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#6 女神を洗濯してみる

 ネコ科フェの午前中の業務が終わる。


 昼休憩をとろうと、店の鉄扉にかけた札を『休憩中 邪魔したら、王族でもガチで殴る! 店内でのダジャレはご遠慮ください』に変更した。

 日本語で書いてあるため、この世界の住人には読めないはずだ。


「ピンポーン♪」


 営業時間外に、少女がやってきた。

 インターフォンなんて、店にはない。

 少女が口で言っているようだ。


 扉のスキマから、少女が顔を覗かせる。

 どこを見ているのか分からないハミデールの王女、通称:『ドコミ王女』だ。


「王族への攻撃準備よし!」


 レンタロウは、護身用グッズ(モンキーボール)の具合を検める。

 モンキーボールとは、鉄球や木球を芯にして、パラシュートコードなどの紐でグルグルに編み込んだオシャレなグッズだ。


 ズリオチール王国では武器の製造・所持が禁止されている。

 レンタロウは、ギリギリセーフの護身用グッズを、カッチカチの泥ダンゴで制作したのだ。試しに鉄にぶつけてみたら、木っ端微塵に粉砕した。


「スミマセン。休憩中です!」


 マッドボール・スマッシュぅ!

 レンタロウは、即席のワザ名を叫ぶ。

 ドコミ王女のアタマを、鉄でさえも砕くモンキーボールでひと殴りした。


 ポンッという軽快な音がしたかと思えば、バリカタのモンキーボールが粉砕した。

 とんでもねぇ石頭王女だな……。


 また来週! と言いながら、レンタロウは全力で扉を閉めた。


 扉に挟まった状態で、変顔をしたドコミが仕切り直してくる。


「レンコンタロウ、はやく開けなさい。ピンポーン♪」

「薬のCMっぽい。やりなおし!」

「ハスタロウ……」

「レンコンをハスに言い換えたから、アウト」


 扉を閉めるレンタロウの手に力がはいる。

 これでもかといわんばかりに、ギュウギュウと押しかえす。


「ぎゅうっと押さないで! 顔がウシになりそうだわ……ぎゅうだけに!」

「当店はダジャレ禁止です。おかえりください」

「アナタを召喚した女神がお土産なんだけど……恨みを晴らしたくない?」


 簀巻きにされた女神らしき素王女が、ドコミ王女の足元に転がっている。

 王家の座椅子に載せて運ばれてきたらしい。


「いらっしゃぁ~い!」


 レンタロウは、光の速さで王女を店内に招き入れた。


「誤召喚&追放の件で話があってきたの」


 王女、どこ見てんの?

 敵の戦闘機をロック・オンしてる?


 ドコミ王女は、女神を載せてきた座椅子に腰をおろした。


 王都で会ったときは、ほぼ後頭部しか見てなかったな。

 改めて見ると、期待を裏切らない美少女系ってやつか。


 そういや、王女の名前って……ゴブミ、ドクミ?

 確か、日本最大手の通信キャリアっぽい名だ。


「NTTドコミ王女殿下。何かお飲みになりますか?」

「気軽にドコミと呼んでちょうだい」

「じゃあ、ゴミ王女……」

「気軽を通り越して、“津軽”に到着してるのよさ!」

「高貴な……ゴミ?」

「みぞおちを殴っていいかしら? 三味線で」

「女神の?」

「すでに殴り倒したから、もういいわ。三味線の先っちょでね!」


 ドコミ王女に、こってりド突かれたらしい。

 女神通信メモでみせた、ハイテンションさのカケラもない。


 なんだか女神が可哀そうになってきた……。

 レンタロウは、ビッタビタの雑巾で女神の涙をぬぐう。


「アナタを誤って召喚した張本人よ?」

「そうだった……」


 ちょっとくらいお仕置きしてもいいよね?


