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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第4章:習慣は、呪いより強かった

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「体で覚えた分だけが本物だ」

 塔を出て宿で一泊した翌朝、発つ前に田中が自分の手を見た。

 グッ、パッと手を開けたり広げたりしてみた。


 ――チートが戻っていた。


 実は、田中は昨夜から気づいていた。体の感覚が変わった。敏感な田中にはすぐにわかることであった。

 前から続いていた「ない」状態が、ふとなくなっていた。

 根源の塔の最奥が片付いたことで、S●NYの最後の残留機能が切れた。たぶん、そういうことだと思う。


 田中は帳面に短く書いた。「チート:戻り。以上」


 田中にとって、”チート”とは、たった一行。それだけのこと事象だった。


「師匠!!チートが戻りました!?昨夜から体の感覚が!!筋肉も喜んでます!!!!(興奮しすぎてシャツが筋肉ではちきれそうなっている)」


 アルスが廊下から筋トレしながら駆け込んできた。そしてやっぱりシャツが破れていた。すでに破れていた。興奮で破れたらしい。


「気づいていた」


「チート、使いますか!!!」


「当然、使わん」


 アルスが止まった。


「えっ......使わない、んですか」


「使わん」


「でも、チートが!!最強の力が戻って!!」


「体で覚えた分だけが本物だ」と田中は言った。「()()()()()()()


 少しの間があった。


 アルスが何か言いたそうな顔をして、言葉が出てこなかった。ネネが腕を組んで田中を見た。エリュシアが内心で何かを処理し始めた。


(体で覚えた分だけが本物だ)

(田中さんが言いました)

(田中さんが二十三年間かけた分だけが、本物です)

(私が処理した二十三年分の記録の中に、今日の一言があります)

(書く欄:ありません)

(書きました)

(消しません)


「行くぞ」


「はい師匠!!(シャツ破れたまま)」


エリュシア(ドS内心:てかアルス!あいつほとんど変態じゃねえか!いつでも半裸ってそれもう犯罪案件だよ!!キモいとか超えてるよおおおおおおおおおおおお!!)



 宿を出たら、ベータがいた。

 当然のように。宿の入口の前に立って、金色の目でこちらをまっすぐ見ていた。


「お は よ」


 全員が止まった。


「(ドS出る)てめぇ、いつからそこにいるんですか!!昨夜からですか!!昨夜から立っていたんですか!!常識だろうが!!」


 田中がエリュシアの頭にチョップを一発。ボディにブローを一発。


「うるさい」


「うぐっ、い、痛いです!!(一拍)......(ああ、でも二回もよかったです)(でもでも今それどころでは)(どちらでもよかったです)」


「アタシが来ちゃダメなわけ?」とベータが田中を見た。ぶっきらぼうな声だった。


「来るなら来い」と田中は言った。「だが、荷物を持て」


「は?なんで荷物持ちなのよアタシが――」


「経費削減だ。以上だ」


「......まあいいけど!」


 ベータが荷物を受け取った。エリュシアが田中の背中に向かって叫ぼうとして、田中が振り返らずに「次に声を出したらもう一回だ」と言った。エリュシアが口を閉じた。


(閉じました)(閉じないほうが良かったかもしれません)(どちらでもよかったです)(書けません......)


 アルスが前に出てベータに手を差し出した。「アルスです!!同じパーティになったようなので宜しくお願いします!!」


「......アルス(処理中)ふーん」


「僕はシャツがよく破れます!!習慣です!!」


「......(計測中)(破れる理由:不明)(記録する)」


田中「うるさい。行くぞ」


アルス「はい師匠!!」

β「......(ついていく)」


ネネ「......(見ている)(田中に慣れるのが早すぎる気がする)(我は、気にしない)(気にしないもん)」



 田中一行(パーティ)は街を出た。


 空は晴れていた。根源の塔を背に、次の道を歩いていた。

 田中が先頭で、アルスが後ろで移動しながら、いつもど~り、腕立て予備動作を繰り返している。

 エリュシアが田中の斜め後ろに位置を取り、ベータが荷物を背負って列の端を歩いていた。グラは田中の肩でうとうとしていた。


 道の途中で、グラが目を覚ました。


 田中の肩から飛んだ。

 前方の地面に降り、その翼を広げた。


 全員が止まった。


田中&β以外「えええええええええええええええええええええええええええええええっ!?」


 グラが大きくなっていた。手乗りサイズのグラが、翼を広げると馬一頭分を超える幅になっていた。

 青緑の(うろこ)が日差しを受けて光り、金の目が田中をまっすぐに見ている。


「......」


 誰も何も言わなかった。


「うるさい」とグラが言う。


 ネネが前に出た。「これ......()()、と言っておるな」


「そうか」と田中は言った。


 乗った。それだけだった。


「......(計測値:体重)(田中さん:標準)(グラ:問題なし)(他メンバー:乗れます)」とベータが言った。


「そうか。全員乗れるな」と田中は言った。


 全員が乗った。アルスが最後に乗った時、シャツが破れた。


「師匠!!グラに乗りました!!(シャツ破れている)」


「そうだ」


「先行投資の回収ですか!!」


「そういうことだ」


 田中がグラの首のあたりに一度手を置いた。


「これは、先行投資の回収だ」


「グゥ」とグラは言った。


 少し間があった。


また、「うるさい」とグラが言った。


 全員が少し静かになった。


(うるさいと言いました)とエリュシアが内心で言った。(グラさんが)(田中さんに)(よかったです)(でも私のセリフです)(どちらでもよかったです)


