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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「削れる、全部削れる」

 今回は魔界の反乱鎮圧です。田中が動きます。

 根拠を聞きます。ない。以上です。

 それが田中クオリティです。常識だろうが。


 魔界の南区画の反乱分子たちが(とりで)に立てこもっていた。数はおよそ百名。フィルナの言う通り、半数は「()()()()()()()()()()()()」な層だ。


 田中がその砦の正面に立った。アルスが横に並んだ。上半身裸のままだ。グラが田中の肩の上で「グゥ~~~」と鳴いた。


 砦の上から声が飛んできた。


「――人間が!!なぜ人間が来るのだ!!」


節約(せっやく)するためだ」


「は?……節約?」


「説得と戦闘では費用コストが違う。まず話す。常識だろうが」


 砦の上がざわついた。


「費用ってなんだ?」「魔王さまもおられるぞ」「人間と魔王様が一緒にいる」「魔王さまは我々を裏切った!」


******


 フィルナがは~い、と手を挙げた。

「あのね、説得できそうな人、フィルナ呼んできていいかな〜」


ゼフィーラ「……第三席次、今は——」


「でも半分は話せばわかる人だよ〜? 無駄に戦うより早いよ〜削れ(コストカット)、でしょぉ~」


 田中がフィルナを見た。一秒考えた。


()()


「は~い!!」元気な返事だった。


 フィルナが砦の正面門に向かってとてとて歩き出した。ゼフィーラが「……」と固まった。グレインが「(あいつを止める気力がない)(それよりこの判断が)」と整理していた。


 三十分後。フィルナが三十四名を連れて戻ってきた。


「田中さん!!三十四人来てくれたよ〜!!あと三人はまだ怖いって言ってたけど、明日には来ると思う〜!!」


 連れてきた三十四名が、おずおずと後ろに並んでいた。「……本当に田中って人がいる」「人間だ」「上半身裸の人間もいる」「あのLV表示が消えてる人か」「怖い」「でもフィルナさんが大丈夫って言ってた」どよめきが静かに広がった。


 田中が三十四名を一秒眺めた。「困っているなら言え。削れるものは削る」それだけ言って帳面を出した。


 三十四名が黙った。それから、一人が手を挙げた。「……徴収(ちょうしゅう)された税が多くて」「書いた。次」また一人。「南区画の水路(すいろ)が壊れていて」「書いた。ゾルグ、把握しているか」「把握しています!!」「修繕費を計上しろ」「はい!!」


