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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「ゾルグ、使えるな(三回目)」

 反乱が収束した翌朝。魔界第一管理棟の前に、ゾルグが立っていた。

 台帳を三冊抱えて、田中を待っていると、本人がやってきた。


「田中さん!!昨日の反乱収束後の資産台帳、支出管理帳、修繕予定表の三冊が出来上がっております!分類は田中さんに教わった方式で行いました!!」


 田中が三冊を受け取った。ぱらぱらとめくった。――止まった。また次をめくった。十秒で全部を見終えた


「ふむ……使()()()()


「!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


 ゾルグがその場で固まった。


(……三回目)(ま、また言われた)(三回目です)(三回目)(三回目ですよ田中さんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!!)


 目が、光り始めていた。感情がこみあげていた。


「......泣くな」と田中が言った。


「泣いてません!!!!」


「目が光ってる」


「光っているだけです!!!!」


 やれやれ、と田中が台帳を腕に抱えたまま歩き出した。「南区画の水路が優先だ。修繕費はゼフィーラに投げろ」


「はい!!」ゾルグが走りながら帳面を出してメモした。


(……三回目でした)(まだよくわかりません)(でも三冊にまとめました)(それだけは確かです)


 ゾルグのメモには「水路→ゼフィーラ優先」と書いてあった。隅のほうに小さくメモ書きで「()()()」とも書いてあった。


******


 管理棟の裏では、アルスが魔族たちに取り囲まれていた。

 といっても別に絡まれてるわけではない。

 昨日の筋肉パフォーマンスの余波が朝になっても収まっていなかったのだ。


「おいニンゲン!どうやって鍛えるんだ!!」「おいらも腕に山を生やしたい!!」「腕に二つ山が欲しい!!峰が欲しい!!」「俺にも教えてくれ!!」


 アルス「いいですか。まず毎朝五時から腹筋一万回です!!」


 魔族たちがどよめいた。「一万!?」「毎朝!?」「朝から!?」「五時!?」


「慣れます!!そして食事が重要です!!」


 アルスが腰の袋から小さな袋を取り出した。青緑色の粉が入っている。


「師匠が作った筋力粉(プロテイン)です!!一回あたり三十グラム、水に溶かして飲む魔法の粉です!!筋肉の回復が速くなります!!積み上げた数字だけが本物になります!!」「お酒とか、牛乳で割ったらだめですよ!効果がなくなります」


筋力粉プロテイン!!」「飲むのか!!」「俺も欲しい!!」「いくらだ!!」「うまいのかそれは!!」


 横から声がした。

「魔族のみなはん。ちょっと待っておくんなはれや」


 トルネコが懐から算盤(そろばん)を取り出した。「まず体重を教えてもらえまっか。魔族のみなさん、人間より大きいですよね。一回三十グラムていうのは人間基準でっせ。体重に合わせた量がいりますんで」


「体重?」「俺は二百キロあるぞ」


「はい!!二百キロでしたら体重の0.3パーセント!!一回六十グラム必要ですわ!!」算盤をはじく。パチパチパチ。「一袋三百グラム入りで五回分ですな。一袋30Gでっせ!!」


「安い!!」


「俺は三百キロだ」


「三百キロ!!」パチパチパチパチ。「一回九十グラム必要ですわ!!一袋三回分!!二袋で45G!!」


「俺は百五十キロだ」「百二十キロ」「二百五十キロある」「五百キロある!!」「五百!!」パチパチパチパチパチパチ。「五百キロ!!一回百五十グラム!!一袋二回分!!四袋で60G!!」


「俺も!!」「俺も並ぶ!!」「五百キロの人間がいる!!」「人間じゃなくて魔族だろ」「それはそうだ!!」「並べ!!」


 気づくと、管理棟の裏に行列ができていた。トルネコが算盤を弾き続けた。「はいはい、ならんでならんで!!順番に!!体重を教えてもらったら算出しますよ!!」


「一体……何の行列だ」


 ゼフィーラが通りかかって、足を止めた。


筋力粉(プロテイン)でっせゼフィーラ様。魔界軍の強化に一役買えます。これは()()()()()()()()ですわ!!」


 ゼフィーラが一秒、行列を見た。次にアルスを見た。アルスが両腕を広げてポーズを取っていた。「これが正義の”山”です!!」

 アルスがポーズをとるたびに、魔族から黄色い声が起こっていた。


「……」


 ゼフィーラが静かにその場を離れた。何も言わなかった。


「あとでランニング100㎞も忘れるな」と田中が言った。


「はい!!」アルスが腕立てを始めた。「イチ!!ニ!!サン!!」


 行列の先頭の魔族が「……腕立てしながらも山が動いてる」「見てていいか?」「見て学んでください!それが目標です!!」アルスの声だけが響いた。行列が少し伸びた。


挿絵(By みてみん)


******


 確認作業の最中に、エリュシアが書類を一枚差し出した。田中が受け取ってめくった。


「エリ、この欄が一段ずれてる。作り直せ」


「……はい」


 受け取って確認した。確かにずれていた。


(……気づいていましたが……)(なぜか直すのが遅れました)(遅れました)(遅れたのはなぜですか)(書けません)(よかったです)


