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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第4章:習慣は、呪いより強かった

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「貴様が婚約者か!!」

 田中一行は、再び魔界へと到着した。

 入口には岩でできた大きな門があり、門番が二人いた。


「魔王ネネ様!!お帰りなさいませ!!」

「うむ、二人とも、息災であるか」とネネが言った。


 二人の門番が田中を見た。見知った顔だった。

「田中殿もお帰りなさいませ!!」


「うむ」と田中が言った。歩いて入った。


 ネネが「(また来た)(田中が魔界に来るのは今日で何度目か)(もう数えていない)(……まあいい)」と内心で言った。


 リリが「……田中、ここ来たことあるじゃん」と言った。


「ある」


「何しに来たの」


「この前は――反乱を止めた」


 リリが「(そういうやつか)(やっぱり納得じゃん)」と内心で言った。


******


 魔界の城は、前と変わっていなかった。


 廊下の石の色も、かすかに漂う魔力の気配も、田中には覚えのある場所だった。


 廊下を歩いていると、足音がした。ドン、ドンと、とてもでかい足音だった。

 しばらくすると、廊下の向こうから、でかい男がやってきた。


 背丈はどう見ても田中の倍以上はあった。肩幅が廊下いっぱいに広がっている。その肉体には、歴戦の傷が無数に刻まれていた、眼光が鋭かった。全身から圧がにじみ出ていた。その顔は、一万年生きた大魔王の顔であった。


挿絵(By みてみん)


 ただし田中はこの男を知らなかった。ネネが顔色を変えた。


 その男がネネを見た。一瞬だけ目が緩んだ。次に田中を見た。目が戻った。


「ネネ!!」


「……父上」とネネが言った。「お久しぶりです」


「長期離脱の理由は後で聞く!!その隣の人間種の男は誰だ!!まさかではあるが、婚約者か!!」


「違います」と田中が一秒で言った。ネネは一瞬「違いません」といいそうになったが黙っていた。


「違わん!!娘がこんな男と一緒に旅をしているということは——!!」


「違う」


「どこを見て違うと言っている!!」


 男が田中の胸ぐらをつかんだ。田中が「離せ」と言った。離さなかった。田中がもう一度「離せ」と言った。やはり大魔王は離さなかった。


「……さすがにでかいな」


「当たり前だ!!余は万年——」


「昭和の親父だ」


 男が「(胸ぐらを掴んだまま)(……昭和?)(何だそれは)」と止まった。


「知らんか」と田中が言った。「上等だ。やるか?」


 沈黙が三秒あった。


「やろうではないか」と大魔王が言った。


 二人のおっさんの、殴り合いが始まった。


******


 エリュシアが「(ドS)なぜこうなるんですかあ!!」と言った。田中に無視された。「(よかった気がします)(複雑です)」と内心で続けた。


 ネネが「(止める気力がない)(パパと田中が本気で殴り合っている)(我は何を見ているんだ)」と内心で言った。


 アルスが「師匠!!」と言った。筋肉が膨張しすぎて、またシャツが破れた。「師匠!!また——」「今じゃない!!」とアルスが自分で突っ込んだ。そして筋トレとポージングを無言で開始した。


 リリが腕を組んで見ていた。「二人とも......嬉しそうじゃん」


「どこがだ」とネネが言った。


「殴り合っててもさ、目が笑ってるじゃん。二人とも」


 ネネが自分の父を見た。確かに目が笑っていた。田中も笑っていた。


「……(なぜ笑っているんだ)(でも)(……まあいい)」


 フィルナが「なんか楽しそうだね〜よかったねぇ」と言った。


「楽しそうに見えるのか」とネネが言った。


「うん〜」


 ネネが「(パパはそういう人だ)(田中もそういう奴だ。気が合うのかもな)(......まあいい)」と内心で言った。


******


 しばらくして、殴り合いが終わった。


 どちらが勝ったかは、よくわからなかった。二人とも立っていた。二人とも少し笑っていた。


 男が田中を見た。「貴様……骨があるな」


「お前もな」と田中が言った。


 大魔王「(この男)(娘の隣に立つ理由がある)(まだ認めていない、認めてはおらんが)(来てから決めると言った)(だが……まだだ)」と内心。


「で、貴様は何者だ」


「田中だ。節約勇者だ」


()()()().....」と男が繰り返した。「そういう仕事があるのか」


「ある。以上だ」


 大魔王(以上だ)(フ、切り方が気に入った)(だが、まだ認めていない)


 エリュシア(ドS)「説明してください!!もっと丁寧に!!あなた勇者ですよ!!もっと勇者らしく――」


 田中がチョップを入れた。


「いたっ!!(ドS)(内心:よかったです)(魔界でも出ました)(書けません)」


 大魔王(……なんだ今の)(娘の担当女神が)(あの男に)(叩かれて)(なぜ嬉しそうなんだ)(理解できん)


 ネネ(パパに見られた)(全部見られた)(最悪だ)(いや、最悪ではない)(……書かなくていい)


「貴様……名を名乗れ」と男が言った。田中を見ていた。


「田中剛だ。お前は」


「余の名はハルバドール・ガーンズヴォルト・マキシマス・エクスティンクション・ヴォルガニウス・グランドオールマイティ・マグナテラ・エターナルデストロイヤー・グレイテストデモンロード・フォーエバーアンドエヴァー・ジ・エンドである!!」


