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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「私が見てきたものは本物だった」

 命令で始めたことが、本物になることがある。

 やり続けた後でしかわからない。 わかった後は、もう戻れない。 

 だが、それでいい。

 目を覚ますと、フィオがどこにもいなかった。


 朝から姿が見えなかった。ケータイでかけるも一秒で切れた。

 メッセージは『先に行く』の一行のみ。

 田中がそれを読んで「行くぞ」と言ったので、一同がソレイユ郊外へ向かうことになった。


 一方、ヴェルム商会の動きは、ここ二日で変わっていた。


 市場独占を潰され、村の排除部隊が撤退させられた。次は直接、流通そのものを押さえにくる段階だろう。商会の荷馬車が三方向から郊外の農村を囲む動きが、トルネコの情報網にいち早く引っかかっていた。


「三方向からきまっせ〜」とトルネコが帳面を開きながら言った。「北の街道、東の砂丘沿い、南の水路沿いの三本からでっせ〜。本気でワテらを締め上げる気でんがな〜まいりましたなあ」


「フィオはどこかわかるか」と田中が言った。


「東の砂丘沿いに、先に入ったみたいでっせ〜」


「そうか。ならば北を行く」


 ギルが地図を広げて「南の水路沿いは、農村の唯一の水源だ。そこを抑えられたら住人が動けなくなる」と言った。


「そこには、お前が行け」


「わかった」


 言うやいなや、ギルが地図を折って南へ走り出した。それと同時に田中が北へ向かって走る。


******


 北の街道は荷馬車が三台、横並びで塞がれていた。

 荷馬車の後ろには人が十人以上いた。装備は、以前(※74話「三万Gか」参照)の排除部隊より重い。個人でなく、組織として動いている人数と隊形をしていた。


 田中が一歩前に出た。


 見張りの一人「この先には行かせん」


「根拠を言え」と田中が言った。


「ヴェルム商会の判断です」


「書類はあるか」


「……」


「ないな。以上だ。どけ」


 見張りはその言葉でも動かなかった。後ろの十人が前に出た。田中が止まった。


 ネネが横に並んだ。魔力が低下しているが、それでも魔王だ。存在感がある。グラが田中の肩で「グゥ」と鳴いた。アルスが前に出た。


「(ぴょん)邪魔です!!(ぴょん)」


「跳ねながら言うな。迫力が落ちる」


「(ぴょん)すみません!!(ぴょん)でも邪魔です!!(ぴょん)」


 場が膠着こうちゃくした。

 両者動かぬまま、二分続いたところで、東の方角から音が聞こえてきた。


 一発の銃声だった。


 全員が東を向いた。


 砂丘の上に、細い影がいた。切りっぱなしのポニーテール。フィオだ。腰に魔道銃を戻すところだった。砂丘の向こうで砂が舞い上がり、何かが弾き飛んだ音がした。


 荷馬車の後ろの人間たちが、互いに顔を見合わせた。東の隊が落とされた。という空気が走った。


 田中が荷馬車を見た。


「どけ」


 その言葉に、今度はどかざるを得なかった。


******


 三方向が全部片付いたのは、昼前だった。


 ギルが水路沿いから戻り、アルスが荷馬車の撤収を確認し、トルネコが農村への影響を聞き取りに回った。田中が村の入口に立って全体を確認していた。


 フィオが砂丘を下りてきた。田中の前に立った。


「片付いた」


「そうだな」と田中が言った。


「今日も銃を撃った」


「見えていた」


「三万Gだ。また使ってしまった」


「そうか」


 フィオが少し止まった。「……理由がある。昨日とは別の理由だ」


「別に聞かん――」


「聞けよ」


 田中がフィオを見た。正面から見た。


 フィオが前を向いたまま言った。


「神界に言わされていたのかもしれない。この世界に来てからも、命令で撃っていたのかもしれない。ずっとそう思っていた」


「……」


「でも昨日、子供を見たんだ。村の子供だ。道の端から顔を出して、こっちを見ていた。ああいう顔を、前の世界でも見た。その子も――同じ顔をしていた」


 フィオがため息を一つ吐く。


「今まで――命令で見ていただけなのかもしれない。でも見てきた。私が、見てきた。命令じゃなかったとしても、それは本物だった。見てきたことは、すべて()()()()()


