11 依頼
断る」
俺は反射的に答えた。
「即答!?」
ロイドが叫ぶ。
リュミエル王女も目を丸くする。
だが俺には理由があった。
「町の水路整備が終わってない」
「それは大事ですね」
「西地区の橋も補強途中だ」
「それも大事ですね」
「トマトの収穫時期だ」
「……」
王女は黙った。
ロイドは頭を抱えた。
銀竜は遠い目をしている。
『たぶん、この人に世界を救わせるには世界の危機を説明するより、野菜が危険になるって説明した方が早いよ』
ダンジョン精霊が真顔で言った。
◇
結局。
話を聞くだけは聞くことになった。
リュミエル王女は地図を広げる。
そこには王国の東方、広大な山岳地帯が描かれていた。
「ここが竜王国です」
地図の中心には巨大な山。
《天竜峰》。
竜族の聖地らしい。
「現在、この周辺で異変が起きています」
王女が指差す。
黒い印。
一つや二つではない。
何十か所もある。
「虚無の侵食です」
空気が重くなる。
あの黒い霧。
銀竜を傷つけた災厄。
「既に三つの集落が消滅しました」
ロイドが息を呑む。
「消滅?」
「はい」
王女の表情が曇る。
「破壊ではありません」
「存在そのものが消えるのです」
誰も言葉を発せなかった。
◇
虚無。
古代文明を滅ぼした災厄。
その正体は未だ不明。
だが一つだけ分かっていることがある。
侵食された場所は失われる。
建物。
森。
川。
生物。
歴史。
記録。
全て。
まるで最初から存在しなかったかのように。
「厄介だな」
俺は呟く。
「それだけか?」
ロイドが叫ぶ。
「十分厄介だろ」
「いやそうだけど!」
◇
王女は机にもう一枚の紙を置いた。
古びた羊皮紙。
そこには古代文字。
俺は読んだ。
そして眉をひそめる。
「これをどこで?」
「王家の宝物庫です」
「なるほど」
書かれていた内容は簡単だった。
虚無に対抗するには
七つの管理都市を再起動せよ
「管理都市……」
俺は机の上の金属板を見る。
先日届いた招待状。
第三管理都市アルケイン。
偶然ではない。
「他にもあるのか」
「全部で七つです」
王女が頷く。
「そして」
そこで一度言葉を切った。
「万職者だけが起動できます」
沈黙。
全員の視線が俺へ向く。
やめてほしい。
本当にやめてほしい。
◇
その時。
ドンドンドン!!
また扉が叩かれた。
最近来客が多すぎる。
俺は立ち上がる。
扉を開く。
そこにいたのは――
王国騎士だった。
息を切らしている。
相当急いできたのだろう。
「カイン・レイヴン殿!」
「そうだが」
「王命です!」
嫌な予感しかしない。
騎士は巻物を差し出した。
開く。
読む。
内容は短かった。
王都へ来られたし。
至急。
国王より。
「……」
「……」
「……」
部屋が静まり返る。
王女が言う。
「大変ですね」
「他人事みたいに言うな」
◇
同じ頃。
王都では。
勇者アレスたちがラウルへ向かう準備をしていた。
古代遺跡。
万職者。
虚無の災厄。
そして。
追放した元仲間。
知らないことだらけだった。
だが一つだけ確かなことがある。
彼らはもうすぐ再会する。
かつて見下していた雑用係と。
世界の運命を握る男として。




