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16 3千年前

機密情報を開示します。


都市全体に静かな声が響く。


アリシアの表情が消える。


いや。


正確には。


感情を抑え込んだ。


「管理者権限により、最終記録の閲覧を許可します」


空間が暗くなる。


窓も壁も消えた。


俺たちの周囲に無数の光が浮かぶ。


そして。


世界が変わった。



そこは三千年前だった。


巨大都市アルケイン。


空を飛ぶ船。


魔力で動く機械。


何百万人もの人々。


今とは比較にならない文明。


そして。


中央広場。


そこに一人の男が立っている。


作業着姿。


工具箱を持っている。


顔は――


俺だった。


「……」


『記録映像です』


アリシアが言う。


『当時の主任管理者』


男は忙しそうに歩いている。


研究者が呼ぶ。


兵士が相談する。


市民が質問する。


全員がその男を頼っていた。



映像が切り替わる。


会議室。


世界各国の代表。


軍人。


学者。


王族。


その中心にいるのも。


やはりカインだった。


『当時の万職者は一人だけでした』


アリシアが説明する。


『世界全体の管理者です』


「待て」


『はい』


「仕事量おかしくないか?」


『当時も同じことを言っていました』


なるほど。


昔の俺も大変だったらしい。



そして。


映像が進む。


空気が変わる。


人々の表情が暗い。


会議も増えている。


都市の警報も鳴っている。


『この時期に虚無が発生しました』


黒い霧。


最初は小さかった。


だが。


どれだけ倒しても消えない。


封印しても戻る。


浄化しても再発する。


世界は少しずつ侵食されていった。



その時。


映像の中に一人の青年が現れる。


黒髪。


優しい顔。


白衣姿。


研究者らしい。


「誰だ?」


アリシアが答える。


『主任研究員レオン』


その名前を聞いた瞬間。


頭が痛んだ。


知らないはずなのに。


知っている。


そんな感覚。



映像のレオンは笑っている。


カインと話している。


一緒に作業している。


酒を飲んでいる。


喧嘩もしている。


どう見ても。


親友だった。



『虚無研究の第一人者でした』


アリシアが静かに言う。


『そして』


そこで言葉が止まる。


「そして?」


アリシアは少しだけ目を伏せた。


『虚無の王です』



沈黙。


俺は言葉を失った。


親友。


研究者。


世界を救おうとしていた男。


それが。


世界を滅ぼした存在になった。



映像が進む。


研究室。


レオンが叫んでいる。


周囲も騒然としている。


何かが起きた。


大事故だ。


『虚無の正体を解明しようとしました』


アリシアの声が重い。


『結果として』


映像が乱れる。


悲鳴。


警報。


崩壊。


そして。


黒い光。



レオンが立っている。


いや。


立っていたものだ。


身体は変質している。


瞳は黒く染まっている。


虚無が彼を飲み込んでいた。



それでも。


最初は理性が残っていた。


映像のレオンは泣いていた。


叫んでいた。


助けを求めていた。


誰よりも苦しんでいた。



そして。


最後の映像。


崩壊する世界。


燃える都市。


逃げ惑う人々。


その中で。


カインとレオンが向き合っていた。


親友同士が。



レオンは泣いていた。


ごめん。


ごめんな。


止まれない。



カインは答える。


分かってる。



助けてくれ。



必ず助ける。



その約束を最後に。


映像は途切れた。



静寂。


誰も喋らない。


アリシアも。


都市も。


虚無の王も。



しばらくして。


窓の外から声が響く。


思い出したか。


虚無の王だった。


三千年。


世界を滅ぼし続けた災厄。


だが。


その声に怒りはなかった。



約束した。


助けると。



頭の奥で。


記憶が繋がる。


断片が形になる。



三千年前。


俺は世界を救えなかった。


親友も救えなかった。


だから。


約束した。


いつか必ず。


助けると。



虚無の王――レオンは静かに言った。


三千年待った。


だから答えを聞かせろ。



巨大な黒い瞳がこちらを見る。


世界の命運。


古代文明の真実。


全てが交差する。


そして。


親友は最後にこう尋ねた。


今度は助けてくれるか。


物語はここで初めて、


「災厄との戦い」ではなく、


「親友を救う物語」へと姿を変え始めていた。

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