 田中が少し間を置いた。


「そうだな」


「……お前も、()()()()()のか?」


「そうだ」と田中が言った。「俺も二十三年、同じ繰り返しだった。だが、それは命令じゃなかった。ただ正しかったからやっただけだ。それで、負け続けた。それでもやる。結果は、やり続けた後でしかわからん」


「……わかる、のか。やった後で」


「わかる。それが、()()()()()だ」


 フィオが顔を上げ、少しだけ前を向いた。砂漠の砂地を、まっすぐ見た。


「……今日だけじゃない。これから先も撃つ――!」


「そうしろ。お前の判断でな」


「命令じゃなく、アタシ自身で?」


「そうだ」


「三万Gでも?」


「そこは節約セーブしろ。TPOだ」


 フィオが少しだけ口元を動かした。笑ったのかもしれない。その表情は、すぐに消えた。


「……そこで節約の話を言うなよ」


()()()()()()


******


 少し離れたところで、エリュシアはそれを聞いていた。


 近づかなかった。声を出さなかった。


(……神界に言わされていたのかもしれない)

(でも見てきたことは本物だった)


 エリュシアの中で、何かが動いた。


(また......気づかされてしまいます)

()()()()()

()()()()しました)

(全却下で、書類として処理しました)

(ただの書類として、処理し続けました)


(でも)


(田中さんがやり続けたことは)

(全部、()()()()()

(私が却下した全部が)

(本物でした)

(ずっと)

(ずっと、本物でした)

(わたしの、今の気持ちも、きっと――)


 声には出なかった。


 田中が前を向いて歩き出した。その背中を見た。


(私には言えません)

(彼に言う権利が、まだありません)

(でも)

(書きます)

(絶対に、書きます)(書き続けます――!)


 エリュシアが帳面を開いた。


 何かを書こうとして、止まった。


 熱いものが目があふれ、それ以上言葉が出てこなかった。


 一行だけ書き、そっと、帳面を閉じた。


******


 フィオが腰の魔道銃を見た。


 それから砂地に落ちていた石を一つ拾った。


 拾って、地面に置いた。


 それは彼女にとって、拾わなくてもいい石だったが、拾い、置いた。


「……フィオ」とネネが言った。フィオの横に、いつの間にか立っていた。


「何だ」


「撃つ理由が、できたのか」


 フィオが少し間を置いた。


「できた。今日」


「そうか」とネネが言った。「我も、そういうことがあった」


「魔王にも、あるのか」


「ある」


 ネネがグラを膝の上に下ろしながら「正しくても認められない時期が、千年あった」と言った。「今も続いている」


「……千年か」


「長かった。でも本物だった」


 フィオが砂地を見た。


「……お前も、そうだったのか」


「そうだ」


 二人が並んで、しばらく砂地を見ていた。風が砂を少し動かした。


 アルスが遠くから「(ぴょん)フィオさん!!(ぴょん)今日かっこよかったです!!(ぴょん)」と叫んだ。


「跳ねるな」とフィオが言った。


「(ぴょん)すみません!!(ぴょん)でもかっこよかったです!!(ぴょん)」


 ネネが口の端を少し上げた。フィオが石を一つ拾って、アルスに向かって構えた。


「……当てるなよ、おい」とネネが言った。


「当たらない」


「わかってる」


 フィオが石を投げた。


 アルスの三メートル手前の砂地に落ちた。


「(ぴょん)惜しいです!!(ぴょん)」


「う る さ い」とフィオが少し笑いながら言った。


 でも、彼女は石を()()()()()()()()()()


挿絵(By みてみん)


******


 帰り道、田中が前を向いたまま歩いていた。


 その少し後ろを、フィオ。さらに後ろをエリュシアが歩いていた。


 三人の間隔が、行きより少しだけ狭かった。


 誰も何も言わなかった。無言の時間が続く。

 砂漠の夕方の風が、心地よく三人の間を抜けた。


 『ステータス オープン』


勇者 田中剛

LV:7 チート:無効

スキル:昭和製造法レガシー・プロダクション(習慣・技能・経験値のみ有効)


魔王 ネネ

LV:6 魔力:低下中(回復の兆し)


女神 エリュシア

神力出力:制限中(通常の1割以下)


