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16 虚無の王

虚無の王が探していたもの


今度こそ見つけた。


その声は都市全体を震わせた。


空気ではない。


頭の中に直接響く。


不快な声だった。


だが不思議なことに。


俺にはどこか聞き覚えがある気もした。


「会ったことあったか?」


『ありません』


アリシアが即答する。


「そうか」


『普通はもっと危機感を持ってください』


「努力する」



窓の外。


虚無の王は動かない。


ただこちらを見ている。


巨大な黒い影。


輪郭すら曖昧だ。


存在そのものが不安定。


見ているだけで気分が悪くなる。


だが。


何かがおかしい。


「アリシア」


『はい』


「攻撃してこないな」


アリシアが固まる。


そして気付く。


確かにそうだった。


防衛ラインは突破された。


都市は発見された。


なのに。


虚無の王は止まっている。



問う。


声が響く。


世界そのものが話しているようだった。


なぜ生きている。


「俺か?」


お前だ。


「知らん」


即答した。


アリシアが頭を抱える。



沈黙。


そして。


虚無の王は続けた。


万職者は滅んだ。


文明と共に。


全て消した。


全て終わらせた。


その言葉には確信があった。


事実なのだろう。


少なくとも虚無の王はそう信じている。


「でも俺はいる」


だから理解できない。


なるほど。


どうやら本気で困惑しているらしい。



その時。


アリシアが何かに気付く。


『管理者様』


「何だ」


『古代記録との照合を開始します』


空間に光の画面が現れる。


膨大な資料。


古代文明のデータベース。


そして。


一枚の記録が表示された。


アリシアの顔が変わる。


『そんな……』


「どうした」


『あり得ません』


最近よく聞く言葉だ。



画面に映し出されたのは古い写真だった。


いや。


写真に近い記録映像。


そこには一人の男がいた。


作業着姿。


工具箱を持っている。


周囲には研究者。


兵士。


政治家。


皆がその男に話しかけている。


そして。


その顔を見た瞬間。


俺は固まった。


「……似てるな」


『似ているではありません』


アリシアが震える。


『同じです』


写真の男。


そして俺。


顔が全く同じだった。



『識別結果』


機械音が鳴る。


一致率99.998%。


個体名確認。


主任管理者カイン。


沈黙。


誰も喋らない。


というか。


喋れない。



「待て」


俺が言う。


「主任管理者?」


『はい』


「俺?」


『はい』


「古代文明の?」


『はい』


嫌な予感がした。


今までで最大級の。



アリシアが震える声で説明する。


『管理都市アルケインは約三千年前に建造されました』


「そうか」


『そして最後の主任管理者の名前は』


アリシアは俺を見る。


『カイン』


沈黙。



窓の外。


虚無の王も黙っていた。


いや。


違う。


見ている。


俺を。


ずっと。


そして。


やはり。


低い声。


お前だったか。


その瞬間。


頭の奥に激痛が走った。


記憶。


知らないはずの記憶。


巨大な都市。


無数の人々。


泣いている誰か。


崩壊する世界。


そして。


黒い影に向かって叫ぶ自分。



「ぐっ……!」


膝をつく。


アリシアが駆け寄る。


『管理者様!』


「何だこれ……」


頭が割れそうだ。


だが。


断片的に見える。


三千年前の光景。


そして。


最後に。


誰かの顔。



虚無の王。


その正体。


人間だった。



記憶はそこで途切れる。


俺は荒い息を吐いた。


「アリシア」


『はい』


「一つ聞く」


『何でしょう』


「虚無の王って」


俺は窓の外を見た。


巨大な黒い存在。


災厄。


世界の敵。


そのはずなのに。


なぜか。


どこか悲しそうに見えた。


「昔、人間だったのか?」


沈黙。


アリシアは答えない。


答えられない。


その代わり。


都市の中枢システムが応答した。


機密情報を開示します。


そして。


三千年間封印されていた真実が。


ついに明らかになろうとしていた。

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