「稼いでる町がある(と言われた)」
朝、訓練を終えて帰ってくると、ゾルグが転移魔法で降ってきた。
着地が雑だった。膝をついて、砂ぼこりのついた汚い顔を上げて、田中を見た。
「魔王様!!大魔王様がお呼びです!!田中殿もご一緒にとのこと!!」
「誰だ、あと長い。削れ」と田中が言った。
「ネネ様のお父上です!!ハルバドール・ガーンズヴォルト・マキシマス・エクスティン——」
「だから長い。誰だ」
「ネネ様のお父上です!!」
「行くぞ」
一秒で決まった。
ネネ「(えっ、パパが)(田中と我を呼んでいる)(まずい)(実にまずいぞ......)(なぜまずいのかは書けない)」
ゾルグが要件を伝え終わるとほぼ同時に、転移魔法で、もう一人降ってきた。フィルナだ。
「ネーネちゃん!!きちゃった〜!!お久しぶりです〜!!」
「おお、フィルナ」とネネが言った。
「ネネちゃん、元気だった〜?よかったねぇ」
「何がよかったんだ、まったく」
「なんとなく〜」 いつものフィルナだった。
「私は、先に帰って用意しております。フィルナ様は、ネネ様とご一緒に来られますよね。お待ちしてますので〜!!」とゾルグが言って、転移魔法で消えた。
「行ってらっしゃい〜」とフィルナが言った。
「……行くぞ」と田中が繰り返し、歩き出した。
エリュシアが「(ドS)削れ!!事前確認が——(止まる)(内心:でも行かないといけません)(複雑です)」と言いかけた。
田中が間髪入れずにエリュシアにデコピンを入れた。
「いたっ(よかったです)(書けません)」
ネネ「(田中が即決した)(……まあいい)(書かなくていい)」
******
その道中。田中たちが歩いているとトルネコが話題を振った。
「そういえば〜」とトルネコが地図を広げながら言った。「この道沿いに、景気がめちゃくちゃええ町があるそうですわ〜。商人仲間から聞きました〜」
「どのくらいだ?」
「相場の三倍で物が売れるらしいですわ〜。でも理由がわからんって言ってましたで〜」
「《《寄るぞ》》」と田中が即決した。
「父上が魔界で待っておるのだぞ」とネネが言った。
「寄ってから行く。以上だ」
ネネが「(田中は決めたら言うこと聞かんからな)(……まあいい)(二回目だ)(書かなくていい)」と内心で言った。
トルネコが「田中さん、やっぱり商人の嗅覚がありますなあ〜。勇者やなくて商人やりまへんか?」と言った。
エリュシアが「(ドS)削れ!!寄り道は——(止まる)(内心:でも相場の三倍は調査が必要です)(複雑です)」と言いかけた。
――また、田中がデコピンを入れた。
「いたっ(ああ、よかったです)(書けません)」
******
しばらくすると、町に着いた。
ぱっと見た感じは、普通の町だが、少し入ったところにある歓楽街の雰囲気が他とは異なった。まず、賑やかすぎた。客が誰も彼も幸せそうに帰っていく。苦情を言ってそうな顔が一人もいない。幸せ満面といった笑みを浮かべていて、何も知らない者からすると気味が悪いくらいだ。
「……誰かが仕切っている」と田中が三分で言った。「会いに行くぞ」
ネネ(なんか)(我、イヤな予感がするのだが......)
