表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第4章:習慣は、呪いより強かった

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/98

「酒が飲めるか」

 殴り合いの後、魔界の城に、酒の席が設けられた。

 なぜそうなったのかは、エリュシアにも理解できなかった。


(昼間まで殴り合っていた)(なぜ今日は酒を飲んでいるんですか!!)(ドS)(私もたまには飲みたいです!)(複雑です)


 ハガーがゾルグを呼んだ。


「......”大魔界吟醸”を出せ」


「ええっ!?」とゾルグが言った。「だ、大魔界吟醸ですか!?あれは万年に一度の秘蔵品では?!」


「よいのだ。()()


「……は、はい!!(なぜですか!!でも出します!!)」


 ゾルグが酒蔵へと走っていった。


 ネネが壁際から父を見た。(大魔界吟醸)(パパが万年間大切にしまっていたやつだ)(もちろん、我も飲んだことがない)(田中に出すのか)(......)


「......父上」


「なんだ?わが娘ネネよ」(あーネネたんめっちゃかわいいでちゅ、はやく二人きりになりたいバブー、もうちょっと我慢ちてね)


「……いや、なんでもない」


ネネ(田中が気に入られている)(なぜか、我は恥ずかしくなってきた)(書かなくていい)


 ゾルグが埃のついた瓶を抱えて戻ってきた。「お持ちしました!!大魔界吟醸・万年熟成・魔界最高峰の一本です!!」


「そこに置け」


「置きます!!(泣いている)(なぜ泣いているかは自分でもわかっている)」


 ハガーが酒の瓶を田中の前に置いた。


「飲めるか」


「飲める」と田中が言った。ハガーが酒の封印を解く。


 田中が受け取り、一口飲んだ。「……うむ、これは強いな」


「魔界の酒だ。()()()()()()()()


「常識だろうが」と田中が言って、もう一口グイッと飲んだ。


 ハガーが「(飲んだ)(強い酒だぞ)(それでも飲んだ)(……悪くない男よ)」と一瞬だけ目を細めた。


******


 しばらく、二人は黙って飲んでいた。


 なんともなしに、田中が煙草を出したて火をつけた。フゥーと煙が立った。


「……その煙草は何だ」とハガーが言った。


「昭和の習慣だ。知らんか」


「知らん」


「そうか」と田中が言って、神タバコを一本渡した。


 ハガーが受け取った。一口吸う。黙りながら、頷いた。


「......渋いな」

「そういうものだ」

 

ハガーがゆっくりと煙草をふかした。煙が天井に向かって広がった。田中も一口ふかした。二人分の煙が混ざって、消えた。


 二人がまた黙った。酌み交わす酒と煙草の煙だけが動いていた。戦った男たちに、会話は必要かったのだ。


挿絵(By みてみん)


 ネネは、壁際からじっと二人を見ていた。

(パパと田中が黙って飲んでいる)(何を話しているわけでもない)(でも)(……まあいい)(何回目かわからん)


 リリが「……なんかお父さんが二人に増えたみたいじゃん」と小声でネネに言った。


「そうかもしれん」


「ネネもそう思うのー?」


「やつを見てると……たまに思う」


「よかったねぇ」とフィルナがおっとり言った。


「何がだ」とネネが言った。


「なんとなく〜」


(なんとなくで返すな)(でも)(......否定できない)


******


 酒が進んだ頃、アルスが鍛錬を始めた。


 場所は関係なかった。時間があれば始める。それがアルスだった。


 腕立てを十回やったところで、シャツが破れた。


「師匠!!また破れました!!」


「強くなった証拠だ」と田中が言った。飲み続けていた。


 ハガーがアルスを見た。シャツが破れた腕を見た。そのまま腕立てを続けているのを見た。


(シャツが破れた)(続けている)(なぜ続けているんだ)(でも止まらない)(……)


