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13 決戦

ゴォォォォォ――。


王都の空が黒く染まっていく。


まるで夜が落ちてくるようだった。


しかし夜ではない。


あれは虚無だ。


存在そのものを消し去る災厄。


「避難だ!」


「住民を城壁の内側へ!」


騎士たちが叫ぶ。


広場は大混乱になった。


泣き出す子供。


逃げ惑う人々。


荷物を抱えて走る商人。


まさに修羅場だった。



だが。


俺は空ではなく街を見ていた。


「なるほど」


「何がなるほどなんだ!?」


ロイドが叫ぶ。


「王都の設計図が悪い」


「今言うことか!?」


今言うことだった。


大事なことなので。


俺は周囲を見回す。


避難経路。


広場の位置。


道路の幅。


給水施設。


全部が見える。


そして。


問題点も全部見えた。



「騎士団長はいるか?」


俺が尋ねると。


ちょうど向こうから鎧姿の男が走ってきた。


王国騎士団長だった。


「カイン殿!」


「指揮権を貸してくれ」


周囲が固まる。


普通なら無礼だ。


王都防衛戦の最中に、平民が言う言葉ではない。


しかし。


騎士団長は迷わなかった。


「理由は?」


「このままだと三万人が避難できない」


即答だった。


騎士団長の顔色が変わる。


「根拠は」


「東通りが詰まる」


「……!」


「中央市場が障害になる」


「……!」


「南門は十五分後に混乱する」


全部当たっていた。


騎士団長は理解した。


この男は見えている。


まだ起きていない未来が。



十分後。


王都中に新しい命令が飛ぶ。


「避難経路変更!」


「東通り封鎖!」


「市場を解体しろ!」


住民たちは最初こそ戸惑った。


しかし。


結果は明らかだった。


人の流れが滑らかになる。


混雑が消える。


転倒事故も起きない。


避難速度が倍以上になった。



一方その頃。


王城。


国王は執務室で報告を受けていた。


「避難完了率七割です!」


「何?」


国王は目を見開く。


「まだ二十分しか経っておらんぞ」


普通なら数時間かかる。


あり得ない速度だ。


「原因は?」


「カイン・レイヴンです」


沈黙。


そして。


国王は頭を抱えた。


「またか」


最近の報告書にはその名前しか出てこない。



その時。


空が割れた。


黒い霧の中心。


巨大な裂け目が開く。


そして。


そこから何かが降りてきた。


人型。


だが人ではない。


漆黒の鎧。


赤い瞳。


異様な威圧感。


広場中が静まり返る。


騎士たちですら動けない。


「虚無の王……?」


誰かが呟く。


だが。


ダンジョン精霊が首を振った。


『違う』


「違う?」


『王じゃない』


少女の声は震えていた。


『王の配下』


『それでも最上位級』


全員の顔色が変わる。


配下でこれなのか。



黒い騎士はゆっくり周囲を見回した。


そして。


視線が止まる。


俺のところで。


「発見」


低い声。


不気味なほど静かだった。


「管理者権限保有者を確認」


嫌な予感しかしない。


「対象――」


黒い騎士が剣を抜く。


「排除開始」


次の瞬間。


爆発的な速度でこちらへ突っ込んできた。



アレスが動く。


「カイン!」


勇者の剣が閃く。


ガルドが盾を構える。


エリナが魔法を放つ。


王国最高戦力。


だが。


黒い騎士は止まらない。


剣を受けても。


魔法を受けても。


傷一つ付かない。


「嘘だろ……」


アレスの顔が青ざめる。


強い。


強すぎる。



そして。


黒い騎士の剣が振り下ろされる。


狙いは俺。


だが。


俺は慌てなかった。


代わりに。


近くにあった荷車を見た。


樽を見た。


街灯を見た。


建物の角度を見た。


そして。


「右へ三歩」


ロイドに言う。


「は?」


「いいから」


ロイドが動く。


その瞬間。


俺は荷車を蹴った。


樽が転がる。


街灯にぶつかる。


街灯が倒れる。


建物の看板に当たる。


看板が外れる。


そして。


ガァァァン!!


黒い騎士の顔面へ直撃した。


全員が固まる。


黒い騎士も固まる。



「……」


「……」


「……」


王都が静まり返る。


勇者でも傷つけられなかった相手が。


看板で吹き飛んだ。


ロイドが呟く。


「今の計算したのか?」


「した」


「何でできるんだよ」


「雑用だから」


誰も納得しなかった。


そして黒い騎士が、ゆっくり立ち上がる。


初めて。


その赤い瞳に感情が宿っていた。


怒りだ。


どうやら。


プライドを傷つけてしまったらしい。

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