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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「魔界(と筋肉)がやばいことになっています」

 ゾルグが三行報告に成功し、田中たちが魔界に向かいます。

 一方筋肉も悲鳴をあげつつあるようです。

 それが田中クオリティです。常識だろうが。

 夜明けより早い時間に、この男は起きる。毎朝同じ時刻。誰にも言わない。誰も聞かない。それが、このおじさんのやり方――。


 ネネが目を開けたとき、隣の毛布が空だった。


 宿の外に出ると、空はまだ暗い。石畳の先、丘の向こうにダンジョンの浅層入口(いりぐち)が見えた。そこに見覚えのある誰かが入っていった。ネネは何も言わず、そのまま人影の後ろを歩き出した。


 浅層の一階。松明(たいまつ)もない中、田中が壁際のスライムを一体ずつ仕留めていた。短刀一本。最短の動作。無駄がない。


 (......やはり田中は、できる男だ)


 ネネが隣に並んだが、田中は振り返らなかった。「邪魔だ」とも言わなかった。ネネも何も言わなかった。ただ反対側のスライムに向かって歩き出した。


 グラが、どこからか付いてきていた。肩の上で「グゥ」と鳴いた。


 田中は前を向いたまま「邪魔だ」と言った。

 グラが悲しそうに「グゥゥ...」と鳴いた。

 田中が短刀で次のスライムを仕留めた。

 「グラァ!」グラが得意そうに鳴いた。それだけだった。


 二人と一匹で、浅層を黙々と一周した。時折鳴くグラの声以外、

 会話は、なかった。


 宿に戻ったのは夜明け前だった。宿の入口で、ちょうどフィオが情報収集《石投げ》から帰ってきたところだった。


 田中が汗をかいていた。ネネも汗をかいていた。グラが肩の上で「グゥ」と鳴いた。


「……何してた」とフィオが聞いた。


()()()()()」と田中が言った。


「(二人と翼竜で散歩か)(なぜ汗をかいている)(聞くな、という顔だ)」フィオは何も言わなかった。


 朝飯の席で、アルスがフィオから話を聞いた。「……師匠とネネさんが、汗をかいて帰ってきた?」「散歩と言っていたが」

(散歩で滝汗が)(何をやっていたんですか)(聞けない)


「師匠、朝から何を——」


「いいから飯を食え」


「は、はい!!」


 怒られた。アルスは筋トレしながら箸を取って食事をかきこんだ。

(なぜか怒られた)(なぜ嬉しいのか、うおお筋トレが足りない!!)


 エリュシアは内心でメモしてた。

(田中さんに叱られています)

(うらやまし、いいえ......)

(書きます)


******


「ところで師匠!!(よろい)が入りません!!」


 出発の支度をしていたアルスが、胸当てを両手で持ったまま立っていた。どう考えても入らない。肩回りも限界だった。


「……育ったな」


「育ちました!!でも遠征中に装備が入らないのは困ります!!」


削れ(コストカット)。裸でいい」


「裸で冒険に行くんですか!!」


「布代の節約だ」


 アルスが完全に固まった。田中はもう帳面を見ていた。


 エリュシアが内心で記録した。

(どうみても、筋肉量がLVを超えています)(神界にそういう書類様式はありません)(書類様式の新設を検討します)


「トルネコさん、上着持ってますか」とアルスが隣を向いた。


「ありまっせ〜」トルネコが荷物から一枚取り出した。「入るかはわかりまへんけど〜」


 アルスが袖を通した。一瞬でぴりっ、と音がした。


「……破れました」


「布代がかかった。損だ」


「師匠のせいでは」


「育ちすぎだ。削れ(コストカット)


「何を削るんですか!!筋肉は削れません!!」


 トルネコが横でそっと別の上着を出した。「……二着目でっせ」エリュシアが内心でメモした。

(在庫二着目まで来ました)(記録します)


 ギルが静かに目を閉じた。(冒険に出ることより鎧とコストの話が長い)(なぜだ)(もう聞かない)


 アルスが二着目に袖を通した。


 ぴりっ。


「……また破れました」


「損失が重なった」と田中が言った。


「師匠のせいではないですか!!裸でいいと言ったのは師匠ではないですか!!」


「育ちすぎだ。計画性プランがない」


「育てたのは師匠です!!腕立て千回・腹筋一万回を命じたのは師匠です!!」


 田中が帳面から顔を上げた。アルスを一秒見た。また帳面を見た。


「……三着目はあるか」とトルネコに聞いた。


「ありまっせ、でも在庫がそろそろ——」


「計上しろ。アルスの被服費だ」


「師匠ぉぉぉぉぉ!!」アルスはみっともなく号泣した。


「先行投資だ。育てた分の請求書は後でいい」


 アルスが止まった。(先行投資)(……師匠が育てたと言いました)(今、そう言いました)(言いましたよね)(聞けません)(聞けませんが聞こえました)(涙が、泊りません)


 ギルが静かにそっと目を開けた。(……言った)(今の)(その流れで先行投資か)(この人は)(やっぱりすごい)


******


 荷物がだいたいまとまったとき、田中の腰の小袋が小さく震えた。魔導糸電話(まどうてれふぉん)の着信だ。


「ブブッ」


「田中さん!!魔界が!!反乱が!!ネネ様の名前を使った組織が!!現在進行形で!!」


「三行以内」


 短い沈黙があった。ゾルグが息を整えている音がした。


「反乱・組織化・ネネ様の名前を使っている。以上(三行)」


「……よし、行く」


 ブツッ、と通話が切れた。


 部屋が静かになった。


「……行く、と言ったのか」とネネが呟いた。声が、少し低かった。


「そうだ。お前の魔界だろうが。砂漠は後だ。行くぞ」と田中がすでに荷物を手にしながら言った。


「後悔するなよ」

「しない。無駄だ」


 ネネがその背中を一秒見た。(……来る、と言った)(呼んでいないのに来ると言った)(この感覚に、名前がなかった)


 エリュシアがネネの隣を通り過ぎながら内心でメモした。(ネネさんの顔が少し違います)(書けません)(書きます)

(いえ、その前に魔界って最後に行くとこですよね?!)

