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#5 待ちに待ったステータス・オープン!

 メリッサはアホだが、仕事が速い。

 場外に蹴り飛ばしたスライムの回収を頼んでおいたのだ。


「連太郎の命令ひとつで性奴隷がすっ飛んでいきましたね。さすがです。猛獣を飼いならすコツってあるのですか? いえ、訊くのはやめておきます。で、あのワイセツ物はちゃんと仕事をこなせるのですか?」

「心配ない。ほら、知らないおじさんを抱えて戻って来たろ? 見ようによっては、大きな十字架を背負ったスライムだ」


 数分で任務を達成する“できるサキュバス”のメリッサ。

 レンタロウの思った通り、まったく違うものを持って帰ってきた。


「スライムではないでしょ。どう見ても神父さまでしょうに」


 高さ2メートルほどの十字架を携えた神父へ、ボブ子が顔を向けた。


 メリッサが、教会の屋根にそびえ立つ十字架を根元からヘシ折ってきたのだろう。


「メリッサ。神父さんをいますぐ返してこい。キレイな修道女にチェンジだ!」

懺悔(ざんげ)なさいますか?」


 胸元で手を組み、穏やかな表情で神父が返してくる。


「今の発言を撤回するってことですか? キレイな修道女のあたりですか? チェンジ! の部分ですかね?」


 悪いことをした覚えがない。

 レンタロウは、思わず聞き返してしまう。


「いえ、こちらの夢魔(サキュバス)のお嬢さんに連れてこられたのですが、私に何かご用があるのかと。説教されたいとか……」

「神父さんにご相談が……。実は煩悩を200個くらい抱えているんですけど、適当に(はら)ってもらえませんか?」

告解(こっかい)なら、いくらでも伺いますよ」

「コッカイって、議事堂的なアレですか?」

「連太郎は知らないのですか? 年下の賢い私が説明します。告解とは、いってみれば、告白のようなものです」

「え? 僕が神父さんにコクるの? そんな趣味はない……」

「おい連たん。神父の顔が赤くなってんぞ!」

「ちなみに、セット割引ってできます? 煩悩は200個を軽く超えてそうなんで」

「おい、連太郎! 祈祷料を値切るな! そのうちバチがあたりますよ!」

「いいか、ボブ子。残念ながら、もうバチはあたっている。異世界に誤って召喚されたこと自体が天罰だ!」


 しばらく黙っていた神父が、おどろく様子もなく淡々と言葉を発した。


「アナタは別の世界からいらしたのですか。なるほど、迷い込んだ。いえ、召喚されたのかもしれませんね。とすれば何か意味があるのかもしれません」

「いやいや。しょぼいスキルしかないんですよ? ゲームの入っていないパソコンみたいな気分ですよ。この世界で何をしろって感じです」

「連太郎は何を言っているのですか?」

「つまりだな、裸一貫で成り上がれ! みたいなムチャ振りだよ? ステータス確認が有料だなんて、あんまりだろ!」

「おや? アナタはレベルや状態などの確認をなさりたいと?」

「神父さんには可能なんですか?」

「ええ。見て差し上げましょうか?」

「相談したいんで、少し待ってもらっていいですか?」

「どうぞ、ごゆっくり」

「ボブ子。いくら持ってる?」

「年下の可愛い少女にたかる気かアンタは! このワイセツ物には聞かないのですか!」

「いやいや、メリッサが財布を持ってるように見えるか?」

「ほぼ全裸でしたね……」

「それにな、いままでメリッサが飲食代を払った試しなんてない。“カラダで払うからよ”とか言って、毎日のようにセクハラを受けて迷惑している」

「おう、連たん。カネは持ってねえから、メリッサを欲望のハケ口にしろって言ってんだろ!」

「料金表とかないし、ボラれたらアレじゃん?」

「連たん。メリッサが神父を脅してやろうか? このオッサンに金を払わせてやんぞ?」


 メリッサは、神父の胸倉を掴む。

 神父が首から下げている十字架をへし折ろうとしている。


「メリッサ。恐喝はやめておけ。天罰はすべて僕にくるっぽい」

「連太郎、神父さまが困り顔をしてますよ?」

