表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

74/92

「三万Gか」

 石はタダだ。

 だからこそ、石を置いた時の重さがわかる。

 今日だけ、彼女は石を置いた――。

 お風呂事件の翌朝、グレインが「偵察は終わった。認めてないが満足した。戻る。認めてないが――!」と言い、ゼフィーラが「現地確認は完了しました。業務に戻ります」と言い、カーヴェが「神界側で動きがあります。確認しに行きます」と言って、三人がそれぞれ砂漠の空に消えていった。


 フィルナだけが「またね!! よかった~!!バイバイ!!」と手を振り続けていた。


 田中が前を向いたまま「行くぞ」と言った。


******


 ソレイユの郊外に、小さな農村がある。


 砂漠の縁に沿って集落が点在し、地下水脈から水を引いて細々と香辛料を作っている。流通は行商人頼りで、値段の交渉力などない。田中が市場の調査がてら一度だけ通ったことがある場所だった。


 午前中、フィオからケータイに連絡が入った。


 一行での連絡だった。『村が動けない。来い』


 田中が「行く」と返す。


「ソレイユ石貨の件が尾を引いているんでっすかね〜」とトルネコが荷物を持ち直しながら言った。


「そうだな、市場の通貨両替を崩されたことへの報復だろう」と田中が言った。「S〇NYは既得権を守る。規格外を許さない。商会が直接動いてきた」


 エリュシアが内心で一行書いた。


(田中さんは昨日から知っていたのかもしれません)

(昨日の夜、地図を見ていました)

(今日のために見ていたのかもしれません)

(.......聞けません)


******


 村に着くと、入口に商会の旗が立っていた。


 ヴェルム商会の紋章だ。市場の中だけにあるはずの旗が、村の入口に二本、立っている。かたわらに見張りが四人。装備が重い。商会の用心棒というより、排除のために来た顔をしていた。


 村の中からは音がしなかった。


 田中が入口に進んだ。見張りの一人が前に出た。


「この村はヴェルム商会の管理下に入りました。部外者は立ち入り禁止です」


根拠ソースを言え」と田中が言った。


「商会の決定です」


「書類はあるか」


「……」


「書類がなければ口約束だ。口約束なんてものに根拠はない。立ち入り禁止の効力はない。以上だ。出ていけ」


 見張りが田中を見た。田中が見張りを見た。見つめ合う二人。動かなかった。


 少しの膠着状態ののち、見張りが横に動いて、後ろの三人に目配せした。


 三人が前に出てきた


「……師匠」とアルスが言った。腹筋をやめていた。珍しかった。


「やれ」と田中が言った。


******


 今や筋肉お化けとなった、勇者?アルスが前に出た。


 四人と正面から当たった。LV12だが、鍛え抜かれた体幹が砂地を踏んで、最初の一人をあっという間に弾き飛ばした。そしてポージング。

 二人目が側面から来たが、アルスが腕で受けて押し返した。またもポージング。


 三人目が魔道具を取り出したところで、田中が「アルス、下がれ」と言った。

 「まだお見せしていないポージングがあるのに......(ぴょん)」


 アルスが下がりつつ筋トレを再開すると、三人目の魔道具が光りはじめた。


 広範囲に圧力がかかった。空気が重くなる感覚だ。田中は動けないが、エリュシアの神力が一瞬反応して、また沈んだ。ネネが唇を結んだ。魔力を使えばまだ動けるが、消耗が早い。


 押し合いが続いた。


 一分ほどして、田中が「フィオはどこだ」と言った。


「……来ます」とエリュシアが言った。「少し前から、気配があります」


「そうか」


 田中が前を向いたまま、小さく頷いた。


 それだけだった。


******


 村の裏手の砂丘の上に、フィオがいた。


 ずっとそこにいたのか、田中たちが来てから来たのか、誰も確認していなかった。砂色の砂丘に溶け込むような格好で立っていて、村全体を見下ろしていた。


 右手に、石があった。


 構えた。


 届かなかった。距離がありすぎた。石が弧を描いて砂地に落ちた。


 フィオが落ちた石を見た。――少し間を置いた。


 一呼吸の後――、フィオは石を、砂丘に静かに置き、今までも一度も使ったことのない、腰の魔道銃まどうガンに手をかけた。


 引き抜く前に、フィオが村の方を一度だけ見た。視線が止まった場所がある。家の陰から顔を出している子供が一人、こちらを見ていた。フィオと目が合った。子供が引っ込んだ。フィオが前を向いた。


「……()()()()だ」と、誰にも聞こえない声でつぶやいた。


 魔道銃を引き抜いた。


******


 遠くから、光が駆けつけてきた。


 砂丘の上から、一本の光の線が走る。ソレイユの日差しの中でも視認できるほど鋭く、まっすぐで、その音は、後から追いついてきた。


 まず三人目の魔道具が、弾き飛んだ。四人目が後退した。入口の見張り二人が座り込んだ。砂が舞い、敵は全員銃の威力で服がびりびりに破れ、真っ裸にさせられた。それから静かになった。


 田中が砂丘の上を見た。フィオが銃を下ろしていた。


「今日は、石じゃなかったな」と田中が言った。


 フィオが砂丘を下りてきた。田中の前に立って、短く言った。


「今日だけあるんだ。理由が」


「そうか」


「……一発、三万Gだ」


「三万Gか」


「そうだ」


 田中が少し間を置いた。それから前を向いた。


「今日は使っていい。以上だ」


 フィオはそれに何も言わなかった。銃を腰に戻して、村の入口を見た。


 商会の見張りが全員、撤退していた。旗だけが砂地に残っていた。


 田中が旗を一本抜いた。折って、荷物袋に入れた。


「証拠になるか」とギルが言った。


「証拠になる。書類に添付して訴える」と田中が答えた。


 そして最後に一言ポツリとつぶやいた。

「今日は、節約未完了(ノンセーブ)......」


挿絵(By みてみん)


