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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「我は魔王をやっている」

 今回は魔界です。四天王と合流します。

 ゾルグが泣きます。グレインが認めません。

 それが田中クオリティです。常識だろうが。


 魔界の玄関口(げんかんぐち)は、思ったよりも普通だった。


 硫黄(いおう)(にお)いがする。岩がごつごつしている。空が赤い。それだけだ。


「……思ったより普通だ」とギルが言った。


「魔界に普通という基準があるのか」とフィオが言った。


「ない。言いたかっただけだ」


「(正直な人だ)」


 田中はすでに先を歩いていた。グラが肩の上で「グゥ」と鳴いた。赤い空を見上げて、また田中の肩に戻った。


 アルスが上半身裸のまま後ろからついてくる。三着目の上着も途中で破れた。「師匠、寒くないですか」とアルスが自分に向けて言った。

「暑い」


エリュシア内心メモ

(暑さは筋肉熱だと思われます)

(神界書類様式:未対応)


******


「田中さあああああああああああああああああああああああああああああん!!!!うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおネネさまああああああああ」


 ゾルグが走ってきた。目が赤かった。どう見ても泣きまくっていた顔だ。

「とうとう来てくれました!!来てくれると思っていました!!でも本当に来てくれるとは!!」


「三行で言え」


「来てくれた・嬉しい・泣いてよいですか。以上(三行)」


「泣くな。無駄だ」


「はい!!」ゾルグがブワっと泣いた。


 エリュシアが内心でメモした。

(田中さんが来るとゾルグさんが泣く)

(泣くなと言われて泣く)

(一秒の反応でした)


 ゾルグの後ろから、グレインが歩いてきた。腕を組んでいた。田中を見て、目を細めた。


「……来たのか」


「来た。状況を言え」


「報告なら書類を——」


「三行で」


 グレインが一瞬止まった。三行。また三行か。この男は三行しか聞かない。


「反乱・南区画に集結・今夜が(やま)だ。以上」


「そうか」田中が頷いた。「よくやった」


 グレインが止まって震えている。

(よくやった)

(……この男が言った)

(認めてない)

(でも聞こえた)

(み、認めないぞ!)

(言わない)

(言わないが聞こえた)

(う、うれしくなんかない!!俺のバカ!)


 必死で絞り出した言葉はやはり精一杯の

「……認めてないからな」だった。


「構わん。よくやった」


 グレインがまた止まった。顔が少し赤い。

 二回言った。この男は二回言った。


 ゾルグがまた泣いた。グレインがゾルグを一瞥した。

「泣くな」「はい!!」やっぱりゾルグは泣いた。


******


「ネネちゃん~~!!!!」


 フィルナが走ってきた。ネネに抱きついた。ネネが「(こいつは毎回)」と内心で整理しながら、背中をぽんぽんした。


「フィルナ。手は放せ」


「でもネネちゃんが来てくれたから嬉しくて!!あのね!!南区画の反乱分子のうち三十七名は実は困っているだけで説得可能なんだよ!!あとね!!田中さん来てたんだね!!あとあと——」


「一回で全部言うな」とゼフィーラが静かに言った。

「第三席次」

「はーい」フィルナが大人しくなった。


 ゼフィーラが一歩前に出て、ネネの前で膝を折った。「ネネ様。ご無事で」


「……ゼフィーラ」ネネが少し止まった。「苦労をかけた」


「いいえ。魔王様の不在をおぎなうのが四天王の役目です」ゼフィーラが立ち上がった。目が少し赤かった。「……ただ、次は、もう少し早くお知らせください」


「……わかった」


 田中がその横を通り過ぎながら「ゼフィーラ」と言った。


「田中殿」

「よくやった」


 ゼフィーラも一秒止まって少しほほを染める。


「……ありがとうございます」声が少し低かった。


 それを見たゾルグがまた泣いた。


 ゼフィーラが田中を見た。「ご足労をおかけします、田中殿。現状は——」


「ゾルグ経由で聞いた。三行把握済みだ」


「さすが……早急(そうきゅう)ですね」ゼフィーラが少し目を細めた。

「南区画です。()()()()とのことで」


「フィルナが言っていたことはどこまで本当だ?」


 全員が一斉にフィルナを見た。


 フィルナが「え?えーと、本当だよ?説得できる人と戦わないといけない人が半々くらいで」と言った。


 「全部正確だ」とゼフィーラが言った。


 「なんで今まで報告しなかったんですか」とゾルグが言った。

 「聞かれなかったから〜」


 田中が頷いた。「情報は常に聞け。無駄が省ける。削れ(コストカット)


