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ep13. 目覚めた声

第13話、お楽しみください。

 轟音。

 管理者の腕が振り下ろされる。

 床が砕ける。

 空気が裂ける。

 人間なら避けられない。

 そう思った。

 だが――

 俺の身体は勝手に動いた。

 いや。

 違う。

 俺ではない誰かが動かした。

 気づけば、数メートル横へ飛び退いていた。

 管理者の腕が床を抉る。

 資料室の半分が吹き飛んだ。

 鉄棚が折れ曲がる。

 本が宙を舞う。

「はぁ……はぁ……」

 呼吸が荒い。

 だが違和感があった。

 身体が軽い。

 視界が異常に鮮明だった。

 管理者の動きすら遅く見える。

『やっと起きられた』

 声がした。

 頭の中から。

 だが今まで聞こえていた“もう一人の俺”の声ではない。

 もっと落ち着いている。

 もっと大人びている。

「……誰だ」

『それを聞く?』

 少し笑う気配。

『君自身だよ』

「ふざけるな」

『三人目だ』

 心臓が止まりそうになった。

 三人目。

「……何?」

『今まで会ったのは二人』

『残った側と』

『消された側』

『俺は、そのどちらでもない』

 理解が追いつかない。

 だが観測者の言葉が蘇る。

 ――君は一人じゃない。

 まさか。

『やっと気づいた?』

『神代湊は二つじゃなかったんだ』

 その瞬間。

 頭の中で何かが弾けた。

 記憶。

 知らないはずの記憶。

 施設の奥。

 白い部屋。

 三人の子供。

 全員が同じ顔をしている。

 三人の神代湊。

「……っ!」

 頭痛が走る。

『人格分離は失敗してた』

『本当は三つに分かれていた』

「そんな……」

『だから管理者が慌ててる』

 管理者。

 確かに様子がおかしい。

 胸の顔たちがざわめいている。

『識別不能』

『識別不能』

『対象情報が一致しない』

 初めてだった。

 管理者が混乱している。

 巨大な腕が止まる。

 顔たちが次々と違うことを言い始める。

『神代湊』

『違う』

『対象不明』

『K-17』

『エラー』

 まるで壊れた機械だ。

 その光景を見て、雨音が息を呑んだ。

「まさか……」

 彼女の顔が青ざめる。

「三重固定……?」

 俺は振り返る。

「知ってるのか?」

 雨音は唇を噛む。

 答えようとした。

 だがその瞬間。

 管理者の胸に埋まった顔たちが、一斉にこちらを向いた。

 全ての顔が。

 泣いている顔も。

 笑う顔も。

 怒る顔も。

 全部。

『発見』

 嫌な予感。

『第三対象を発見』

 静寂。

 そして。

 頭の中の声が小さく呟いた。

『ああ』

『バレた』

「何がだ……?」

 返事はなかった。

 代わりに。

 俺の影が動いた。

 勝手に。

 床に伸びた影が、ゆっくり立ち上がる。

 ありえない。

 影なのに。

 立体になっていく。

 黒い人影。

 そして。

 俺と同じ顔。

 同じ姿。

 ただし目だけが真っ黒だった。

 雨音が絶望したような顔になる。

「嘘……」

 影の神代湊は、静かに笑った。

「久しぶりだな」

 それは頭の中の声と同じだった。

 俺は言葉を失う。

「お前が……三人目?」

「ああ」

 影の俺は頷く。

「正確には」

 そこで笑みを深くした。

「最初に生まれた神代湊だ」

 世界が静まり返る。

 管理者の顔たちも。

 雨音も。

 俺も。

 誰も動けない。

 影の俺は、そんな中でただ一人、平然としていた。

「さて」

 彼は管理者を見上げる。

 まるで旧知の相手を見るように。

「二十年ぶりだな」

 次の瞬間。

 管理者の全ての顔が同時に叫んだ。

『危険対象確認』

『最優先封印対象』

『コードネーム――』

 そこで声が途切れる。

 まるで、その名前を呼ぶこと自体が禁じられているように。

 そして影の俺は、少しだけ寂しそうに笑った。

「まだ覚えてるのか」

 黒い瞳が、ゆっくり俺を見る。

「神代湊」

「お前は今から、本当の地獄を見る」

次回第14話、随時更新。


ブックマーク、星、お待ちしてます。

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