「いえいえ。夢魔と争うようなことは考えてもいません。それに、教会に来ていただければ、祈祷料など……」

「じゃあ、200の煩悩を祓ってもらえます?」

「それは、さすがに厳しいかと……」

「メリッサ。準備をしておけ!」

「おう! 神父をフルボッコにしてやんぞ!」


 指をバキバキ鳴らすメリッサは、準備万端のようだ。


「おひとりぶんの状態(ステータス)確認なら……」


 神父が妥協案を提示してくるが、まだいけるか。


「僕とコイツらの3人前でお願いできませんか?」

「それは、ちょっと……」

「メリッサ。出番だ。悔いをのこすな!」

「あんだって?」


 人の話を聞かないメリッサが、振り向いた勢いで十字架をへし折った。


「で、では、おひとりぶんのフルコースでいかがでしょう……」


 嘆息まじりで返答する神父は涙目。

 十字架と一緒に心もポッキリ折れた様子だ。


「それでお願いします!」


 レンタロウのステータスを全部見てもらうことで合意した。


「ステータス、オープンぬっ!」


 レンタロウはダメもとで言ってみる。

 やっぱりオープンしない、ステータス的なウインドウ。


 うっすらと笑う神父が、レンタロウの額に手をかざす。


「滝岡連太郎さん……16歳の童貞ですね。ふむ、数値が見えます……」

「そうですか……。いや、あの、続きをお願いします……」


 そこの女子ふたり、笑うな!

 ドーテイに反応したボブ子とメリッサが、草をむしりながら笑い転げていた。


「連太郎さんのレベルは測定不能です!」

「レベルカンストですか、神父さん?」

「低すぎてわからないだけです……」


 ざっくりした目盛りしかない定規みたいなあれ?


「そうですか……。続きをお願いします……」

「ふむふむ」


 目を閉じた神父が、次々と数字をつぶやく。


 英語 :2

 現国 :2

 数学Ⅰ:2

    ・

    ・

 美術 :5


 精神年齢:4さい

 血圧:120

 血糖値:80

 LDLコレステロール:45


 精神年齢低すぎだろ!

 僕は年長組みの幼稚園児か!


 は? 2学期の成績と健康診断じゃねえか!

 そこのボブリンとサキュバス。

 笑うんじゃない!


「ビビリだけに、連太郎はめっちゃ健康そうじゃないですか」

「健康と足の速さだけが取り柄だからね。それはそうと、スキルが追加されたとかないですか?」

「残念ながら、スキルは愛想笑いしか無いようです」

「ハハハ。そうなんですね……」

「連太郎さん、さっそく愛想笑いが発動しましたね」

「ちなみにレベルはいくつです?」

「愛想笑いのレベルは、マイナス1です」

「下がってんじゃねぇか!」


 連太郎さん、もっと笑ったほうがいいですよ。

 神父がひとこと付け加えた。


「メリッサうるせぇよ!」


 暇を持て余している様子のメリッサが、レンタロウのズボンのチャックで悪魔のメロディを奏でている。


 魔族のメリッサの邪気に当てられたせいか。

 奇妙な音にやられたのか。

 神父の顔が段々と曇ってきていた。


「そういえば、教会にゆるい棒を5億本ほど寄付してくださった方がいましてね……」

「あ、それ__」


 寄付をしたのは自分だと、レンタロウが言いかけたとき。

 さらに困った様子の神父が続ける。


「空から降ってきたゆるい棒が、“教会の建物を破壊”してしまったのですが……」


 言えねぇ……僕が寄付したなんて言えねぇ……。

 よし、さっさと帰ってもらおう。


「メリッサ、光の速さで神父さんを返却してこい!」

「了解したぞ!」


 神父を後ろから抱えたメリッサが、ロケット花火のごとく舞い上がる。


「建物再建のための寄付をお待ちしてますよー」


 しっかりと営業してくれた神父が、すごい勢いで飛び去った。


 蒼穹を見上げたレンタロウが、蚊の鳴くような声で漏らす。


 教会、壊れちゃったのか。

 神父さん、ホントにスンマセン……。


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