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15 空飛ぶ都市

「行きたくない」


俺は即答した。


王都中が静まり返る。


空には浮遊都市。


古代文明の遺産。


伝説級の存在。


世界中の学者が発狂しそうな光景だ。


そんな中。


管理者本人の感想がこれだった。


「行きたくない」


二回言った。


大事なことだから。



「何故ですか!?」


最初に叫んだのはエドガーだった。


老学者とは思えない勢いだった。


「古代都市ですよ!?」


「そうだな」


「伝説ですよ!?」


「そうだな」


「人類最大の発見ですよ!?」


「そうだな」


「ならなぜ!」


「面倒そうだから」


エドガーが膝をついた。



その時だった。


空の都市から光が伸びる。


一直線に。


俺へ向かって。


嫌な予感しかしない。


本当に嫌な予感しかしない。


そして。


管理者の来訪意思を確認します。


機械的な声。


王都中に響く。


「拒否」


即答。


回答を受理しました。


よし。


帰ろう。


そう思った瞬間。


管理者権限に基づき強制転送を開始します。


「待て」


拒否権はありません。


「またか」



光が俺を包む。


慌てて手を伸ばすロイド。


叫ぶアレス。


王女。


精霊。


全部が遠ざかる。


そして。


視界が白く染まった。



気付くと。


そこは巨大なホールだった。


白い床。


白い壁。


白い天井。


どこまでも広い。


そして。


目の前に一人の女性が立っていた。


銀色の髪。


青い瞳。


整いすぎた顔立ち。


だが。


どこか人間ではない。


「ようこそ」


女性が一礼する。


「第三管理都市アルケインへ」


「帰りたい」


「早いですね」



女性は微笑んだ。


完璧な笑顔。


だが感情が薄い。


人形のようだった。


「私は管理補佐AIアリシア


「えーあい?」


「人工知能です」


「なるほど」


分からない。


全然分からない。


だが今さら驚かない。


最近の人生はずっとこんな感じだ。



アリシアは歩き始める。


俺も仕方なくついていく。


窓の外。


そこには雲海が広がっていた。


都市は本当に空を飛んでいるらしい。


「質問があります」


アリシアが言う。


「何だ」


「なぜ今まで起動しなかったのですか」


「知らん」


「なぜ管理者権限を放置していたのですか」


「知らん」


「なぜ世界を救っていないのですか」


「救う予定がないからだ」


アリシアが止まった。


初めて。


本当に初めて。


困った顔をした。



「記録と違います」


「そうか」


「万職者は世界を導く存在です」


「知らん」


「文明を再建する存在です」


「知らん」


「救世主です」


「違う」


即答だった。


俺は救世主じゃない。


雑用係だ。


必要な仕事をしているだけだ。



アリシアはしばらく黙る。


そして。


小さくため息をついた。


「理解しました」


「何を」


「あなたは歴代で最も扱いにくい万職者です」


失礼だった。



その時。


都市全体が揺れた。


警報。


赤い光。


機械音。


今まで静かだった空間が一変する。


警告。


外殻防衛ライン突破。


アリシアの顔色が変わる。


初めてだった。


この完璧な補佐役が動揺したのは。


「どうした」


「あり得ません」


「何が」


アリシアは空を見上げた。


そして。


信じられないものを見る顔で呟く。


「虚無の王です」


沈黙。


「もう来たのか」


「来てはいけないのです」


その声は震えていた。


「管理都市を発見されるのは数年後のはずでした」



窓の外。


雲海の向こう。


巨大な影が見える。


山より大きい。


都市より大きい。


まるで世界の終わりそのもの。


そして。


虚無の王はゆっくりとこちらを見た。


正確には。


都市ではなく。


俺を。


発見。


その声が頭の中に響く。


万職者。


空間が凍り付く。


アリシアが青ざめる。


そして。


虚無の王は続けた。


今度こそ見つけた。


その言葉には。


憎しみとも。


怒りとも違う。


もっと長く深い感情が込められていた。


まるで。


何千年も探し続けていた相手を見つけたように。

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