******


 村の中に入ると、住人が少しずつ顔を出した。


 田中が村長らしい老人に状況を確認し、被害の記録を取らせた。トルネコが聞き取りを補助し、ギルが書類の形式を整えた。アルスが負傷した村人の手当を手伝いながら腹筋を再開した。フィルナが泣いている子供に声をかけた。「大丈夫だよ!!よかった!!」と言いながら。


 エリュシアが少し離れたところから、フィオを見ていた。


 フィオは村の端の井戸の縁に腰かけて、石を磨いていた。いつものフィオだった。銃はまた腰にある。さっきのことは終わった、という顔をしていた。


 エリュシアが内心でまとめた。


(石投げの方が、今日は石を投げませんでした)

(石を――置きました)

(そして銃を使いました)

(「今日だけあるんだ。理由が」と言いました)

(理由は言いませんでした)

(……でも)

(その前に、一度だけ村の方を見ていました)

(誰かを見ていました)

(書けません)

(でも書けない理由が、今日だけわかった気がします)


 ネネが井戸の近くでグラを膝に乗せたまま、フィオの横に静かに座った。何も言わなかった。フィオも何も言わなかった。砂漠の風が二人の間を抜けた。


 田中が記録作業を終えて、村長に「書類は必ず保管しろ。次に来た時に使う」と言い残した。


「……また来るのか」と村長が言った。


「来る。この村の問題はまだ終わっていない。以上だ」


 村長が黙って頭を下げた。田中が前を向いた。


 帰り際、砂丘の上を一度だけ見た。石が一つ、砂の上に残っていた。フィオが置いた石だ。田中は何も言わなかった。


 歩き出した。


 帰り道、田中が歩きながらステータスを確認した。数字を見た。前と変わっていなかった。


勇者 田中剛

LV:7 チート:無効

スキル:昭和製造法レガシー・プロダクション(習慣・技能・経験値のみ有効)


魔王 ネネ

LV:5 魔力:低下中(回復中)


女神 エリュシア

神力出力:制限中(通常の1割以下)


アルス

LV:12 筋力は常人の100倍以上


 「()()()」と田中が前を向いたまま言った。

 誰に言ったのかわからなかった。たぶん誰にも言っていなかった。



******



その頃、神界では——


「ヴェルム商会の排除部隊がソレイユ郊外の農村に展開しました」とカーヴェが書類を広げながら言った。「田中さんたちが介入。フィオさんが魔道銃を初めて使用しました」


 ウルダがしばらく黙っていた。


「……魔道銃を」


「はい。一発。三万G 相当です」


「使った理由は」


「フィオさんが「今日だけあるんだ。理由が」と言ったそうです。以上です」


 また沈黙があった。


「……理由は」


「田中さんは、聞きませんでした」


「……聞かなかった」


「「今日は使っていい。以上だ」と言って終わりにしました」


 ウルダが窓の外を見た。砂漠の空の方角を、しばらく見ていた。


「……寛大にしましょう」


 今日は、静かな声だった。

■神界業務日報 第74回 記録者:エリュシア


 本日の特記事項:石投げの方が、石を投げませんでした。

 置きました。そして銃を使いました。

 理由は言いませんでした。

 でも一度だけ、村の方を見ていました。

 ……書けません。

 でも書けない理由が、今日だけわかった気がします。

 以上です。


■魔王の家計簿 第74回 記録者:ネネ


 本日の支出:なし。

 ヴェルム商会の旗:一本を田中が折った。証拠になるそうだ。

 フィオが銃を使った。石を置いた後だった。

 我は何も聞かなかった。

 フィオも何も言わなかった。

 砂漠の風は静かだった。

 以上。


■ゾルグ魔界管理日誌 第74回


 本日の報告。

 田中さんより「S〇NYの動きを警戒しろ。以上」の一言連絡あり。

 一言でした。三行より短かったです。

 悔しいです。正しいです。

 魔界:異常なし。以上。


■※おじさん解説!


 本日、フィオさんが使った魔道銃は一発三万G だ。

 1G ≒ 15円なので、三万G は約45万円だ。


 45万円のパンチだ。


 普通は撃てない。撃てば財布が死ぬ。

 フィオさんが石を投げ続けているのはそういう理由だ。

 石はタダ。財布が死なない。正しい判断だ。


 参考までに昭和のゲームで一番弾代がかかったのは:

 スペースインベーダーやギャラクシアンのレーザー砲だ。

 百円玉を入れて撃ちまくる。

 一ゲーム100円・十分で終わると600円/時間。

 昭和の子供には高かった。


 でもゲームセンターで100円の射的をやるよりは安かった気もする。


 フィオさんの石はタダだ。

 それが一番強い経済学だ。

 田中的結論:「弾代はコストだ。石はタダだ。常識だろうが」


 ただし今日は使ってよかった。

 理由がある時は使え。以上だ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
読んでいただきありがとうございます。感想・評価・レビューお願いします!励みになります
少しでも気になっていただけたら、作品ページものぞいていただけると嬉しいです。

小説家になろう 勝手にランキング
ギルド酒場るすと公式サイト

異世界ゲームバー転生おじさん(42)
影森ゆらは今日も死ぬ
異世界Any%
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