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1 辺境の町


勇者パーティを追放された翌日。


俺は王都を離れていた。


未練がないと言えば嘘になる。


三年間。


命を預け合った仲間だったのだから。


だが、追放された以上は仕方がない。


今さら頭を下げて戻りたいとも思わなかった。


「さて、これからどうするか……」


街道を歩きながら地図を広げる。


俺が向かっているのは辺境の町ラウル。


魔物は多いが人口は少ない。


だから冒険者も不足している。


雑用係の俺でも仕事くらい見つかるだろう。


そんな軽い気持ちだった。


――しかし。


町に着いた瞬間、異変に気付いた。


門番たちの顔色が悪い。


通行人もどこか落ち着かない。


荷車には怪我人が乗せられている。


「何かあったのか?」


近くの商人に聞く。


「あんた旅人か?」


「ああ」


「なら気をつけろ。北の鉱山にダンジョンが発生した」


俺は眉をひそめた。


ダンジョン。


世界に突如現れる魔力の巣窟だ。


放置すれば周囲に魔物があふれ出す。


「討伐隊は?」


「全滅した」


「……何?」


「町で一番強い冒険者たちが行ったんだ。誰も帰ってこねぇ」


商人は震える声で言った。


嫌な予感がした。


俺はギルドへ向かった。



冒険者ギルドの中は重苦しい空気に包まれていた。


受付嬢が疲れ切った顔をしている。


「すみません」


俺が声を掛ける。


「何でしょうか?」


「北の鉱山について詳しく聞きたい」


その言葉に周囲の視線が集まった。


まるで無謀な自殺志願者を見るような目だ。


受付嬢も困惑している。


「行くつもりですか?」


「ああ」


「おすすめしません。Cランク冒険者が二十名以上行って戻ってきていません」


「生存者は?」


「一人だけ」


その時。


ギルドの奥から怒鳴り声が響いた。


「ふざけるな!」


振り向くと、傷だらけの男が机を叩いていた。


右腕には包帯。


鎧もボロボロだ。


「仲間がまだ中にいるんだぞ!」


「ですが、これ以上人を出せません!」


受付嬢が悲痛な声を上げる。


男は悔しそうに拳を握り締めた。


俺はその姿を見て確信した。


この男が唯一の生存者だ。


そして――。


男の腰に下げられたランタン。


靴に付着した白い粉。


服の裾に残る黒い粘液。


その三つを見た瞬間、俺は気付いてしまった。


「地下五層の黒泥沼か」


男が凍り付いた。


「……なぜ分かる?」


周囲もざわつく。


俺は頭をかいた。


「簡単だ」


黒い粘液はダークスライム。


白い粉は魔晶石鉱脈。


その組み合わせなら地下鉱山型ダンジョン。


さらにランタンの煤の付き方から推測すると――


「ボスはアビスワームだろ?」


男の目が大きく見開かれた。


「その通りだ……」


ギルド内が静まり返る。


俺は思わずため息をついた。


最悪だ。


アビスワームは強い。


だが本当に危険なのはそこじゃない。


「あんたたち、ボスを倒そうとしてたな?」


「当然だ!」


「それが失敗の原因だ」


「何だと!?」


男が怒鳴る。


しかし俺は冷静に言った。


「アビスワームは囮だ。本体は別にいる」


沈黙。


誰も理解できていない。


だが俺には分かる。


昔、何百冊も魔物図鑑を読み漁った。


何千件も討伐記録を整理した。


だから知っている。


そのダンジョンの正体を。


「本当にいるのはダンジョンコアを守る寄生種だ」


俺は地図を借りると、一か所を指差した。


「ここを壊せば終わる」


その瞬間。


ギルドマスターが椅子から立ち上がった。


「待て」


白髪の老人だった。


鋭い目が俺を見つめる。


「お前……何者だ?」


俺は少し考えてから答えた。


「ただの雑用係だよ」


その言葉に、ギルドマスターは苦笑した。


「そんな雑用係がいてたまるか」


そして次の一言が、カインの運命を大きく変えることになる。


「その知識、本物なら報酬は金貨百枚だ。町を救ってくれ」


追放された雑用係の、新しい人生が始まろうとしていた。

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