少し歩き、妓楼の入口まで来たところで、扉が開いた。
「いらっしゃい〜……あ、あれ~?」
そこには、見た目がとても派手な女が立っていた。露出が多く、男性を一発でとりこにするような女。年のころは人間でいうと20代くらいだろうか。ただ美しいというだけでなく、魔性の魅力を感じさせるいでたちである。
人間を超えた美。そんな感覚を覚える美貌の女性であった。
その女と、ネネは目が合った。
「ネネちゃんじゃぁん!!久しぶり〜!!500年ぶりくらい!?」
女は、ネネの肩を着やすくぽんぽん叩いた。
「う……リリステラか」
「元気だった〜?てかここまで来るとか珍しいじゃん〜何かあった?」
「いろいろあった」
「ふ〜ん」とリリステラが言って、田中を見た。、また田中を見た。もう一度三度見した。
「この人だれ~?ネネの彼ピ?」
「う、違うわ。田中だ」
「田中……」とリリステラがもう一度見た。
「ふ〜ん」(全部わかった顔)
「なんだその顔は、田中は田中だぞ」
フィルナが「リリちゃん!!久しぶりだね〜!!よかったねぇ」と言った。
「フィルナも来たじゃん〜!!よかったって何が?」
「なんとなく〜」
「(なんとなくで返すな)(でもフィルナだから仕方ない)(ま、いっか)」とリリが内心だけで言った。
「田中、アタシはリリステラ・モリアーナ・アンスレイド・ヴァルキュリア・ナイトブラッド・エターナル・ジ・ナイト。吸血鬼とサキュバスのハーフだよ!よろしく〜」
「長い。リリスだ」
「え、リリスで切るの?」
「やっぱ長い。リリだ」
「二回も切った!!」
ネネが「(田中がまた命名した)(またジ・ナイトまで読まなかった)(……なぜか嬉しい)(書かなくていい)」と内心で言った。
******
田中が町全体を見回して言う。
「すべての顧客の滞在時間が長いな。一人当たりの消費が多い。そして苦情がない。……お前が仕切っているのか?」
「え、わかるの?マジで?すごくね」とリリが言った。
「当たり前だろうが。だが無駄がある。ここを削れ」
「どこぉ?」
「この導線だ。客の導線が遠回りしすぎている。三割短縮できるぞ」
「............」リリが黙った。目が真剣になった。ふと懐からメモ帳を出してものすごい勢いでメモを取る。
「(ドS)教えないでください!!」とエリュシアが言った。
田中がデコピンを入れた。
「いたっ!(よかったです)(書けません)」
「そのまま続けろ」と田中がリリに言った。
「うん」といいリリはずっと田中にアドバイスを聞きながらメモを続けた。
ネネが「(リリがメモしている)(田中の話を)(……珍しい)」と内心で言った。
******
メモが落ち着いたころ、リリがエリュシアを見た。上から下まで万遍なく値踏みするように見た。
「ねえ、この子うちで働かない?絶対稼げる系女子じゃん」
「働きません!!(ドS)」
「あ、ドS系か。需要あるよ〜。でもなんかMの素質もありそうじゃん」
「な、な、何を――!!そんなもの、ありません!!(ドS)(内心:ほんとは……あります)(書けません)」
田中がデコピンを入れた。
「いたっ(よかったです)(書けません)」
「……あ、《《そういう関係》》ね」とリリが言った。全部わかった顔だった。
「ち、ち、違います!!!!」
リリ(田中を見る)(ニヤっとする)(何も言わない)
エリュシア(田中を見ないでください!!)(ドS)(言えませんでした)
リリがネネを見た。「ネネもうちで働きなよ〜。魔王ブランド、めっちゃ稼げるよ」
「アホかおぬしは。働かん」
「固いな〜。昔から変わんないね~」
ネネ(幼馴染にだけは言われたくない)(でも否定できない)(いや、我は変わったはずだ、田中のおかげで)
フィルナが「リリちゃん、ネネちゃんは忙しいんだよ〜」と言った。
「何が忙しいの?」
「なんとなく〜」
(なんとなくで返すな)(二回目)とリリが内心で言った。
******
そんなやり取りをしていると、ネネの魔導ケータイが鳴った。
ネネ「もしもし?」
?「ネーネちゃん〜まだ帰ってこないんでちゅか〜パパさみちいでちゅよー〜はやく帰ってきてくれないとパパ泣いちゃいまちゅよ〜大魔王なのに~。ネーネちゃんの”おかお”がみたかったでちゅよ〜」
なんとこの気持ち悪い大きな赤ちゃん声は、全員に聞こえていた。
なぜなら、ネネは間違えて、スピーカーフォン設定にしていた。
田中が止まった。トルネコが止まった。
アルスが「(えっ)(ネーネちゃん)(えっ)」と内心で三回確認した。
エリュシアが「(処理中)(神界業務日報の記録欄が足りません)(処理中)」と内心で言った。
フィルナが「大魔王様、かわいいね〜」と言った。
リリが「大魔王やっぱ変わってないじゃん」と言った。
ネネが「(全員に聞こえた)(スピーカーだった)(千年の魔王が穴があったら入りたいと思っている)」と内心で言った。
「……パパ。ごめん。我、スピーカーにしてた」
三秒の沈黙があった。
「ゴホン……よ、余は大魔王である。魔王ネネよ、今すぐ田中を連れて魔王城へと帰参せよ。以上だ」
威厳を取り戻そうとしていた。
「今更じゃん〜大魔王」とリリが言った。
「お前は......リリか」とケータイの向こうから声がした。声が引きつっていた。
