14 雑用係の戦い方
黒い騎士は怒っていた。
誰の目にも分かった。
なぜなら。
顔面に看板が直撃したからである。
しかも戦闘中に。
しかも相手は剣士でも魔導士でもない。
雑用係。
怒るのも無理はない。
「……」
黒い騎士が無言で立ち上がる。
周囲の空気が重くなる。
石畳が軋む。
赤い瞳が俺を睨みつける。
「対象危険度を修正」
機械のような声だった。
「危険度DからAへ変更」
「上がりすぎだろ」
思わずツッコミが出た。
◇
次の瞬間。
黒い騎士が消える。
速い。
アレスですら反応できない。
だが。
俺は違った。
「左」
短く言う。
ロイドが反射的に動く。
直後。
黒い剣がさっきまでロイドがいた場所を切り裂いた。
「見えてるのか!?」
「見えてない」
「じゃあ何なんだ!」
「予測」
簡単な話だった。
敵の動き。
地形。
重心。
視線。
全部見れば大体分かる。
◇
黒い騎士が再び突撃する。
俺は周囲を見る。
噴水。
馬車。
石像。
旗竿。
十分だ。
「アレス」
「何だ!」
「三秒後に剣を振れ」
「は?」
「いいから」
アレスは戸惑いながらも従った。
三秒後。
勇者の剣が振られる。
そこへ。
黒い騎士が飛び込んできた。
ガキィィン!!
剣がぶつかる。
アレスが目を見開く。
偶然ではない。
完全に待ち伏せされていた。
◇
「エリナ」
「なに!?」
「右上へ火球」
「敵いないわよ!?」
「撃て」
半信半疑で魔法が放たれる。
そして。
その瞬間。
黒い騎士が回避先として飛び込んできた。
直撃。
爆発。
周囲が静まり返る。
◇
ロイドが呟く。
「気持ち悪いな」
「何が」
「お前」
失礼だった。
◇
だが。
黒い騎士も学習していた。
突然。
後退する。
距離を取る。
そして剣を掲げた。
嫌な予感がした。
非常に嫌な予感だ。
『まずい!』
ダンジョン精霊が叫ぶ。
『虚無斬だ!』
黒い剣が光る。
漆黒の光。
見ただけで危険だと分かる。
「避難!」
騎士団長が叫ぶ。
遅い。
間に合わない。
王都の中心部だ。
回避しても被害が出る。
◇
俺は周囲を見回した。
一秒。
二秒。
三秒。
考える。
何かある。
必ずある。
そして見つけた。
王都中央広場。
噴水の位置。
地下水路。
城壁。
風向き。
全部繋がった。
「なるほど」
答えが出た。
◇
「全員伏せろ!」
俺が叫ぶ。
同時に。
広場の中央へ走る。
「カイン!」
アレスが叫ぶ。
無視した。
俺は噴水の制御弁へ飛びつく。
蹴る。
壊す。
爆音。
次の瞬間。
大量の水が噴き上がった。
空高く。
まるで巨大な壁のように。
◇
そして。
黒い騎士の斬撃が放たれる。
漆黒の光が街を飲み込む。
だが。
その直前。
噴き上がった水。
風向き。
地形。
全部を利用して。
光の軌道が僅かに曲がった。
ほんの数度。
だがそれで十分。
虚無斬は王都中心部を外れ。
無人の訓練場へ着弾した。
轟音。
大地が抉れる。
住民たちは青ざめた。
もし直撃していたら。
王都の半分が消えていた。
◇
沈黙。
誰も喋れない。
国王も。
騎士団長も。
勇者も。
ただ一人。
黒い騎士だけが俺を見ていた。
「理解不能」
その声には初めて困惑が混じっていた。
「戦闘能力は低い」
「その通り」
「しかし脅威度が高すぎる」
「ありがとう」
褒められた気がした。
◇
そして。
その時だった。
空が光る。
王都の上空。
巨大な魔法陣が展開される。
全員が見上げた。
「何だ……?」
エドガー老学者が震える。
見覚えがあった。
古文書で見たことがある。
遥か昔。
古代文明の資料に。
そこに記されていた名を。
彼は震える声で口にした。
「管理都市アルケイン……」
空に浮かぶ巨大な都市。
雲の上から姿を現したそれは。
まるで神話そのものだった。




