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18 約束

静寂。


誰も声を出せなかった。


虚無の王。


世界を滅ぼした災厄。


その正体は三千年前の親友。


そして。


彼が最初に口にした願いは――


今度は助けてくれるか。


だった。



アリシアが震える声で言う。


「管理者様」


「何だ」


「騙されてはいけません」


真剣な表情だった。


「虚無の王は危険です」


「そうだな」


「既に文明を一つ滅ぼしています」


「そうだな」


「世界中で数億人が命を落としました」


「そうだな」


全部事実だ。


否定できない。



だが。


俺は窓の外を見る。


巨大な黒い影。


災厄。


世界の敵。


そのはずなのに。


三千年前の映像が頭から離れない。


泣いていた。


助けを求めていた。


あれは化け物の顔じゃない。


人間の顔だった。



「アリシア」


「はい」


「もしロイドが暴走したらどうする」


「止めます」


「見捨てるか?」


「……見捨てません」


「リュミエルは?」


「見捨てません」


「じゃあレオンも同じだ」


アリシアは言葉を失った。



俺は昔からそうだった。


壊れた道具を直す。


崩れた橋を直す。


困っている人を助ける。


それだけだ。


だから。


友達ならなおさらだった。



答えは。


虚無の王の声。


三千年待った問い。


俺は肩を竦めた。


そして。


「助ける」


即答した。



世界が静まり返る。


アリシアが固まる。


都市システムが沈黙する。


たぶん王都で見ている連中も同じ顔をしている。



虚無の王も黙っていた。


しばらく。


本当にしばらく。


何も言わない。



そして。


馬鹿か。


ぽつりと呟いた。



「よく言われる」


「管理者様……」


アリシアが頭を抱える。



私は数億人を殺した。


「そうだな」


世界を滅ぼした。


「そうだな」


もう人間ではない。


「そうだな」


それでも助けるのか。


「約束したからな」



再び沈黙。


そして。


巨大な虚無の王が。


初めて笑った。


少しだけ。


本当に少しだけ。


三千年前の青年に戻ったように。



しかし。


次の瞬間だった。


異変が起きる。


レオンの身体から黒い霧が噴き出した。


いや。


今までとは違う。


制御できていない。


暴走だ。



まずい。


レオン自身が言った。



離れろ。



黒い空間が広がる。


都市の外壁が消える。


雲が消える。


空間そのものが削られていく。



アリシアが叫ぶ。


「侵食率急上昇!」


警報が鳴り響く。


赤い光が点滅する。



レオンの声は苦しそうだった。


抑えられない。


長く話し過ぎた。



巨大な身体が崩れ始める。


人間だった部分。


理性だった部分。


それらが虚無に飲まれていく。



その時。


俺の頭に一つの記憶が蘇った。


三千年前。


最後の研究。


最後の計画。


虚無を消す方法。



「そうか」


思い出した。


全部ではない。


だが十分だ。



アリシアが振り向く。


「管理者様?」


「助ける方法がある」



沈黙。



「本当ですか!?」


「たぶん」


「たぶん!?」



だが。


確信はあった。


記憶の断片。


設計図。


研究資料。


全部が繋がる。



虚無そのものは消せない。


だが。


レオンを取り戻す方法はある。



条件は一つ。



「七つの管理都市を全部起動する」



アリシアが目を見開く。



それは古代文明が最後に残した希望。


世界を救うための最終計画。



そして。


その計画の正式名称を。


アリシアは震える声で告げた。


《再生計画エデン》



三千年前に失敗した計画。


世界を救えなかった最後の希望。



今。


再び動き出そうとしていた。


そしてカインは知らない。


七つの管理都市のうち、


最も危険な都市が既に目覚め始めていることを。


その都市には、


かつての自分自身が封印した


"最悪の秘密" が眠っていることを――。

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