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ep4. 空席の教室

第四話、お楽しみください。

「向こう側って、何だよ……!」

 階段の踊り場で足を止めたまま、俺は息を荒く吐いた。

 背後からの足音は、まだ消えていない。

 ギシ……ギシ……と、骨を引きずるような音。

 なのに姿が見えない。

 見えない“俺”が、すぐ後ろまで来ている感覚だけがある。

「説明してる暇はない」

 雨音は俺の腕を強く引いた。

「とにかく、ここから離れる」

「離れるってどこにだよ!」

「“人がいる場所”」

 その言葉に、嫌な違和感が刺さる。

 人がいる場所?

 さっきまで、校舎には誰もいなかった。

 それを思い出した瞬間、背中に冷たい汗が流れた。

「……おかしいだろ。授業中だぞ」

「だからよ」

 雨音は振り返らずに言った。

「もう“授業中じゃない”の」

 意味がわからない。

 だが、考えるより先に体が動いた。

 階段を駆け下りる。

 1階、廊下、昇降口。

 どこも静かすぎる。

 音がない。

 風すらない。

 まるで校舎そのものが息を止めているみたいだった。

「……外!」

 俺は扉に手をかける。

 しかし開かない。

 押しても引いてもびくともしない。

「くそっ、なんでだよ!」

 その瞬間。

 背後で、カチ、と音がした。

 振り返る。

 廊下の奥。

 そこに、“俺”が立っていた。

 さっきの保健室の“俺”とは違う。

 制服が少し違う。

 表情も違う。

 だが、顔は同じだ。

 そしてそいつの周りには――

 誰もいない教室が、ずらりと並んでいた。

 すべての教室の扉が開いている。

 中には、生徒の姿がない。

 机だけが整然と並んでいる。

 異様な静けさ。

 その中心に、そいつはいた。

『まだ、逃げるの?』

 声は直接頭に響いた。

「……なんなんだよ、お前」

 喉が震える。

 “俺”は首を傾げる。

 まるで興味深いものを見るように。

『お前じゃないよ』

『こっちが、元』

 その言葉に、雨音が小さく息を呑んだ。

「やっぱり……」

「やっぱりって何がだ!」

 俺が叫ぶと、雨音はゆっくり言った。

「神代くん。思い出しかけてる」

「何をだよ」

「あなたが、どっちなのか」

 瞬間、視界が揺れた。

 廊下が歪む。

 床が波打つ。

 教室の中から、何かがこちらを見ている気配が増えていく。

 “誰もいないはずの教室”の中から。

 ざわ……ざわ……と。

 声がする。

『本物はどっち?』

『あれが元?』

『違うよ、こっちだよ』

 耳鳴りが酷い。

 頭の奥で、何かがほどけていく感覚。

 そのときだった。

 最初の教室の一つから、ガラリと音がした。

 扉が開く。

 中から、一人の男子生徒が出てくる。

 知らない顔。

 だが、俺を見て怯えた表情をしている。

「……神代?」

 その声を聞いた瞬間、雨音が息を止めた。

 次の瞬間。

 廊下のあらゆる教室から、生徒たちが一斉に顔を出した。

 みんな同じことを言う。

「神代……?」

「なんで、二人いるんだよ……」

「どっちが本物だ……?」

 ――二人?

 背筋が凍る。

 振り返る。

 そこには、さっきの“俺”が立っていた。

 だが。

 もう一人いた。

 俺の横に。

 誰もいないはずの場所に。

 “俺”が、もう一人。

 同じ顔。

 同じ制服。

 同じ呼吸。

 違うのは、片方だけが微かに笑っていることだった。

『ほら』

 笑っている“俺”が言う。

『もう、混ざってる』

 雨音が震える声で言った。

「……始まった」

「何がだよ……!」

 叫んだ瞬間、視界の端が黒く染まった。

 教室が一つ、また一つと“消えていく”。

 存在そのものが削られている。

 残るのは、俺と――

 どちらかの“俺”だけ。

 そのとき、笑っている方の俺が、静かに言った。

『選ばないといけないね』

『どっちが、“残る側”か』

次回第五話、随時更新

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