ネネ「......(空が広い)(千年生きて初めて、空を上から見ている)(書かない)」


ベータ「......(計測中)(空:広い)(処理:追いつかない)(記録する)」


 グラが翼を一度大きく動かして、大空に飛んだ。


******


その頃、魔界では——


「大魔王様!!田中様のチート(特殊能力)が戻ったそうです!!」とゾルグが報告書を広げた。「でも、使わないそうです!!」


 ハガーが安葉巻に火をつけた。「......それでいい」


「え?」


「それでいい」


「普通、戻ったら使いませんか!!?」


「ゾルグ」とゼフィーラが静かに言った。「黙れ」


「はいっ!!(でも言いたい)」


 ゼフィーラがハガーの方へ向いた。「......大魔王様、その葉巻は本日も」


「覇焔葉巻《以前のもの》は高すぎる。削れ(コストカット)


 沈黙が来た。


「......今、削れと言いましたか」


「言った。高すぎる。以上だ」


(それは田中さんの口癖では......)とゾルグが内心で言った。(言わない)(言わないぞ!!)(でも言いたい)(言えば死ぬかもしれない)(でも言いたい)(ああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!)


 ゾルグを横目にみて、「フィルナ」とゼフィーラが言った。「お前も、何か言いたそうな顔をするな」


「え〜でも大魔王様と田中さん、おそろいですよね〜!!」


 沈黙。


ゼフィーラ「......フィルナ、それ以上言うな」


フィルナ「えー、なんでですか〜」


ゼフィーラ「わかっているはずだ」


フィルナ「フィルナ、全然わかってないですよぉ〜」


 ゾルグが小声でゼフィーラに寄った。「(あのフィルナが言えて私が言えないのはなぜですか......)」


 ゼフィーラが小声で返した。「(......フィルナは本当に何もわかっていないからだ。羨ましいと思うな)」


「(羨ましいです)」


「(黙れ)」


 ハガーが安葉巻を一口吸って、窓の外を見た。


(チートが戻った)(それでも使わなかった)(体で覚えた分を使うということか)


(......そういう男だ)


「......悪くない」


フィルナ「何がですか〜!!」


ゼフィーラ「フィルナ。それ以上言うな」


フィルナ「は〜い〜」



※おじさん解説!


 グラの名前はグラディウス(コナミ・1985年)から来ている。26話で解説した。


 グラディウスには「オプション」という仕組みがある。敵を倒して経験を積むと、自機の後ろに光の玉がついてくる。最大4つまでつく。オプションは消えない。後ろからついてきて、一緒に弾を撃つ。積み上げた分が、そのまま力になる。


 グラを拾った時、田中は「先行投資だ」と言った。


 今日、グラが大きくなって全員が乗れた。


 これこそ、先行投資の回収だ。常識だろうが。


******


神界業務日報 第94回


本日の特記事項。


勇者のチートが戻りました。

田中さんが「使わん」と言いました。

「体で覚えた分だけが本物だ」と言いました。

私が処理した記録の中に、二十三年分がありました。

その中に今日の一言がありました。

書く欄はありませんでした。

書きました。消しません。


ベータが宿の前にいました。

いつからいたかは不明です。たぶん夜中とか。

荷物持ちになりました。


グラさんが大型化しました。

全員が乗れました。

田中さんが「先行投資の回収だ」と言いました。

グラさんが「うるさい」と言いました。

私も「うるさい」という言葉には覚えがあります。

書きません。

書きました。

以上です。


担当:エリュシア(神界第七課・業務継続中)


******


魔王の家計簿 第94回


支出:なし


チートが戻った。田中は使わなかった。

「体で覚えた分だけが本物だ」と言った。


我もそう思う。

千年、体で覚えてきた。

チートなどなかった。

田中と同じだと思った。

書かない。

書いた。

以上。


グラが大きくなった。

空が広かった。

千年生きて、初めて空を上から見た。

田中が前を向いていた。

いつもそうだ。


******


グラの一日 第二回


グゥ(大きくなった)

グラ(みんなが乗った)

グゥ(重かった)

グラ(うるさいと言った)

グゥ(田中に言った)

グラ(田中は前を向いていた)

グゥ(悪くなかった)


******


ベータの観測記録 第二回


本日の観測:

・田中:チート戻り→「使わん」→理由「体で覚えた分」

・アルスさん:シャツ:二回破れた(原因:興奮)

・グラ:大型化→飛行→「うるさい」(田中さんに言った)

・空:広い(処理:追いつかなかった)


田中さんに「来るなら来い」と言われた。

荷物を持った。

なんで持ったのかわかんない。

でも持った。


記録する。


以下、てかやんのかてめぇ、ああ、ゴラ!?等

謎の文字の羅列が続いているので割愛――。

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