「それって、牛乳を拭いた雑巾かしら?」


 ドコミ王女が雑巾の絞り汁を女神にたらす。


「そんな酷いことしないって……1年くらい洗ってないやつだ」

「ならいいわ」


 女神は、なんだか嬉しそうだ。

 頬を紅潮させているところを見ると、相当なヘンタイらしい。


「レンコンタロウ。女神にお仕置きをしたいの」

「さんざんシバキ倒したんでしょ?」

「まだ足りないわね。なんだか、女神をブン回したい気分なのよね……」

「洗濯機が良いんじゃな~い?」

「借りてもいいかしら?」

「業務用のヤバイやつだよ?」

「女神は死なないから安心なさい」


 物騒な会話をしながら、レンタロウたちは店の裏手にある洗濯機を目指す。


「そういや、女神の名前ってなに?」


 座椅子で運ばれる女神に、レンタロウが問いかける。


「カタクリコ・ポテイトゥ・スターチ・ゴールドブレンドと申します」

「なんかのコンテストで受賞した感じか?」

「ポテイトゥ・スターチって片栗粉って意味だし、長いから、女神に超へんなアダ名をつけたいわね」


 ドコミ王女は、簀巻きにしているヒモを、きつく結び直した。


「カタクリ子さんと似てない?」


 レンタロウが、女神にジットリとした目を向ける。


「私がモデルです。コピーして作りました」

「齢はいくつなの?」

「小型の犬だと1歳です」


 人でいうと17歳らしい。


 女神の顔面偏差値は『85』くらいか。

 図書室に入り浸っていそうな、おとなしそうな見た目。

 しゃべるとアホまる出しだが。


「メガクリ子」


 思考時間0・05秒。レンタロウは、テキトーなアダ名を口にする。


「女神ザルは、どう? メガネザルっぽくて良さそうだわ」


 ドコミ王女は、店の裏手にある魔導式洗濯機に女神を放り込む。

 簀巻き状態で。


 脱出系のマジックショーかな?

 レンタロウは、グルグルと回る女神を、薄ら笑いで眺めている。


 ドコミ王女は、洗濯機のパワーをMAXに切り替えた。

 時間は20分に設定。


「女神が何かやらかしたの?」

「大事にとっておいた私のプリンを、クソ女神が勝手にたべちゃったから。期限が過ぎてたから、別にいいんだけど」

「なら、僕は何も言うまい」


 期限が切れて1年経ってるんですけどねっ! と、ドコミが付け加えた。


「とるねぇど・ぽていとぅ~!」


 女神が意味不明な悲鳴をあげる。


 超高速でブン回る女神を確認すると、レンタロウとドコミ王女は、フロアへと戻った。


「石頭のゴミ王女、何か飲む?」

「タピオカを?」

「また鼻に詰めようとしてない? というか、良く噛め!」

「これをいただこうかしら?」


 ドコミ王女は、“メニューに挟まった虫”を指さした。

 おまえもかい!


「仕方ないわね。この小さいのにするわ」

「ページ番号だっての!」

「これは?」

「テーブルの木目……」


 ドコミ王女は、商品ではないものを次々と指定する。

 だから、どこ見てんだよ!

 全力で殴りてぇ……。


 埒が明かないので、適当な飲み物を見繕(みつくろ)うことにした。

 10リットル入るジョッキにタピオカを移す。


 ドコミ王女が鼻に詰めないよう、“直径5センチ”の特大タピオカを使用した。

 こんだけ大きいと、もはや卓球のボールだな……。


 今朝仕入れたばかりの紅茶スライムを絞り出した。

 続けて、ミルクスライムを、たっぷりブチュっと投入。

 ガムシロップ・スライム(およそ1リットル)を添えて終わり。


 特製『タピオカ・ロイヤル・ミルク・スライムティー』の完成だ。


 総重量20キロを超える飲み物(筋トレグッズ)を持つと腕にくる。

 レンタロウは、腕全体をプルプルさせながら、フロアへと運んだ。


「いいわね、このジョッキ。女神を殴るのにちょうどよさそうだわ」


 と言いながら、ドコミ王女がタピオカを鼻に詰めようとしている。


 いや、絶対ムリだろ。

 あれ? 王女の鼻には余裕で入るんだね、直径5センチのタピオカ。

 ゴリラの鼻にしか見えないんだが……。


 ドコミ王女は、20キロのタピオカミルクティーを片手で軽々と持ち上げる。

 風呂上りのオジサンのように、片手を腰に手をある。

 小指を立てて握りしめるジョッキに口をつける姿は、まさに王族。


「おいすぃ~!」


 ドコミ王女は、ミルクティーを飲んでいない。

 タピオカだけ口に入れたようだ。

 頬を膨らませたドコミ王女が、苦しそうにレンタロウを見やる。


 ハムスターの王女かお前は!


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