5 王都
その頃、王都――。
王立古代文明研究院。
普段は静かな石造りの建物が、今夜は騒然としていた。
「反応が出ました!」
「場所は!?」
「全部です!」
研究員たちが慌ただしく走り回る。
机の上には古代地図。
そこに描かれた光点が次々と点灯していた。
北の遺跡。
東の塔。
西の地下都市。
南の神殿。
数百年もの間、一度も反応を示さなかった施設が同時に起動している。
「あり得ん……」
老学者――
エドガー・アルベルト
は震える手で眼鏡を押し上げた。
彼は五十年間、古代文明を研究してきた。
だが、こんな現象は見たことがない。
そして彼の脳裏に浮かぶのは、一つの伝承だった。
世界が停滞した時、
万職者は再び現れる。
「馬鹿な……」
学会では誰も信じていない伝説だ。
だが。
もし本当なら。
王国の歴史が変わる。
◇
同じ頃。
勇者パーティ《黄金の剣》。
彼らは王都近郊のダンジョン攻略に挑んでいた。
「くそっ!」
勇者アレスが剣を振るう。
魔物は倒せた。
だが。
「ポーションが足りない!」
「食料も残り少ない!」
「地図が違う!」
仲間たちの悲鳴が飛び交う。
以前なら起きなかった問題。
なぜなら――
全部カインが管理していたからだ。
「こんなはずじゃ……」
魔法使いエリナが唇を噛む。
補給の量。
予備装備。
退却経路。
危険区域。
彼らは今まで気にも留めていなかった。
誰かが勝手にやってくれていたから。
「一度戻るぞ!」
アレスが命令する。
しかし。
その瞬間だった。
ガキン!!
剣が折れた。
「なっ!?」
全員が固まる。
アレスの愛剣は最高級品だ。
本来なら折れるはずがない。
だが整備不足だった。
細かなヒビを見落としていた。
以前なら。
カインが前日に修理していた。
誰にも言わず。
当然のように。
◇
「帰還だ!」
《黄金の剣》は撤退した。
討伐失敗。
しかも大赤字。
帰り道。
誰も口を開かなかった。
そして王都へ戻ると、さらなる衝撃が待っていた。
ギルド掲示板。
そこに貼られた一枚の依頼書。
依頼達成報告。
内容は――
北方鉱山ダンジョンの完全鎮圧。
報酬受領者。
カイン・レイヴン。
「……」
沈黙。
アレスが固まる。
エリナも。
戦士ガルドも。
誰も言葉を失った。
「嘘だろ……」
Cランク討伐隊が全滅した危険ダンジョン。
王国騎士団ですら出動を検討していた案件。
それを。
追放した雑用係が解決した。
しかも単独指揮で。
掲示板の前で人々が噂している。
「天才らしいぞ」
「古代遺跡にも詳しいらしい」
「辺境の救世主だって」
聞きたくない言葉ばかりだった。
そしてアレスは初めて気付く。
追放したのは。
無能な荷物持ちではなかった。
もしかすると――
一番必要だった人間だったのではないか、と。
その時。
王都の空に一本の光柱が立ち上った。
遥か東方。
古代遺跡の方向だ。
人々がざわめく。
誰も知らない。
その光が。
カインに与えられた権限へ反応していることを。
そして。
遠い辺境の町で。
当の本人は。
「宿代が高いな……」
と、金貨百枚の使い道に悩んでいた。