 田中が頷いた。「フィルナ、よくやった」


「えへへ」フィルナが笑った。 


 ゾルグが「(フィルナ様が……)(三十分……)(ずっと言ってた)」とメモした。

 グレインは腕を組んだまま「(一度も聞かなかった)(俺も含めて)」と目を閉じた。

 最後にゼフィーラが「……以後、第三席次の報告を月次に組み込みます」と静かに言った。フィルナが「ほんとぉ~!!わぁい」と跳ねて喜んだ。


******


 砦に残ったのは強硬派の六十数名だった。その中心に、首謀者が立っていた。


「魔王様は我らを捨てた!!千年君臨されたのに、今さら人間と旅をするなど!!我々を見捨てたも同然だ!!言語道断!!」


 田中が前に出た。


「で、根拠ソースはあるか」


「……何?」


「魔王がお前らを捨てた、という根拠だ。三行で言え。はい、いえ。今すぐ言え」


 首謀者の魔族が固まった。「えっ.....、根拠……そんなもの、いちいち——」


「なら、『ない』、ということだ」田中が続けた。「ネネは仕事をしている。今も、ここまで来ただろ?以上。解散!!」パン!と手を叩く。


「だが魔王が不在では——」


「仕事で出張(しゅっちょう)している上司に向かって『お前は俺たちを捨てた』と言うのか。根拠なしで?お前らのために仕事してるのにだぞ?」


 シーン。静かになった。


「……出張(しゅっちょう)......」と誰かが繰り返した。


「そうだ。で、出張から一時的に戻ってきた。以上。解散!」


 首謀者が言葉を詰まらせた。周りの強硬派たちもざわざわし始めた。


 その時――、アルスが一歩前に出た。上半身裸で、腕を組んだ。


「師匠の言う通りです。根拠のない糾弾(きゅうだん)は、無駄です!!」


 それから大きく息を吸った。「そして――筋肉マッスルは、嘘をつきません!!積み上げた事実だけが残ります!!パーフェクトマッスルボディへの道と同じです!!」


「黙れ。黙ってやれ」


「はい!!」


 アルスがその場で腕立てを始めた。「イチ!!ニ!!サン!!」


 LV表示が消えている人間が、砦の前で腕立てをしている。強硬派がざわついた。「……何をしている」「わからない」「なぜ裸なんだ」「鍛えているのか」


 アルスが立ち上がった。両腕を広げ、力を込めた。筋肉がぴくん、ぴくんと動いた。


「おお~~~~……」


 砦の上から魔族たちの感嘆の声が漏れた。それから、ぽつぽつとガヤが飛び始めた。


「肉が……(かがや)いてる」「筋肉が光ってるぞ!」「あれは何という(きた)え方なんだ」「LVが消えているのに筋肉は本物だ!!」「人間でもここまでになれるのか!!」「すごい!!」「俺もやりたい!!」


 アルスが両腕を上げてポーズを変えた。


「おおおっ!!」「山だ!!山が二つある!!」「腕に山が生えた!!」「峰が二つ!!」「雪がないだけの山だ!!」「山岳信仰の対象になれる!!」


「師匠!!褒められています!!」とアルスが振り返った。


「うるさい。殴るぞ」 


 ごつん☆


 田中がアルスの頭に昭和の怒りオヤジゲンコツを落とした。鈍い音がした。


「ぐっ!!あいたたたた」


 アルスが頭を押さえてその場に(うずくま)り、静かに腕立てを再開した。「イチ……ニ……サン……」


 砦の上が静かになった。ガヤも小さくなった。「……また腕立てしてる」「さっきより静かだ」「怒られたのか」「山が萎んでしまった」「萎んでないぞよく見ろ」「本当だ萎んでない」「腕立てしながら山が動いている」「……すごいな」「うん……すごかった」


 田中が前を向いた。「論外(アウト)だ。アルス退け。次の話をする」


 筋肉パフォーマンスは続く――。


挿絵(By みてみん)


******


 その頃、ネネは少し離れた場所から見ていた。


 田中が首謀者の前に立って、淡々と正論を並べている。「魔王は仕事をしている」という一言を、証拠もなしに言い放った。


 (……理解ってくれておったのか)(我が何をしていたのか)(さすが田中じゃ.....)


 グレインがネネの横に立った。何も言わなかった。二人で、田中の背中を見ていた。


ネネ「……我は、魔王をやれていたのだろうか」


グレイン「もちろんだよ~!ずっとやってくれてるよ!」


「根拠は」


「田中さんがネネちゃんを見てた。以上!だよぉ~!」


 トクン――。魔王の心臓が少し跳ねる。


 ネネが少しの間、黙った。(……そうか田中が)(千年、動じなかった我だが)(なぜかそれが、少し、嬉しい)


******


 反乱は、夜明けまでに収束した。戦闘はほぼなかった。説得が先で、残りは田中の「根拠がない。退け」で終わった。もちろん費用はゼロだ。

 あと、アルスが筋トレパフォーマンスをしては、魔族たちの興味を惹きつけ、うるさくなってくると、田中に殴られるくだりが5回ほどあった。それも反乱が無事に収まった原因だろう。