「……お前の弟子か」とハガーが田中に言った。


「そうだ」


「鍛えているな」


「当たり前だろうが」と田中が言って、煙草を一口吸った。


 ハガーがもう一度アルスを見た。(強くなろうとしている)(まだ途中だ)(でも続けている)(……そういうものか)


「……そうか」とだけ言った。


 アルスが「師匠!!腕立てを見ていただきました!!」と言った。


「見ていない」と田中が言った。


「見ていたと思います!!」


「いや、飲んでいた」


「師匠ぉぉぉぉぉぉぉぉォォォォォォォォォ!!」


 ハガーが口の端を少し上げた。それだけだった。


******


 宴もたけなわというころ、ハガーがネネを見た。


「ネーネちゃん、ちゃんとごはん食べてまちゅかー」


 静寂が部屋を包んだ。


 全員が止まった。


(パパ)(場所をわかってくれ)(田中がいる)(リリもいる)(フィルナも)(アルスも)(全員いる)(全員だぞ)(てか、酔っぱらっておるなこれ)


「……父上」とネネが言った。声が低かった。


「なんでちゅか」とハガーが言った。


(全然気づいていない)(万年大魔王が)(全然気づいていない)


「……みながおりますゆえ――す」


「おるな」とハガーが言って、酒を一口飲んだ。


(気にしていない)(気にしていないんだ)(万年大魔王が)(酔っぱらうとパパこれだから)


 リリが「……ハガー、変わってないじゃん」と言った。


「そうか」


「全然変わってないじゃん」


「そうか」


(あたし的にはもうちょっと反応してほしかった)とリリが内心で思った。


 フィルナが「ネーネちゃん、かわいいね〜」と言った。


「やめろ」とネネが赤面しながら言った。


「よかったねぇ」


「何がだ」


「なんとなく〜」


(また、なんとなくで返すな)(二人そろって)(幼馴染だからか)(……まあいい)


 アルスが「ネーネちゃん……」と小声で呟いた。


「おいアルス」


「はい師匠!!(腕立てを再開する)(シャツが再び破れる)」


 ハガーがアルスを見た。(また破れた)(また続けている)(……そういうやつか)と静かに納得した。


 田中が「削れ。シャツ代がかかりすぎだ」と言った。


エリュシアが「馬鹿筋肉、削れ!!(ドS即発動)」と言った。


 田中がデコピンを入れた。


「いたっ(よかったです)(書けません)」


 ハガーが「(また叩いた)(また嬉しそうだ)(相変わらず理解できん)」と一瞬だけ眉を動かした。


 ネネが壁際で「(パパが見ていた)(全部見ていた)(最悪だ)(いや、最悪ではない)(……書かなくていい)」と静かに処理した。


******


 夜が深くなった。


 酒の瓶がいくつか空になっていた。ハガーと田中はまだ飲んでいた。ほかの面々は少し離れたところで思い思いに時間を過ごしていた。


「……娘は、強くなったか」とハガーが田中に言った。声が低かった。


「知らん。ネネは最初からずっと強かった」と田中が言った。


「……そうか」


「ネネが弱かったことはない。よくやっている。それだけだ」


 ハガーが「(田中が言った)(弱かったことはない)(……そうか)(そうだ)」と煙草を一口吸った。


「……お前は、娘をどう見ている」


「魔王。以上だ」


「それだけか」


「今は、それだけだ」


 ハガーが「(今は)(今は、と言った)(……まだ決めていないのか)(だが今は、と言った)(……悪くない)」と酒を一口飲んだ。


「……そうか」


 二人がまた黙った。煙草の煙だけが動いた。


 しばらくの沈黙ののち、ハガーがぼそりと田中だけに聞こえるようにつぶやく。

「娘を、よろしく頼む――」

 それに田中からの返事はなかった。だが、何も言わないことこそが、確かな返答だとハガーは感じていた。


 ネネが遠くから二人を見ていた。何も聞こえなかった。でも見えた。(パパが)(田中と話している)(……まあいい)(今日は何回言ったかわからない)(書かなくていい)


