2 雑用係の仕事
「金貨百枚だ。町を救ってくれ」
ギルドマスターの言葉に、ギルド中の視線が俺へ集まった。
金貨百枚。
辺境の町なら家が一軒建つ額だ。
普通の冒険者なら飛びつくだろう。
だが俺が気になったのは別のことだった。
「救出対象は何人いる?」
「二十七名だ」
「食料は?」
「三日分ほど」
「遭難から何日?」
「四日」
俺は額を押さえた。
最悪だ。
「まだ助かる」
その一言でギルド内がざわつく。
「本当か!?」
生存者の男が身を乗り出した。
「ただし条件がある」
俺は地図を机に広げた。
「今から必要な物を集めてくれ」
「武器か!?」
「いや」
俺は指を折りながら数えた。
「ロープ百メートル」
「保存食三十人分」
「木箱二十個」
「ランタン五十個」
「塩十袋」
「あと鍛冶屋を借りたい」
沈黙。
誰も意味が分かっていない。
男が眉をひそめた。
「そんな物で何をするんだ?」
「救助だ」
「武器は?」
「いらない」
「え?」
「戦う必要がないからな」
ギルド中が静まり返った。
◇
二時間後。
町中が慌ただしく動いていた。
俺は鍛冶屋の作業場を借りている。
カン。
カン。
ハンマーの音が響く。
鍛冶屋の親父が不思議そうに聞いた。
「兄ちゃん、本当に冒険者か?」
「一応」
「鍛冶師じゃなくて?」
「違う」
親父は首を傾げた。
俺がやっている作業は完全に職人のそれだったからだ。
鉄板を切る。
穴を開ける。
組み立てる。
そして完成したのは――
巨大な金属製の檻だった。
「よし」
「何だそれ」
「アビスワーム捕獲用」
親父が固まった。
◇
翌朝。
俺たちはダンジョンへ向かった。
冒険者十人。
荷車三台。
武器よりも荷物の方が多い。
普通の攻略隊なら笑われる編成だ。
「本当にこれで大丈夫なのか?」
生存者の男――ロイドが不安そうに聞く。
「問題ない」
「根拠は?」
「俺が準備したからだ」
ロイドは返す言葉を失った。
自信満々というより、当然のことを言っている口調だったからだ。
そして俺たちはダンジョンへ入る。
一層。
二層。
三層。
魔物は現れる。
だが戦闘はほとんど起こらない。
なぜなら。
「左を歩け」
「え?」
「右に罠がある」
確認すると本当にあった。
「前方にスライムの巣」
さらにその先にもいた。
「ここで火を消せ」
「なぜだ?」
「魔物に見つかる」
全部当たる。
誰も理由は分からない。
だが指示通り進むたびに被害ゼロで突破できた。
ロイドは思う。
この男は何なんだ、と。
剣士でもない。
魔法使いでもない。
だが誰よりもダンジョンを知っている。
まるで。
ダンジョンそのものを読んでいるように。
そして地下五層へ到達した。
そこには。
直径十メートルを超える巨大な魔物。
アビスワームがいた。
「来るぞ!」
冒険者たちが武器を構える。
しかし。
「待て」
俺は前へ出た。
そして荷車から取り出した木箱を開く。
中には大量の肉。
次の瞬間。
俺は肉を反対方向へ投げた。
ドォォォン!!
アビスワームが肉へ突進した。
地面が揺れる。
「今だ」
「え?」
「走れ」
全員が呆然としながら後を追う。
戦わない。
倒さない。
無視する。
その発想自体がなかったのだ。
俺たちはボスの背後を通り抜け、さらに奥へ進んだ。
そして。
誰も気付いていなかった部屋へ辿り着く。
中央に黒い水晶が浮かんでいる。
その周囲には無数の寄生生物。
俺はため息をついた。
「やっぱりな」
これこそがダンジョン異変の原因。
そして――
本当の敵だった。




