だ」
「家じゃねぇよ」
周囲の住民も集まっていた。
皆同じ顔をしている。
辺境では見たことのない完成度だった。
その時。
一人の老人が近づいてきた。
町長だった。
「カイン殿」
「何でしょう」
「お願いがある」
嫌な予感がした。
こういう予感は大体当たる。
「実は町の水路が壊れていてな……」
始まった。
「橋も老朽化しておる」
増えた。
「農地の排水も問題で……」
さらに増えた。
気付けば町民が列を作っていた。
「畑を見てほしい」
「鍛冶場を直してほしい」
「店の売上が落ちてて……」
「子どもの勉強を……」
俺は空を見上げた。
なぜだ。
なぜ皆、自分に頼む。
俺はただ静かに暮らしたいだけなのに。
だが。
困っている人を見ると放っておけない。
これは昔からだ。
「順番な」
町民たちが歓声を上げた。
その瞬間。
カイン・レイヴンは知らなかった。
数年後。
この小さな辺境の町が王都を凌ぐ発展を遂げ、
『奇跡の都市ラウル』
と呼ばれることになることを。
そしてその中心にいる男が、
相変わらず自分を「ただの雑用係」と思い続けることを。




