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#4 ボールペン使えや!

 ズリオチール王国北部に位置する『クララガタッタ平原』。

 視界を遮るものは見当たらず、広い野原を一望できる。


 レンタロウ一行は、スライム狩りをしに来ていた。


 風になびく草の間からカラフルなスライムが顔を出す。

 大きさはバスケットボールくらいか。

 何度見ても、お菓子メーカーが悪ふざけして作った巨大グミのようだ。


「これからバトルします。ふたりとも、死ぬ覚悟はできてますか?」


 不敵な笑みを浮かべるボブ子の一言に、レンタロウは耳を疑った。

 イチゴ狩り感覚でやってきたが、勝手が違うらしい。


「ボブ子とバトルのか?」

「スライムに決まってるでしょ!」

「スライムって木からポリってもぐんじゃないのか?」

「連太郎はイチゴ狩り感覚できたんじゃないでしょうね?」


 そ、そんなわけないだろ……。

 ボブ子が目をそらしている間に、レンタロウは“お持ち帰り用タッパー”をそっとしまう。


「動物性スライム狩りは少し変わっていて、ターン制のバトル形式です」

「転がってるスライムを回収するだけでもないんだな」

「動物性スライムは戦って勝ち取るものなんで。スライムは、それほど強くないので早速やってみましょうか。連太郎、適当なスライムにタッチしてください。戦闘が始まります。最初なので1匹だけでいいですよ。って、おい! そこのワイセツ物!」

「あんだ? なんでボブ子たんはジト目で見てるんだ?」


 メリッサは、すでに複数のスライムにタッチしていた……。


「やれやれ……。3匹で済みましたか……」

「ねえ、ボブ子。スライムがバウンドしてるんだが」

「それが戦闘開始の合図です」


 サッカーボール大の3匹のスライムが横一列に並んでいる。

 レンタロウたちも同様に、真ん中にメリッサ、その右にボブ子という具合に整列していた。


「この並びって何か意味はあるのか?」

「リーダーが真ん中にいると思います。最初にスライムを触った人がリーダーなので」

「なあ、ボブ子たん。リーダーって何すんだ?」

「メンバーに指示を出すのが役目です。面倒なら各メンバーに判断を任せてもいいですよ。リーダー権限を移しますか?」

「おう、ボブ子たんにやるぞ!」

「権限を私に移します。ワイセツ物さんは気楽にやってください」

「そういやさ、だれかが死んでも教会に行って札束をちらつかせればいいんだよな? 復活できるんだよな?」

「連太郎は何いってるんですか? 死んだら終わりですよ。狩りは甘くないんで」

「なんてこった!」

「こちらが先攻のようです」


 ボブ子がニヒリと笑う。

 スライムに向けた鋭い視線は狩人。

 いや、繁忙期の農業家だ。


 アデルと一緒にスライムと戦ったときもこんな感じだった。

 動物性スライムを倒すには、つむじを攻撃すればいいはずだ。


「そんじゃ、やりますか」


 レンタロウは、ボブ子を横目で見ながらノック式ボールペンを取り出す。

 ペンの先っちょを出して攻撃の準備をした。


「そこのワイセツ物は、連太郎の援護をお願いします」


 ボブ子はメリッサに指示を出し、付け鼻を装着。

 戦闘力がアップするらしい。

 続けて、タピオカを楽勝で吸い込めそうな太いストローを構えた。


「こちらワイセツブツ。了解したぞ!」


 ワイセツ物がコールサインになりつつあるメリッサは、空気嫁のカタクリ子を地面に置いた。


 股に貼ってあるバンソウコウをはがして、また貼付(ちょうふ)した。


「ワイセツ物さんは何をやっているのですか? 防御力下がっちゃうでしょ……」

「なあ、ボブ子。カタクリ子さんとバンソウコウって防具なのか?」

「知りませんよ、そんなこと。ワイセツ物さんにとっては防具かもしれませんけど」

「防御力とかの数値って、目に見えてわかるものなのか?」

「なに寝ぼけたことを言っているのですか? そんなものがあるわけないでしょ!」

「だよえなぁ……」

「連太郎、そろそろ行きますよ!」


 最初に動いたのはボブ子だった。


 このターンで行動できるのは1度きり。

 しかも、前後左右のどこかに1歩だけしか動けないらしい。


 次の僕らのターンで撃破しようと考えたのか、右の真っ赤なスライムに向かって1歩前進。

 ボブ子はその場で待機状態になった。


 メリッサは浮き上がり、正面にいる薄黄色いスライムの頭上まで移動した。

 なぜか胸のバンソウコウをはがし、上空で待機する。


「おい、ワイセツ物! なんで攻撃しないんですか!」

「できんのか?」


 いまだにクワガタのような髪型のメリッサが、目をパチクリさせながらボブ子に視線を移す。


「手や足が届く範囲にスライムがいれば攻撃できますよ」

「おう! 今度はカマしてやんぞ! よく見とけよ、ボブ子たん」


 次はレンタロウの番だ。

 スライムの動きとか、先を読んで行動しないといけないのか。

 意外と頭を使うんだな、このバトル……。


 右端のスライムはボブ子に向かうのか?