******


 その頃、神界では——


「本日の特記事項です。田中剛と大魔王様が深夜まで酒宴をされていました。煙草の交換も確認しています」


「……深夜まで」


「ネーネちゃん発言は本日二回です」


 ウルダの口元が動いた。動いて、止まった。「……寛大に」


「笑われそうになったことも記録しません」


「毎度寛大で感謝の至りです」


「寛大一回。記録しました」


******


 さらにその頃、魔界の別室では——


「大魔王様と田中殿が深夜まで飲んでいます!!」とゾルグが報告した。


「知ってるわ」とグレインが言った。「見ればわかるだろ」


「なんか仲良くなってますよね!!昨日殴り合ってたのに!!」


「なるほどね。男はそういうものだ」


「なるほどねって何がですか!!」


「殴り合えばわかる、と言っていただろう。大魔王様が」


「なるほど(少しわかった)」


「なるほどね(少しだけ)」


 フィルナが「ハガー様、田中さんのこと気に入ったんだね〜」とおっとり言った。


「……なるほどね(これは正しい)(認めてない)」


「よかったねぇ」


「何がですか!!(ゾルグ・泣きながら)」


「ネネちゃんも、なんとなくよかったんじゃないかな〜」


 全員が静かになった。


 ゼフィーラが書類から目を上げた。「フィルナ」


「え〜なに〜?」


「それ以上言うな」


「え〜なんで〜?」


 ゼフィーラが書類に戻った。今日も理由は言わなかった。


※おじさん解説!


 昭和の職場では「とりあえず生」という文化がありました。宴会が始まると、飲めても飲めなくても全員が生ビールを頼む。上司が飲み干すまで席を立てない。二次会・三次会が当たり前。翌朝も普通に出社する。それが昭和のサラリーマンでした。田中も二十三年間そうしてきました。


 今は違います。異世界の魔界で、大魔王と二人で好きな酒を好きなペースで飲んでいます。誰も「とりあえず生」と言いません。上司もいません。田中が飲みたいものを飲んでいます。田中史上、おそらく初めての飲み方です。


 酒場といえば、ウィザードリィというゲームがあります。一九八一年にアメリカで作られ、日本ではファミコンに移植されました。ゲームの始まりは「酒場でキャラクターを作る」ことです。冒険者が酒場に集まり、仲間を雇い、ダンジョンへ向かう。酒場が冒険の出発点でした。昭和のゲーム少年には「酒場=強い人が集まる場所」というイメージがあります。


 田中と大魔王が深夜まで飲んでいた光景は、ウィザードリィの酒場に少し似ていると思います。ただし二人とも最初は殴り合っていました。


 以上です。(おじさん調べ)


******


※神界業務日報 第九十回


 本日の特記事項。

 大魔王様と田中さんが深夜まで飲んでいました。

 なぜこうなったんですか、と言いました。無視されました。

 よかった気がします。複雑です。

 デコピンされました。よかったです。

 ネーネちゃん、と聞こえました。二回。記録しません。

 以上です。


******


※魔王の家計簿 第九十回


 パパと田中が深夜まで飲んでいた。

 煙草を渡していた。田中が渡した。

 二人とも黙っていた。

 (パパが)(田中に何かを言っていた)(聞こえなかった)(聞かなくていい)

 支出:酒代(魔界持ち)。田中は飲むだけ飲んだ。田中らしかった。

 以上。


******


大魔王(ハガー)の独り言 第二回


 人間・田中と酒を飲んだ。悪くなかった。

 煙草をもらった。昭和とやらの味がした。

 強くなろうとしている弟子がいた。シャツが破れていた。続けていた。

 田中は「ネネたんがずっと強かった」と言った。

 ……そうだ。よくわかっている。

 奴は悪くない男だ。だが。まだ認めていない。

 以上だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