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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第4章:習慣は、呪いより強かった

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「完全には戻らない(だが、それでいい)」

 朝から、エリュシアは試していた。


 試す、というより確認だった。止まるかどうかの確認。


削れ(コストカット)!!(ドS)」


 出た。止まらなかった。


(……まだ出ます)(理由:処理中)


******


 宿を出た。田中が先頭を歩いていた。いつもの歩き方に戻っていた。

 そして、道具屋の前を通った。


「師匠!!今日の鍛錬用に消耗品を補充しませんか!!」とアルスが言った。


「削れ。昨日買った」


「はい師匠!!(シャツが破れる)」


「シャツ代がかかる。削れ」


「削れ!!(エリュシア・ドS即発動)」


 田中がエリュシアをちらりと見た。無視した。歩き出した。


 エリュシアが止まった。


(無視されました)

(……聞いてください)

(……でも無視されました)

(……よかった気がします)

(なぜですか)

(ドSとドMが同時に出ています)

(......こんなこと、書けません)


「……なんか今日は機嫌いいな」とネネが静かに言った。


「そんなわけがありません!!(ドS)」


「顔が笑っているぞ」


「笑っていません!!(ドS)(内心:少し笑っていました)(書けません)」


 田中がデコピンを入れた。


「いたっ(ドS)(内心:一回目です)(早速よかったです)(書けません)」


「うるさい。行くぞ」


 エリュシアがついていった。


挿絵(By みてみん)


******


 昼。食堂。


 田中が値段を見た。「ここでいい」


「削れ!!もっと安いところがあります!!(ドS)」


 田中が無視した。席に着いた。


「(無視されました)(……よかった気がします)(なぜですか)(処理中)」とエリュシアが内心だけで言って、席に着いた。


 トルネコが「女神様、最近よく削れって言われはりますなあ」と言った。


「......そうです。言っています」


「なんか師匠みたいになってきましたで〜」


「なっていません!!(ドS)(内心:少しなっています)(書けません)」


 田中が「メニューを持ってこい」と店員に言った。エリュシアが「安いものを!!(ドS)」と続けた。


「(……合っています)(今日も合っていました)(複雑です)」


 ネネが二人を交互に見た。「お前ら……息が合っているな」


「合っていません!!(ドS)」


「いや、合っている」と田中が言った。


「なら合ってます!常識でしょうが!」


 エリュシアが「(田中さんが認めました)(……よかった気がします)(なぜですか)(書けません)」と内心だけで言った。


 アルスが「なんか最近、師匠と女神様が似てきた気がします」と呟いた。グラが「グゥ(うるさい)」と返した。


******


 なんだかんだで夕方。宿を探していた。


「ここだ」と田中が安宿を即決した。


「削れ!!(ドS)——(止まる)(内心:あれ)(今の台詞は合っていませんでした)(削れではなくここでいいです、が正しかったです)(ドSが先走りました)(処理中)」


 田中がチョップを入れた。


「いたっ!!(ドS)(内心:先走りました、と言おうとしていました)(言えませんでした)(二回目です)(よかったです)(書けません)」


「うるさい、安いだろうが」


「(ドS)うるさいのは——(止まる)(内心:またドSが出ました)(止まりません)(どうするんですか私)」


 田中がゲンコツを入れた。


「いたっいたっ!!(ドS)(内心:三回目です)(今日最多です)(でも)(よかったです)(書けません)」


 ネネが腕を組んで静かに見ていた。「(……我も)(いや違う)(魔王だぞ)(三回目だった)(記録しない)」


「宿に行くぞ」と田中が言った。宿に向かって歩き出した。


 エリュシアがついていった。三回叩かれた頭を押さえながら、ついていった。


「エリ」


 田中が振り返らずに言った。


「……なんですか(ドS成分が引いた声だった)」


「完全には戻らん。以上だ」


 エリュシアが止まった。


(……田中さんが)

(気づいていました)

(ずっと気づいていました)

(完全には戻らない、と言いました)

(それでいいとは言いませんでした)

(でも「以上だ」と言いました)

(田中さんの「以上だ」は)

(それでいい、という意味です)

(私は知っています)

(……よかったです)