 田中が帳面に書き込みながら言った。「損害は」


ゾルグ「南区画の窓ガラスが四枚割れました」


「修繕費を計上しろ」


「はい!!」


トルネコ「……田中さん、魔界に来て帳面つけてますわ」


「どこでも同じだ。常識だろうが」


 グラが「グゥ?」と鳴いた。田中の帳面の端に乗って、一緒に覗き込んでいた。


 田中が確認すると、魔界の帳簿は、無駄に分厚かった。

 装飾が凝っており、中身がなく、ただ、分厚いだけだった。


 田中は一枚目を見た。

 二枚目を見た。

 三枚目で、眉間にしわが寄った。


「……削れるな」


 ゼフィーラの背筋が伸びる。


「どの項目でしょうか」


「全部だ」


 広間が静まり返った。


 蝋燭。

 黒煙。

 威圧用雷鳴装置。

 玉座の後ろで常に鳴っている低音魔法。

 魔王様登場用の赤い絨毯交換費。

 四天王入場時の風演出。


 田中の赤ペンが、止まらなかった。


「これは威厳です」


「見栄だ」


「これは伝統です」


「固定費だ」


「これは魔王城としての格式で――」


「赤字の原因だ」


 ゼフィーラが黙った。


 帳簿の半分が、赤くなっていた。


「魔界維持費、一次削減完了。節約完了(セーブコンプリート)だ」


 ゾルグはひたすら泣いた。

 グレインはなるほどね(わかってない)、と言いながら笑った。

 フィルナはよかったねぇと拍手した。

 ゼフィーラは、認めていない顔で(うなづ)いた。


**その頃、神界では――**


 ウルダに報告が届いた。「南区画反乱、鎮圧。交渉:田中剛。戦闘:ほぼなし。費用:窓ガラス四枚」


「……窓ガラス四枚」


「はい。田中剛が費用を計上したとのことです」


「……魔界の反乱の費用が、窓ガラス四枚」


「はい」


 ウルダが長い間、書類を持ったまま動かなかった。


「プ……寛大に、見守ります」


「寛大です主神よ」


 部下が小声で「(ぼそ)たった、窓ガラス四枚でしたね」「四枚です」「やはり田中剛です」「田中剛でしたね」「……寛大ですね」「寛大です」



**※おじさん解説!**


 昭和の会社にはストライキというものがあった。労働者が「給料を上げろ」「残業を減らせ」と訴えて仕事を止める運動だ。毎年春に「春(とう)」と呼ばれる交渉が行われて、労働組合と会社が(にら)み合いをした。田中の工場でも春闘の張り紙が毎年貼ってあった。「要求:月給二万円アップ」「回答:五千円」「再交渉」という流れが毎年繰り返された。


 根拠のない要求には、根拠のある反論が一番効く。これは昭和の春闘でも魔界の反乱でも同じだ。ゲームで言えばドラゴンクエストに「ゆうしゃよ しんでしまうとは なさけない」という台詞がある。あれも根拠がない。死んだのは事実だが「なさけない」の根拠がない。田中なら「論拠を示せ。以上」で終わらせる。常識だろうが。


******


**ゾルグ魔界管理日誌 第十六回**


 反乱が収束しました。費用:窓ガラス四枚。田中さんが「根拠はあるか」で全部終わらせました。フィルナ様が三十四名を三十分で連れてきました。


 ずっと言っていたのに、私は一度も聞きませんでした。申し訳ありません。


 以上です。


******


**魔王の家計簿 第六十六回**


 反乱の費用:窓ガラス四枚。支出:修繕費のみ。


 田中が「魔王は仕事をしている」と言った。根拠もなく言い放った。我が聞いていた。


 我は魔王をやっている。今日、それがわかった。


 ……千年かかった。遅すぎる。でも、わかった。記録する。


******


**神界業務日報 第六十六回**


 本日の業務:魔界反乱対応。田中さんが「根拠はあるか」で鎮圧しました。費用:窓ガラス四枚。


 フィルナ様が三十分で三十四名を説得しました。ずっと正しかったようです。記録します。


 ネネ様の表情が、少し変わりました。書けません。書きます。


 以上です。


【現在のステータス】


勇者 田中剛 LV:6 チート:無効

魔王 ネネ  LV:4 魔力:低下中(微回復の兆しあり)

女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)

アルス LV:12

 筋肉量:LV基準値の347%超過/強硬派が後退した実績あり

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