アルス

LV:12 ※特記事項:筋力測定不能


 田中がステータスを確認した。ネネのLVが一つ上がっていた。何も言わなかった。


 ネネも確認していた。自分のLVが上がったことに気づいていた。何も言わなかった。


 その後も、黙々と砂地を歩く音だけが続いた――。


******


その頃、神界では——


「フィオさんが魔道銃を撃ちました」とカーヴェが書類を置きながら言った。「今日も一発。三万G。合計二発です」


「……理由は」とウルダが言った。


「命令じゃなく自分の意思で撃ちたかったみたいです」


 ウルダがしばらく黙っていた。


「……田中さんは」


「「節約しろ」と言いました」


 また沈黙があった。笑いをこらえていた。


「……エリュシアは」


「業務日報が届いています。今日だけ、一行です」


 カーヴェが書類を一枚出した。


『今日は書けません。以上です』


 ウルダが書類を受け取った。読んだ。置いた。


「うぷっぷ……寛大に処します」


 今日は、静かな声だった――が笑いはこらえ切れていなかった。



■神界業務日報 第76回 記録者:エリュシア


 今日は書けません。以上です。


 ――日報の用紙にはところどころ、染みが乾いた跡のように少し、皺がついていた。


■魔王の家計簿 第76回 記録者:ネネ


 本日の支出:魔道銃一発(フィオ持ち)。

 フィオが「これから先も撃つ。命令じゃなく」と言った。

 我も、千年前に同じことがあった。

 LVが一つ上がった。言わなかった。

 田中も言わなかった。

 砂漠の風は静かだった。

 以上。


■フィオの石磨き記録 第1回


 本日の石:三個磨いた。一個投げた。アルスに当たらなかった。

 本日の銃:一発撃った。命令じゃなかった。

 田中に「節約しろ」と言われた。

 それは、正しい。

 ……でも、今日だけは節約してる場合じゃなかった。

 以上。


■※おじさん解説!


 今日は「SNKさん」の話をするぞ。


 SNKとは、1978年に大阪で生まれたゲームメーカーだ。

 正式名称は「株式会社エス・エヌ・ケイ」。

 後に「SNKプレイモア」と名前を変えた。


 作った作品の質は本物だった。

 「餓狼伝説」「KOFザ・キング・オブ・ファイターズ

 「サムライスピリッツ」「メタルスラッグ」。

 どれも今でも愛されている名作ばかりだ。


 でも2001年に経営破綻した。

 資金が尽きた。続けられなくなった。

 倒れた。


 田中がフィオを「SNKさん」と呼んだのはそういう理由だ。

 「強い。でも資金不足で倒れた。最大級のリスペクトだ」と本人が言った。

 フィオが「受け取る」と言った。


 SNKは2001年に一度倒れて、2003年に復活した。

 「SNKプレイモア」として立ち上がり、今でも作品を出し続けている。

 倒れても終わりじゃなかった。


 田中的結論:「作ったものが本物なら、続く。常識だろうが」


―――――


 本日の追加ゲームネタ。


【メタルスラッグ(SNK・1996年)】

 田中がフィオを命名した理由になった作品だ。

 「フィオ・ジェルミ」という金髪の女性キャラが銃を持って戦う。

 フィオさんは黒髪ポニーテールで全然似ていないが、

 田中は「銃を持って戦う。SNKだ。フィオだ」と決めた。

 田中さんの命名基準は「雰囲気」と「昭和の記憶」でできている。

 精度については問わない方がいい。常識だろうが。


KOFザ・キング・オブ・ファイターズシリーズ(SNK・1994年〜)】

 毎年新作が出る対戦格闘ゲームだ。

 「命令じゃなく、自分で戦う」というキャラが多い。

 KOFのキャラは大抵、個人的な理由で戦っている。

 組織に命令されて動くキャラは、たいてい中盤で離反する。


 フィオさんが「命令じゃなく、俺が撃う」と言った今日は、

 KOFで言えば「チームを抜けて、自分の意志で参戦を表明した」日だ。


 田中的評価:「理由ができた。それでいい。節約はしろ」


 おじさんはKOF94からやっていた。

 草薙京が好きだった。理由はなんとなく昭和っぽい不良だったからだ。

 詳しくは言わない。

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