「長い。削れ(コストカット)。ハガーだ」


「ハガーだと?」


「カプコンさんのファイナルファイトに出てくる。娘のために単身乗り込むマッチョ市長だ。素手で戦う。昭和の親父だ。お前に似ている」


 ハガー(ハガー)(市長でも戦う)(娘のために)(……悪くない)(まだ認めていない)(だが名前は)(悪くない)


「うむ……ハガーでいい。田中、貴様には特別に許す」


「以上だ」


 ネネ(田中がパパに命名した)(やっぱり、ジ・エンドまで覚えなかった)(……なぜか嬉しい)(これも書かないぞ)


 エリュシア(大魔王がハガー呼びになりました)(神界業務日報の書き方がわかりません)(処理中)


 ハガーと、田中。二人が同時に廊下を歩き出した。二人とも行く方向が同じだった。それに全員が後ろからついていった。


 エリュシア(なぜ仲良くなっているんですか!敵の親ですよ!!)(ドS)(止まる)(内心:でも田中さん)(……よかった気がします)(書けません)


 リリが「……ネネ、あれが田中のやり方ね」と小声で言った。


「そうだ」


「なんか納得じゃん」


「何がだ」


「なんとなく〜いろいろわかったわ」


 ネネが「(リリもフィルナと同じような返し方をするのか)(幼馴染だからか)(……まあいい)」と内心で言った。


******


 その頃、神界では——


「本日の特記事項です。田中剛が魔界に入りました。なお大魔王様と殴り合いが発生した上に、ハガーとか名付けちゃってました」


「……殴り合い、あとハ、ハガー、ウププププッ......」


「はい。両者、立って終わりました。」


 ウルダが書類を閉じた。「……寛大に」


「笑っていたことは今回も記録しません」


「寛大に、処置していただいて感謝いたします」


「寛大二回。記録しました」


******


 さらにその頃、魔界では(少し前)——


「大魔王様!!田中殿が到着されます!!」とゾルグが叫んだ。


「知っている」


「殴り合いになりますか!!」


「……なるかもしれん」


「なるんですか!!やっぱり!!」


 グレインが腕を組んだ。「なるほどね。大魔王様の男の見方はそういうものだ」


「なるほどねって何がですか!!」


「男は殴り合えばわかる、と言っていただろう」


「なるほど(少しわかった)」


「なるほどね(お前も少しわかっただけだ)」


 ゼフィーラが書類から目を上げた。「……結果報告を待て」


「はい!!(泣いている)」


 フィルナから電話がかかってきた。

「ネネちゃんたちと、もうすぐ着くよぉ~よろしくねぇ」


「よかったねぇ(ゾルグ・泣きながら)」


「なるほどね(グレイン)」


「……(ゼフィーラ・書類に戻る)」





※おじさん解説!


 ファイナルファイト(一九八九年・カプコン)というゲームがあります。市長マイク・ハガーが、娘のために一人でスラム街に乗り込むアクションゲームです。市長なのに素手で戦います。スーツを着たまま戦います。政治家が自分で戦います。昭和のゲームはそういうものでした。


 娘のためなら市長でも戦う。その精神が昭和の父親です。大魔王でも同じです。娘のことになると話が別になります。肩書は関係ありません。


 なお男同士の信頼関係というのは昭和では「殴り合って初めてわかる」という文化がありました。喧嘩した翌日から急に仲良くなる。昭和の職場にはそういう先輩が必ず一人いたそうです。田中の工場にもいたようです。その先輩は後に田中の一番の理解者になったそうです。事故で亡くなる前まで。


 余談ですが、ファイナルファイトにはコーディとかガイがいます。あとスーファミ版の初代は2Pができなくて、かつガイさんがカットされてました。彼は後で発売されたファイナルファイト・ガイで登場します。移植されただけでありがたいと思え。常識だろうが。


 以上です。(おじさん調べ)


******


※神界業務日報 第八十九回


 本日の特記事項。

 田中さんが魔界に入りました。また来ました。

 大魔王様と殴り合いました。両者立って終わりました。

 「なぜこうなるんですか」と言いました。無視されました。

 よかった気がします。複雑です。

 チョップされました。よかったです。

 大魔王の呼び名がハガーになりました。記録します。以上です。


******


※魔王の家計簿 第八十九回


 パパと田中が殴り合った。

 両者立って終わった。

 目が笑っていた。リリに指摘された。

 ……パパはそういう人だ。田中もそういう奴だ。

 支出:なし。殴り合いはタダだ。

 以上。


******


大魔王ハガーの独り言 第一回


 娘のそばに変な男がいた。

 胸ぐらをつかんだら殴り返してきた。

 悪くない。

 ハガーと名付けられた。

 市長でも戦う男らしい。

 悪くない名前だ。以上だ。


******


※リリのメモ帳 第二回


 田中と大魔王が殴り合った。

 ハガー、目が笑っていた。

 田中、目が笑っていた。

 ネネは「まあいい」と言っていた(内心だけど顔に出てた)。

 エリュシアは叩かれて嬉しそうだった。魔界でも変わらんじゃん。

 田中、魔界に来たことあったじゃん。反乱止めたって言ってた。

 やっぱりそういうやつか。面白い。以上。

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