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5 王都


その頃、王都――。


王立古代文明研究院。


普段は静かな石造りの建物が、今夜は騒然としていた。


「反応が出ました!」


「場所は!?」


「全部です!」


研究員たちが慌ただしく走り回る。


机の上には古代地図。


そこに描かれた光点が次々と点灯していた。


北の遺跡。


東の塔。


西の地下都市。


南の神殿。


数百年もの間、一度も反応を示さなかった施設が同時に起動している。


「あり得ん……」


老学者――

エドガー・アルベルト

は震える手で眼鏡を押し上げた。


彼は五十年間、古代文明を研究してきた。


だが、こんな現象は見たことがない。


そして彼の脳裏に浮かぶのは、一つの伝承だった。


世界が停滞した時、

万職者は再び現れる。


「馬鹿な……」


学会では誰も信じていない伝説だ。


だが。


もし本当なら。


王国の歴史が変わる。



同じ頃。


勇者パーティ《黄金の剣》。


彼らは王都近郊のダンジョン攻略に挑んでいた。


「くそっ!」


勇者アレスが剣を振るう。


魔物は倒せた。


だが。


「ポーションが足りない!」


「食料も残り少ない!」


「地図が違う!」


仲間たちの悲鳴が飛び交う。


以前なら起きなかった問題。


なぜなら――


全部カインが管理していたからだ。


「こんなはずじゃ……」


魔法使いエリナが唇を噛む。


補給の量。


予備装備。


退却経路。


危険区域。


彼らは今まで気にも留めていなかった。


誰かが勝手にやってくれていたから。


「一度戻るぞ!」


アレスが命令する。


しかし。


その瞬間だった。


ガキン!!


剣が折れた。


「なっ!?」


全員が固まる。


アレスの愛剣は最高級品だ。


本来なら折れるはずがない。


だが整備不足だった。


細かなヒビを見落としていた。


以前なら。


カインが前日に修理していた。


誰にも言わず。


当然のように。



「帰還だ!」


《黄金の剣》は撤退した。


討伐失敗。


しかも大赤字。


帰り道。


誰も口を開かなかった。


そして王都へ戻ると、さらなる衝撃が待っていた。


ギルド掲示板。


そこに貼られた一枚の依頼書。


依頼達成報告。


内容は――


北方鉱山ダンジョンの完全鎮圧。


報酬受領者。


カイン・レイヴン。


「……」


沈黙。


アレスが固まる。


エリナも。


戦士ガルドも。


誰も言葉を失った。


「嘘だろ……」


Cランク討伐隊が全滅した危険ダンジョン。


王国騎士団ですら出動を検討していた案件。


それを。


追放した雑用係が解決した。


しかも単独指揮で。


掲示板の前で人々が噂している。


「天才らしいぞ」


「古代遺跡にも詳しいらしい」


「辺境の救世主だって」


聞きたくない言葉ばかりだった。


そしてアレスは初めて気付く。


追放したのは。


無能な荷物持ちではなかった。


もしかすると――


一番必要だった人間だったのではないか、と。


その時。


王都の空に一本の光柱が立ち上った。


遥か東方。


古代遺跡の方向だ。


人々がざわめく。


誰も知らない。


その光が。


カインに与えられた権限へ反応していることを。


そして。


遠い辺境の町で。


当の本人は。


「宿代が高いな……」


と、金貨百枚の使い道に悩んでいた。

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