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3 本当の敵

な、何だあれ……」


ロイドの声が震えた。


部屋の中央には黒い水晶。


そして、その表面を覆うように無数の生き物が張り付いている。


虫のようにも見える。


植物の根にも見える。


だが、そのどちらでもない。


ぐちゅり。


ぐちゅり。


不気味な音を立てながら、水晶から魔力を吸い上げていた。


寄生種マナイーターだ」


俺は答えた。


「ダンジョンコアに寄生して暴走させる魔物だよ」


冒険者たちの顔色が変わる。


今までの討伐隊はアビスワームと戦っていた。


だが本当の原因は別にあったのだ。


「倒せば終わるのか?」


ロイドが剣を抜く。


しかし俺は首を横に振った。


「斬るな」


「なぜだ?」


「爆発する」


全員が凍り付いた。


「爆発?」


「ダンジョンコアと魔力で繋がってる。下手に攻撃したら、この階層ごと吹き飛ぶ」


ロイドが青ざめる。


危うく全滅するところだった。


「じゃあどうする?」


俺は荷物袋から革手袋を取り出した。


そしてもう一つ。


小瓶を取り出す。


中には青い液体。


「塩水?」


「違う」


俺は笑った。


「特製駆除剤だ」


「駆除剤?」


「害虫には害虫の対処法がある」


冒険者たちは理解できていない。


当然だ。


こんな知識を持つ者など普通はいない。


だが俺は知っていた。


昔読んだ古代魔導学の文献に載っていたからだ。


マナイーターは魔力を食べる。


しかし特定の鉱石を溶かした液体を嫌う。


つまり――


駆除できる。


俺は液体を水晶へ振りかけた。


シュゥゥゥゥ!


甲高い悲鳴。


寄生種たちが一斉にもがき始める。


「効いてるぞ!」


ロイドが叫ぶ。


俺は黙々と作業を続けた。


一本。


二本。


三本。


用意した薬品を使い切る頃には――


部屋中の寄生種が床へ落ちていた。


そして。


黒かった水晶が徐々に透明さを取り戻していく。


「終わったな」


その瞬間だった。


ゴォォォォォッ!!


水晶から膨大な魔力が噴き出した。


部屋全体が震える。


「な、何だ!?」


冒険者たちが悲鳴を上げる。


だが俺は落ち着いていた。


予想通りだからだ。


「下がれ」


次の瞬間。


光が収まる。


そして。


水晶の前に、一人の少女が立っていた。


銀色の髪。


透き通るような肌。


青い瞳。


年齢は十歳ほどに見える。


しかし人間ではない。


「ダンジョン……精霊?」


ロイドが呟く。


少女はゆっくり俺を見た。


そして。


ぺこりと頭を下げた。


『助けてくれて、ありがとう』


静寂。


誰も動けない。


ダンジョン精霊など伝説の存在だ。


存在自体が学説レベル。


それが今、目の前にいる。


しかも。


少女は真っ直ぐ俺を指差した。


『あなたが新しい管理者?』


「違う」


即答した。


『え?』


「俺はただの雑用係だ」


『???』


少女の顔に困惑が浮かぶ。


ロイドたちも同じ顔をしていた。


しかし次の言葉で全員が固まる。


『でもあなた、《万職者》でしょう?』


空気が止まった。


聞いたことのない単語。


だがなぜか胸の奥がざわつく。


『鍛冶師の技術。薬師の知識。探索者の感覚。商人の計算。料理人の経験。建築士の設計。魔導士の理論』


少女は一つずつ数えていく。


『普通の人間なら一生かけても一つ極められない』


そして不思議そうに首を傾げた。


『なんでそんな人が雑用係をやってるの?』


その問いに。


俺自身が一番答えられなかった。


なぜなら俺にとって、それらは全部――


ただの「雑用」だったのだから。

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