「はーい」とフィルナ。

ゾルグが「(第一席次が言ってもきかないのに)(田中さんが言ったら一秒で)」と整理した。


 ゼフィーラ「……覚えておきます」


 ギルが静かに全員を眺めていた。

(魔界の幹部が全員いる)(なぜ俺がここにいるんだ)(貴族として想定外すぎる)(でも情報が正確だった)(フィルナという人は何者だ――)


挿絵(By みてみん)


******


 合流後、ひとしきり状況確認が終わった頃、アルスの上半身裸が魔界の住民の目に留まった。


 近くにいた魔族「……あれは何だ」

 別の魔族「人間らしい」

「あの筋肉(きんにく)は何だ」

「人間にそんな筋肉があるのか」

「LVはいくつだ」「LV表示が……消えている?」「筋肉量がLVを超えているらしい」「そんなことがあるのか!?」


 アルスが気づいた。「師匠!!見られています!!」


「裸だからだ」


「やはり上着を!!」


「破れる。無駄だ」


「師匠ォォォォ!!!!」

 ――アルスの絶叫を田中は完全に無視した。


 同時に、トルネコが少し離れたところで魔族に話しかけていた。

「そこのイケてる魔族のお兄はん!!筋肉に興味おますか〜!!

 昭和工廠社の筋力粉(プロテイン)、今なら——」


「おいトルネコ」

「はいな」「今は売るな」

「……わかりましたわ〜(帳面を閉じる)」

 だが、魔族はすでに財布を取り出していた――。


**その頃、神界では――**


 ウルダが報告を受けていた。「田中剛、魔界に到着。四天王と合流。アルス、上半身裸で魔界に入ったとのことです」


「……上半身裸で」


「はい。上着が三着破れたとのことです」


「……三着」


「はい。布代を計上するそうです」


 ウルダが目を閉じた。「……寛大に、見守ります」「寛大です」


 部下が小声で「上半身裸に対しても寛大でした」「主神の器は広い」「広いですね」「今日もお疲れ様です」「お疲れ様です」


**※おじさん解説!**


 魔界というのは昭和のゲームにもよく出てくる。ドラゴンクエストには魔王城(まおうじょう)があるし、ファイナルファンタジーには闇の世界があるし、悪魔城ドラキュラには……まあ全部が魔界みたいなものだ。どれも共通しているのは「行けば何とかなる」という設計だ。昭和のゲームは根性と節約(セーブポイントまで粘ること)が基本だ。常識だろうが。


******


**ゾルグ魔界管理日誌 第十五回**


 田中さんが来ました。「よくやった」と言われました。ゾルグ・奪還日誌から管理日誌に改名して以来、一番嬉しい日でした。泣くなと言われましたが泣きました。以上です。


******


**魔王の家計簿 第六十五回**

 

 本日の支出:移動費・0G。

 魔界に戻った。ゾルグが泣いていた。グレインが腕を組んでいた。フィルナが飛びついてきた。ゼフィーラが、膝を折った。

 ……この感じ、久しぶりだった。


 田中が「よくやった」と言って回った。四天王が、それぞれ少し違う顔をした。我は少し離れたところから見ていた。この男がいると、何かが変わる。うまく言葉にできない。千年生きてきて、言葉にできないことがまだあるとは思わなかった。


 支出:0G。だが、何か得たような気がする。記録する方法が、まだわからない。


******


**フィルナのおたより 第四回**


 ネネちゃんが帰って来たよ!!田中さんも来たよ!!アルスさんが裸で来たよ!!すごかった!!でもね、フィルナはもっとすごいと思っていることがあって、田中さんが「情報は常に聞け」って言ってくれたの。


 ゼフィーラさんに何回言っても怒られたやつなのに、田中さんが言ったら全員が「そうですね」ってなって、なんかうれしかった。


 理由はわかんないけど、うれしかった。またおたより書くねぇ~


******


**神界業務日報 第六十五回**


 本日の業務:魔界。合流完了。四天王、現状維持中。


 アルス様の上着が三着目まで消費されました。被服費を計上します。「筋肉は削れない」という新たな制約事項を確認しました。書類様式:更新予定。


 田中さんが「よくやった」を二回言いました。ゼフィーラ様、グレイン様の表情が少し変わりました。記録します。


 以上です。


【現在のステータス】


勇者 田中剛 LV:6 チート:無効

魔王 ネネ  LV:4 魔力:低下中

女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)

アルス LV:12

 筋肉量:LV基準値の347%超過/鎧:入らない/上着:三着消費済み

 ※魔界住民から「LV表示が消えている人間」として認識されました

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