「あの田中さん、エリュシアさん最近なんか変じゃありまへん?」トルネコが戻ってきながら言った。算盤を拭きながら。「なんか……うっすら機嫌がよくて」


「変ではありません!!」


 大きな声が出た。


 全員が振り返った。


 エリュシアが口を押さえた。


(はっ......声が出ました)(外に出ちゃいました)(なぜ出たのですか)


「......どうした」とネネが言った。


「な、何でもありません......」


「いや、今『変ではありません』て声に出とったぞお前」


「......」


「珍しかった。記録する」とネネ。


「記録とか、しないでください!!」


 また声が出た。エリュシアが再び口を押さえた。


(......二回出ました)


 ネネが腕を組んで、エリュシアをじっと見た。「……おまえ最近、やっぱ変だぞ」


「変ではありません」


「田中に影響されすぎていないか」


 エリュシアが止まった。


「田中さんの影響は、ありません!!……ありません!!……」


 少し間があった。


「.........ない、と思います」


 ネネが「そうか」と言った。それ以上は言わなかった。


 エリュシアが速足で立ち去った。


(......影響はありません)(ありません)(田中さんの普段のお言葉が頭に入ってきているだけです)(それは影響とは言いません)(言いません)


(......言いませんよね?)


(......書けません)


 ネネがその背中を見送って、グレインに言った。「最近、声に出るようになった」


「なんかな〜。ちょっとずつ外に出てきちゃってるよな~」とグレインが腕を組んだ。「いいことだと思うけど、本人が認めてない」


「うむ。我も認めていない」


「魔王様も、女神も、同類《仲間》じゃん」


「そうか」


 二人が黙った。


******


 夕方、ギルが第三管理棟の前に立っていた。壁を眺めて腕を組んでいた。


「……この建材、重量過多だ。三割削れる。動線も悪い。見栄えだけの柱が多い。以上だ」


 ゼフィーラが横で書類を持ったまま止まっていた。一秒後に言った。「……聞きます」


 田中がその横を通り過ぎた。ギルの背中を一秒見た。帳面に何かさらりと書いた。それだけで行った。


 エリュシアが見ていた。


(……見ていました)(書きました)(聞かなくていいと思いました)(書きました)(記録します)


******


**その頃、神界では――**


 ウルダに報告書が届いた。


「本日の魔界状況報告。反乱完全収束。南区画水路、修繕手配済み。なお、魔界軍の一部が早朝より腹筋を開始しています。現在、参加者は七十二名。目標は腹筋二百回とのことです。また筋力粉(プロテイン)の行列が発生し、第一管理棟裏に長蛇の列が形成されています」


 ウルダが書類を持ったまま止まった。


「……七十二名が」


「はい。腹筋中です」


「魔界の軍が、朝から」


「はい」


「ぷ……筋力粉(プロテイン)の行列も」


「はい。体重別の計算に時間がかかっているとのことです。一名あたりの計算に算盤が必要とのことです」


 ウルダが長い間、動かなかった。


「プ……寛大に、見守ります」


「寛大です」


 部下が小声で言った。「今日は『プ』が出るのが早かったです」「早かったですね、無理でしょうこれは」「腹筋七十二名でしたね」「う、七十二名です」「算盤が必要な行列でした」「必要でした」「……寛大です」「寛大です」


※おじさん解説!


 プロテインというのは昭和の筋肉オヤジたちが溺愛していた粉だ。牛乳や水に溶かして飲む。筋肉の合成と回復に必要なタンパク質を一気に補給できる。昭和のスポーツ少年は缶入りのプロテインを毎日飲んでいた。ただし当時のものは今より格段に溶けにくく、泡立ちが多く、味も独特だった。それでも「飲めば強くなる」と信じて飲んでいた。信念だ。


 体重の0.3パーセント、というのは田中が工場の先輩から聞いた話だ。「体重一キロにつきタンパク質一グラムが目安」という話が原型で、田中が換算して数字にした。魔界の魔族は人間より大きいので当然必要量も増える。昭和の工場式計算は魔界でも通用する。これも常識だろうが。


******


**ゾルグ魔界管理日誌 第十七回**


 田中さんに「使えるな」と言われました。三回目です。


 初回:奪還計画を諦めた日。二回目:田中さんが魔界に来てくださった日。三回目:台帳を三冊にまとめた日。


 なぜこれが積み上がるのかわかりません。


 でもまとめました。それだけは確かです。


 以上です。


******


**アルス修行日誌 第五十三回**


 筋力粉(プロテイン)の行列ができました。魔界の方々は体が大きいので計算が大変でした。トルネコさんが算盤を弾き続けていました。


 魔族のみなさんが腹筋二百回を目標にしています。一万回への道は遠い。でも始まりました。


 師匠が「値付けはトルネコに任せろ」と言いました。正しいと思います。私は材料費の概念がありません。


*****:


**神界業務日報 第六十七回(後記)**


 本日の特記事項。


 書類の欄が一段ずれていました。田中さんに指摘されました。直しました。


 声が出ました。二回、出ました。ネネ様に「田中に影響されすぎていないか」と言われました。


 影響はありません。


 田中さんの常日頃のお言葉が自然と頭に入ってきているだけです。それは影響とは言いません。


 ……言いませんよね?


 書けません。以上です。


【現在のステータス】


勇者 田中剛 LV:6 チート:無効

魔王 ネネ  LV:4 魔力:低下中(微回復の兆しあり)

女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)

アルス LV:12

 筋力粉(プロテイン)行列:魔界第一管理棟裏・算盤そろばん必須

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