(敵の本拠地に行くってことですが、あーもういろいろとアレですわ!)

(とにかく勢い!もうどうとでもなーれ!)


 そんな無茶苦茶な心情だったが、

「ネネ様、大丈夫ですか」とエリュシアが言った。気持ちが、声に出てしまった。


「何がだ」「……何でもありません」「そうか」


 二人とも前を向いた。それだけだった。


「師匠!!」とアルスが立ち上がった。また二着目の上着が少し突っ張った。「魔界に行くんですか!!」


「そうだ」


「はい!!腕立て五十回してから行きます!!」


「移動しながら五十回にしろ。出発が遅れる」


「了解です!!」アルスが泣きながらその場で腕立てを始めつつ、旅立ちの準備もしだした。


「イチ!!ニ!!サン!!パーフェクトマッスルボディへの道は一回一回の積み重ねです!!」


「黙ってやれ」


「ハイ!!シ!!ゴ!!――筋肉が、喜んでるよ~~っ!!」


 トルネコが小声でギルに「……腹筋マン、本気でっせ」と言った。ギルはもう何も整理するのをやめていた。


 フィオは自分の腰にある魔道銃を触りながら、アルスを遠目に眺めていた。

(三万Gの弾が必要なときが来るかもしれない)(が、まだ使わない)(石はタダだ)と思った。


 そして、全員の荷物が玄関前に並んだ。いよいよ出発という段で、田中のザックから「グゥ」の鳴き声。


「……出てこい」


 荷物の口からグラが顔を出した。得意そうな顔だった。


「邪魔だ」


「グラ」


「肩に乗れ」


「グゥ」


 グラがザックから飛び出して田中の肩に戻った。ネネが「(荷物に入っていたのか)(バレるとわかって入っていたのか)(この翼竜は)」と内心で整理した。


 エリュシアが「(荷物管理にグラ費目が必要になりそうです)(書類様式を更新します)」とメモした。


 トルネコが小声で「翼竜も込みの先行投資でっせ」と言った。田中は何も言わなかった。それが答えだった。


挿絵(By みてみん)


******


**その頃、神界では――**


 報告書が二枚、同時にウルダの机に届いた。


「魔界反乱レポートです。組織化確認。四天王・第二席次グレインが現在対応中とのことです」


「もう一枚は」


「田中剛、魔界へ向かうとのことです」


 ウルダが二枚の書類を持ったまま、動かなくなった。


「……田中が、魔界へ」


「はい。向かいます」


「……魔界へ」


「……はい」


 頭を抱えるウルダ。


「……寛大に、見守ります」


「寛大です」


 部下が小声で隣に言った。「今日は三回ありました」「魔界と田中案件が重なると増えるようです」「……寛大ですね」「寛大です」



**※おじさん解説!**


 悪魔城ドラキュラというゲームがある。コナミが一九八六年に出した横スクロールアクションだ。主人公が(むち)一本で吸血鬼の城に乗り込み、骸骨騎士やコウモリを一体ずつ仕留めていく。顔色一つ変えない。鞭を振る。倒す。前に進む。ある種の人間は、理由を言わないまま動く。習慣というのはそういうものだ。常識だろうが。


******


**ゾルグ魔界管理日誌 第十四回**


 三行報告が、成功しました。反乱・組織化・ネネ様の名前を使っている。以上。田中さんが「行く」と言いました。


 なぜ泣きそうなのかわかりません。でも泣きそうです。以上です。


******


**神界業務日報 第六十四回**


 朝、田中さんがいませんでした。ネネさんもいませんでした。帳面に何か書き足されていました。理由は聞きませんでした。


 本日の業務:魔界へ向かう決定。田中さんが一秒で「行く」と言いました。ゾルグさんが三行報告に成功しました。成長しています。アルス様の上着が二着破れました。被服費を計上します。


 以上です。


******


**魔王の家計簿 第六十四回**


 朝の支出:0G。ダンジョン浅層に入った。田中がいた。何も言わなかった。我も何も言わなかった。スライムを倒した。

 

 経験値(けいけんち)を得た。グラも来た。「グゥ」と鳴いた。一周した。記録する。


 田中が「行く」と言った。魔界に来る。


 千年、魔王をやっているが、我の危機に「行く」と言った者が実際に来たことは、なかった。


 記録する。支出:0G。


【現在のステータス】


勇者 田中剛 LV:6 チート:無効

魔王 ネネ  LV:4 魔力:低下中

女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)

アルス LV:12

 筋肉量:LV基準値の347%超過/鎧:入らない/上着在庫:残一着/体脂肪:完全除去済み

 ※神界書類様式に「LV超過筋肉量」の記載欄なし(エリュシア:申請予定)

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