(書けません)

(書きます)


「……わかりました」


 ついていった。


 ネネが二人の後ろを歩きながら「(それでいい、と言った)(田中語だ)(我も知っている)(……この男だけだ)(書かなくていい)」と内心だけで言った。


 アルスが「……師匠、今何か言いましたか?」と小声で聞いた。


「行くぞ」


「はい師匠!!」


 グラが田中の肩で「グゥ」と一声鳴いた。それ以上は言わなかった。


******


 その頃、神界では——


「本日のエリュシア外部発話報告です。『削れ』:十七回。うち合っていたもの:十四回。合っていなかったもの:三回」


「……十四回」


「田中剛による物理介入:三回。デコピン一・チョップ一・ゲンコツ一です」


「……」


「なおエリュシアの表情データですが——笑顔判定が十七回中十七回出ています」


 ウルダが書類を閉じた。しばらく黙った。「笑顔......ぷぷ、寛大に、見守ります」


「笑っていないことは記録しません」


「寛大に、処置してください」


「寛大二回。記録しました」


******


 さらにその頃、魔界では——


「本日も魔王様から報告が来ました!!エリュシアが削れをなんと十七回も言ったそうです!!しかも田中に三回叩かれたそうです!!」とゾルグが叫んだ。


「なるほどね」とグレインが言った。「つまりドS成分が残留している」


「残留しています!!すごくないですか!!」


「問題だ」


「問題なんですか!!」


「術式が解除されても残るということは——」グレインが腕を組んだ。「……なるほどね(何もわかっていない)」


 フィルナが「エリュシアさん、叩かれても嬉しそうなんだね~」とおっとり言った。


「……なるほどね?(これは正しい)(認めてない)(よくわかってない顔)」


「よかったねぇ」


「何がですか!!」とゾルグが泣きながら言った。


「田中さんが『完全には戻らん』って言ったんだって~、あとネネちゃんも顔が赤くなってたって~」


 全員が静かになった。


「(……それはつまり)(認めているということだ)(なるほどね)(今回は認める)」とグレインが内心だけで言った。


 ゼフィーラが書類から目を上げた。「フィルナ」


「え~なに~?」


「それ以上言うな」


「え~なんで~?」


 ゼフィーラが書類に戻った。今日も理由は言わなかった。

※おじさん解説!


 「完全には戻らない」といえば昭和のゲームに「セーブデータが完全に復元されない」という現象がありました。ファミコンのバッテリーバックアップが弱くなると、セーブしたはずのデータが半分だけ戻る。キャラクターはいる。でも装備が消えている。レベルが戻っている。それでも続けるかどうか。


 昭和のゲーム少年は続けました。半分でも残っていれば続けました。


 エリュシアのドS成分が残ったことは、バッテリーバックアップのようなものだと田中は思っているかもしれません。思っていないかもしれません。「以上だ」と言ったのでわかりません。


 なお「以上だ」で全部済ませる喋り方は昭和の職場では「できる上司の証明」とされていました。余計なことを言わない。結論だけ言う。田中がそれを知っていたかどうかはわかりません。でも田中はずっとそうです。


 以上です。(おじさん調べ)


******


※神界業務日報 第八十七回


 本日の特記事項。

 「削れ」と言いました。十七回言いました。

 無視されました。よかった気がします。

 よかったです、と書きました。書いてしまいました。消しません。

 田中さんが「完全には戻らん。以上だ」と言いました。

 わかりました、と言いました。

 これが私の現状です。以上です。


******


※魔王の家計簿 第八十七回


 本日も正気だった。

 田中が「完全には戻らん。以上だ」と言った。

 田中語の「それでいい」だ。我は知っている。

 エリュシアもわかっていた。顔で分かった。

 ……(書かなくていいことを書いた)

 支出:食事代。安かった。以上。


******


※アルス修行日誌 第八十七回


 今日、師匠と女神様が息が合っていると言われていました。

 師匠が「合っている」と言いました。

 女神様が嬉しそうでした。

 師匠が「エリ」と呼びました。

 女神様がついていきました。

 シャツが破れました。削れと二人に言われました。

 腹筋は続けています。以上です。

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