 真ん中にいるスライムはメリッサを狙うか?

 レンタロウと朱色のスライムの距離はかなり開いている。

 レンタロウは、とりあえず1歩後退。

 ほとんど動いていないが、なんだかチェス盤の上にいるような感じだ。

 自分の意思で歩いてはいるが、止まる際はカチッとした動きで何者かに地面に置かれたような錯覚に陥る。


 レンタロウたちのターンが終わった。

 ターン終了後も会話はできる。だが、足が石のようになって動かない。


 スライム側のターン。

 右側のスライムがボブ子に向かった。

 攻撃が届かないようで、スライムはその場で待ち状態になる。

 ボブ子とスライムの間は、ひとりぶんのスペースが空いている。


 中央のスライムは回転するだけで移動しない。

 真上にいるメリッサに気がついてないのだろう。


 レンタロウの正面にいるスライムは、仲間になりたそうな顔をしている。

 うっすらと見えるスライムの目。

 ときどき瞬きをする表情が愛らしい。


 レンタロウたちに行動権が移った。

 攻撃射程圏内に移動したボブ子が、ストローを振り下ろす。

 真っ赤なスライムのつむじにヒットした。

 “ブチュっ”と音を立てると、高速横回転していたスライムの動きが止まる。

 同時、ちょっとスパイシーな香りが広がった。


「1匹確保です!」


 獲物を掲げたボブ子が、不安そうに頭上を見上げる。


「ワイセツ物さん、いけますか?」

「おう、やってやんぞ!」


 メリッサは、真下にいるスライムの両目にバンソウコウを貼った。

 目が『XX』になったスライムは、視界を奪われブルブルと体を震わせる。


「なるほど。これでも戦闘不能にできるのですね。次の狩りの参考にします。悔しいですけどナイスですよ、ワイセツ物さん!」


 メリッサは「テイヤッ」とか言いながらスライムを蹴り飛ばし、はるか彼方に追いやった。額に手をかざし、ぶっ飛んでいくスライムを見送った。物体が遠くに飛んでいく際、キラーンと輝くらしい。


「おい! そこのワイセツ物! せっかくの獲物に何してくれるんですか! 連太郎! アンタもだ! ボールペン使えや!」


 レンタロウもメリッサを見習って、スライムを蹴飛ばしたのだ。

 2匹のスライムが圏外に放出されたため、レンタロウたちの勝利で終わった。


「何やってるんですか、ふたりとも……。1匹確保する予定でしたので良いですが……」

「そういや、ボブ子。バンソウコウを貼る動作とキック、なんでメリッサは2回行動できたんだ?」

「飛行可能な変態は、2回動けるのかもしれませんね。それか、ワイセツ物さんが特殊なだけか。どちらにしても、メンバーの組み合わせ次第で、狩りは有利に運べそうですね」

「ボブ子は今までひとりで狩りをしてたのか?」

「そうですよ。ボッチなんで」

「ボブ子たんはボッチじゃねえぞ。次もメリッサと狩りしようぜ! 全裸で狩ろうぜ!」

「考えておきます……。全裸は勘弁ですけど」


 ボブ子が照れくさそうに頬をボリっと指で掻いた。


「バトルは終わったけど、強くなったのかな。ステータスとか確認できないかね?」

「連太郎ってば、まだそんなこと言ってるんですか? そんな便利なもの……あ、あります!」


 トンと手のひらを打つと、ボブ子が話を続ける。


「神父さまか、修道女さんが能力を持っているとかいないとか。有料だったと思いますけど」

「お金がいるのか。ちょっと厳しいから今度にしよう。ところで、ボブ子が狩った獲物は何? というか何味?」


 ボブ子に仕留められ、安らかな表情のスライム。

 穏やかな顔とは裏腹に、鼻を突く刺激臭を放っている。


「激辛カレースライムですよ」

「僕とメリッサが蹴飛ばして葬り去ったあれは?」

「フカヒレスライムと和牛スライムです。2匹とも結構高級なやつですよ」

「なんてこった! メリッサ。いますぐ回収してこい!」


 レンタロウの命令を受けると、すぐさま飛び立つメリッサ。

 スライムの飛んでいった方角ではないのが、非常に残念だ。


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