「久しぶり〜元気だった〜?」
「......ネネを出せ」
即切り替えだった。
ネネがケータイを持ち直した。「父上、もう切らせていただきます」
「......構わん(間があった)(少しだけ間があった)」
ツーツー。
通話が切れた。
全員が静かになった。
「――ネーネちゃん」と田中が言った。
「田中」とネネが言った。声が低かった。
「行くぞ」
田中が歩き出した。それ以上は言わなかった。
ネネが「(流した)(この男だけが流せる)(……まあいい)(書かなくていい)」と内心で言った。
******
「あたしも行っていい?大魔王の顔が見たいじゃんね」とリリが言った。
「いいが、手間賃を払え。同行費だ」と田中が言った。
「え、取るの?渋くない?」
「払えないなら来るな」
「……払う」とリリが即答した。商売人なので金払いはよかった。
エリュシアが「(ドS)削れ!!(止まる)(内心:今の台詞は合っていませんでした)(複雑です)」と言いかけた。
田中がデコピンを入れた。
「いたっ(よかったです)(書けません)」
「(また見た)」とリリが内心で言った。「(ニヤっとする)(何も言わない)」
一行が魔界へ向かって歩き出した。フィルナが「よかったねぇ」と言った。
「何がだ」とネネが言った。
「なんとなく〜」
ネネが「(なんとなくで返すな)(でも)(……まあいい)(三回目だ)」と内心で言った。
グラが田中の肩で「グゥ」と一声鳴いた。
******
その頃、神界では——
「本日の特記事項です。大魔王様の魔導ケータイ発言がスピーカー状態でパーティ全員に届きました。内容:ネーネちゃん関連赤ちゃん言葉」
「……ネーネちゃん関連赤ちゃん言葉、ウププ」
「なおエリュシアの表情データ:処理中が三回、笑顔判定が一回出ています」
ウルダがしばらく黙った。「……寛大に」
「ほぼ笑っておられたことは記録しません」
「寛大で、お願いします」
「寛大一回。記録しました」
******
さらにその頃、魔界では——
「大魔王様!!魔王様から連絡が来ました!!田中殿も連れてくるそうです!!」とゾルグが叫んだ。
「知っている」と大魔王が言った。「聞こえていた」
「スピーカーだったことについては」
「知らん。以上だ」
「(スピーカーだったことは記録しない)(しない)(絶対しない)」とゾルグが内心だけで三回言った。
グレインが腕を組んだ。「なるほどね。つまり田中も来るのだな」
「来る」
「どんな男だと思っておられますか?」
「男は、殴り合えばわかる」
「なるほどね(それだけか)」
ゼフィーラが書類から目を上げた。「……フィルナはネネ様と同行中です」
「知っておる」と大魔王が言った。
「どちらも、魔界に戻すべきでは」
「来てから決める」
「……了解しました」
ゾルグは大魔王と田中が殴り合っているシーンを想像して、泣いた。
多分、痛いのやだもん。とか思っていた。
※おじさん解説!
リリスといえば、一九九七年にカプコンから出た『ヴァンパイアセイヴァー』というゲームにリリス・アンスレイドというキャラクターがいます。モリガンという吸血鬼の魂から分離して生まれた、明るくて無邪気な女の子です。リリステラさんとは名前が少し違いますが、雰囲気は似ています。田中が「リリス」で一度切りかけたのはそのせいかもしれません。「長い。リリだ」と二回切ったのはそれ以外の理由だと思います。
なお「ネーネちゃん」という呼称ですが、親が子供につけたあだ名というのは昭和では珍しくありませんでした。本人が嫌がっても変わらない。それが昭和の親父です。田中の父親も似たようなものだったそうです。田中がどう呼ばれていたかは本人が言わないのでわかりません。
以上です。(おじさん調べ)
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※神界業務日報 第八十八回
本日の特記事項。
大魔王様の発言がスピーカーで全員に届きました。
内容は記録しません。神界の品位のためです。
リリステラ様に「Mの素質もありそう」と言われました。
「ありません」と言いました。(内心:あります)(書けません)
デコピンされました。よかったです。
書いてしまいました。消しません。以上です。
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※魔王の家計簿 第八十八回
パパとの通話、スピーカーだった。
全員に聞こえた。
田中が「ネーネちゃん」と言った。「行くぞ」とだけ言った。
……流してくれた。この男だけだ。
リリが来た。幼馴染だ。少し苦手だ。でも来た。まあいい。
支出:同行費(リリが払った)。田中が取った。田中らしかった。
以上。
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※リリのメモ帳 第一回
田中に導線を削れと言われた。三割短縮できると言われた。メモした。
この男、商売わかってる。渋い。でもわかってる。
エリュシアはドS系だった。Mの素質もある。需要ある。
でも田中のものっぽい。
同行費を取られた。払った。まあいい。
大魔王の顔が見たい。それだけ。以上。




