12 再会
「行きたくない」
俺は真顔で言った。
「王命ですよ?」
騎士も真顔で返した。
「断ると?」
「たぶん大問題になります」
「そうか……」
俺は机に突っ伏した。
王都。
人が多い。
面倒事も多い。
貴族も多い。
できれば行きたくない。
本当に行きたくない。
◇
三日後。
結局、出発することになった。
理由は単純。
王命だから。
あと王女と精霊がうるさかった。
『行って』
「嫌だ」
『行って』
「嫌だ」
『行って』
「……」
最終的に根負けした。
◇
王都への道中。
俺たちは大所帯になっていた。
俺。
ロイド。
ダンジョン精霊。
竜王女リュミエル。
そして銀竜。
ただし銀竜は人間形態になっている。
なぜか壮年の執事風だった。
「変装です」
本人は真面目に言う。
目立ちまくっていた。
◇
そして。
王都が見えた。
巨大な城壁。
無数の人々。
行商人。
冒険者。
貴族の馬車。
相変わらず騒がしい。
「久しぶりだな」
ロイドが呟く。
俺は特に感慨はなかった。
それより。
畑の様子が気になる。
「まだ言ってるんですか」
王女が呆れた。
◇
王城へ向かう途中。
事件は起きた。
ギルド前の広場。
人だかりができている。
誰か有名人でもいるのだろう。
そう思った瞬間。
聞き覚えのある声が聞こえた。
「カイン……?」
俺は振り返る。
そして。
相手もこちらを見る。
勇者アレス。
魔法使いエリナ。
戦士ガルド。
《黄金の剣》。
かつての仲間たちだった。
◇
沈黙。
広場の喧騒だけが遠く聞こえる。
最初に口を開いたのはアレスだった。
「本当にお前だったのか」
「そうだな」
「……元気そうだな」
「まあ」
会話が続かない。
気まずい。
非常に気まずい。
追放された側も。
追放した側も。
どう話せばいいか分からない。
◇
その時だった。
「カイン様」
リュミエル王女が近づいてくる。
自然な動作だった。
だが。
周囲の空気が凍った。
王女。
竜王国第一王女。
世界的な要人。
その人物が。
俺の隣に立つ。
しかも敬語。
アレスたちの顔色が変わる。
「……様?」
エリナが呟く。
さらに。
「旦那様」
銀竜まで歩いてくる。
「その呼び方やめろ」
「失礼しました」
やめない。
全然やめない。
◇
アレスたちは混乱していた。
目の前の男。
かつて追放した雑用係。
だが今は。
王女が付き従い。
正体不明の執事が控え。
王命で呼び出され。
古代遺跡の中心人物になっている。
理解が追いつかない。
◇
アレスは拳を握る。
そして。
ゆっくり頭を下げた。
周囲がざわめく。
勇者が頭を下げたのだ。
「……すまなかった」
静寂。
エリナも。
ガルドも。
続いて頭を下げる。
「私たちは勘違いしていた」
「お前がどれだけ支えてくれていたか分かってなかった」
「悪かった」
誰も喋らない。
広場が静まり返る。
◇
俺は少し考えた。
怒りがないわけではない。
追放された時はさすがに傷ついた。
だが。
今さら恨んでも仕方がない。
だから。
「別にいい」
そう答えた。
「え?」
アレスが顔を上げる。
「終わった話だ」
本音だった。
今の俺には。
町の発展。
古代都市。
虚無の災厄。
王命。
そんな問題の方が大きい。
追放の件は、もはや昔話だった。
◇
しかし。
その時だった。
王都の中心部。
王城の方向から警鐘が鳴り響く。
カーン!
カーン!
カーン!
人々が騒ぎ始める。
騎士たちが走る。
そして空を見上げた誰かが叫んだ。
「黒い霧だ!」
全員が振り向く。
王城の上空。
そこに。
虚無の霧が現れていた。
しかも。
ラウルで見た時よりもはるかに巨大だった。
ダンジョン精霊の顔から血の気が引く。
『まずい』
「何がだ?」
『早すぎる』
彼女は震える声で言った。
『虚無の王が……』
『王都を狙ってる』
その瞬間。
王都全体に緊張が走った。
そして誰も知らない。
虚無の王が最初に探しているのが、
王でも勇者でもなく――
カイン・レイヴンその人であることを。




